第13話 ギフトという能力の事を聞きました



 あれから2時間くらいが経ったと思う。

 時計がないので確認は出来ないが、体感だとそれくらいだ。

 何度かライラさんとゲルダさんが、お茶とレオ用の牛乳のお代わりを持って来てくれたけど、空腹を我慢するために紅茶ばかり飲んでたらお腹がタプタプになってしまった。

 さすがに紅茶を飲み過ぎたので一度ライラさんに頼んでトイレに行ったが、さすがに水洗トイレではなかった。

 レオのトイレも、一回裏庭に出してもらって済ませた。

 その時見た裏庭は確かにレオが遊びまわっても大丈夫な程の広さがあった。

 この豪邸を裏庭も含めた土地の広さを日本で持とうとしたら一体いくらかかるのかわからないが、そんな事を考える俺は庶民なんだなぁとつくづく感じてしまった。

 たまにレオを撫でたりして構ってやりながら、客間にあるセンスの良い調度品を見て過ごしていたら、ドアがノックされセバスチャンさんとクレアさんが入って来た。


「タクミさん、ありがとうございました。おかげでラモギの薬が出来たので、今しがたティルラに飲ませて来ました」

「そうですか。薬は効きそうですか?」

「はい。薬を飲ませてすぐに、寝ていながらもうなされていたティルラお嬢様が落ち着かれました。少しではありますが、熱が下がって来ているようです」

「それは良かった、早く良くなると良いですね」

「はい」

「それで、タクミ様。クレアお嬢様からお聞きしたのですが……タクミ様が触ったラモギが一瞬で薬に出来るくらいに乾燥したと……」

「あー。確かにそうですね。何故かはわかりませんが、俺がテーブルから落ちるところだったラモギを拾ってテーブルに戻そうとした時には乾ききってましたね」

「……そうですか……」

「セバスチャン、何かあるの?」

「いえ……確証は無いのですが、もしかしたらギフトが関係あるのかもしれないと思いまして」

「ギフト……ですか?」

「ギフトってあの?」


 何だろう、ギフトって……。

 言葉の意味そのままなら贈り物ってだけだけど……ラモギが乾燥した事と関係があるのかな?


「そうです。タクミ様には説明した方がよろしいですね?」

「お願いします」

「ギフトとは、別名『神からの贈り物』と言われております。数百万人に一人、ギフトを授かって産まれて来る子供がいる可能性があるとされています」

「神から……」

「私もセバスチャンもギフトを持った人を見た事はありません。ですが、ギフトを持った者は特定の事に関して他の追随を許さない能力を発揮するらしいのです」

「現在この国ではギフト所持者は確認されておりません。ですが……過去には確かにいたという文献が残っております」

「特定の事っていうのは何ですか?」

「ギフト所持者はそれぞれ何かしらの能力に秀でる事が多いのです。曰く、鍛冶能力のギフト所持者が作れば何物であろうとも簡単に斬れる剣を作ることが出来る。水のギフトを贈られた者はどんな場所でも水を出す事が出来るため飲み水に困らない。魔法のギフトを贈られた者は通常よりも発動した魔法が強く、どんな魔法でも簡単に操る事が出来る。賢者のギフトが贈られた者はあらゆる事を見通し、全ての理を理解する事が出来る。等ですな」

「……魔法……」


 セバスチャンさんによるギフトの説明の中で、魔法って単語が気になった。

 異世界には付き物らしいけど、やっぱりこの世界にも魔法ってあるのかな?


「ラモギのような植物をすぐに乾燥させる魔法というのは聞いた事がありません。考えられるなら……火の魔法で乾燥を早める事くらいでしょうが、タクミ様は一瞬で乾燥させたとの事。魔法では不可能と思われます」

「それに、魔法を使ったら魔力が感知出来るはずなのに、そんなものは全く感知出来ませんでした」

「……」

「魔力が感知出来ず、魔法でもあり得ない事を成し遂げる。おそらくギフト以外には考えられないかと」

「あと、タクミさんが先程仰っていた、異世界からという話の中で特別な力という内容がありました」

「……はい、そうですね」


 異世界に転移や転生したら何かしら特別な能力を与えられるってのはよく聞く話だ。

 確かにさっきもその話をしたな。


「レオ様がシルバーフェンリルに変化した事だけがその特別な力の全てでは無く、タクミさんにも特別な力が与えられていたのではないかと私は考えています」

「特別な力を与えられる。それが神から贈られたギフトではないかというわけです」

「ギフト……ですけど、ラモギを乾燥させるだけなんて変な能力……あるんですか?」

「同じ能力というのは、私共が見た事のある文献ではありませんでした。ギフトは唯一無二の能力らしく、同じ能力というのは無いようなのです」

「タクミさん、もしかしたらラモギを乾燥させたのは能力の一端なだけで、本来は別の能力があるのかもしれません」

「別の能力……」

「ええ。ギフトの能力がどんなものかを調べる物があるので、それを使えばタクミさんがギフトを持っているのかどうかがわかるはずです」

「そんな便利なものがあるんですか?」

「本来、ギフトを調べる物ではなくて魔力量を調べる物なのですが、何故かギフト能力の事が判るのです」

「これを最初に作った人物がギフト能力者だったので、それが要因なのかもしれません」

「成る程……では、調べてみましょうか」


 便利な能力があるというなら、調べてどんなものか知りたい。

 知る事でその能力をどう使うか考えられるからな。

 まぁ、植物を乾燥させるだけって可能性もあるから、がっかりする事になるかもしれないけど。


「タクミさん、調べるための物はさすがにここにはありません。街に行けばありますので、今度調べに行きましょう」

「そうなんですね、わかりました」


 街か……異世界の街ってどんな所なんだろう?

 イメージでは中世とかの感じだけど、この屋敷を見る限りではそう遠くは無さそうだ。


「それではタクミさん、夕餉の支度が整ったようなのでこちらに運ばせますね」

「あ、そうでした。お腹がもう限界ですね。すみませんが、お願いします」

「畏まりました。料理をこちらにお持ち致しますので、少々お待ち下さい」


 そう言ってセバスチャンさんは一礼をして部屋を出た。


「すみません、タクミさん。薬の事があったので、随分遅くなってしまいました」

「いえいえ。妹さん、ティルラさんのためですから、気にしてませんよ。まぁ、ちょっとお茶を飲み過ぎてタプタプになりましたけどね」

「まぁ、タクミさんったら。お茶ばかり飲んでもいけませんよ。私もお腹が空きました、今日は遠慮せず満足するまで食べて下さいね。ちゃんとレオ様の分も用意させていますので」

「はい、ありがとうございます」

「ワウ!」


 ようやく晩御飯が食べられるようだ。

 レオもソーセージが来る事を期待して上機嫌になった。

 そういえば魔法の事を聞きそびれたな……まぁ、そのうち話す事も出来るだろうから、今はこれから運ばれて来る料理に集中だ。

 こんな立派な屋敷で出される料理、しかも専属の料理人が作る物だから美味しいに違いないと期待しながらセバスチャンさんが戻るのを待った。



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