第12話 ラモギを乾燥させることが出来ました



「それでなのですが、タクミさん」

「はい」

「タクミさんの話が本当なのであれば、タクミさんはこちらに頼りになる人や伝手なんかは無いのでしょう?」

「そうですね。この世界で知っている人と言えば、今この部屋にいる人達だけです」

「そうですか。それでしたら、しばらくの間我が屋敷に滞在してはどうでしょうか? 助けてもらったお礼も言葉では伝えましたが、他にはまだ何もしていません」

「お礼とかは別にいいのですが、こんな立派なお屋敷に居て良いんですか?」

「タクミさんさえ良ければいつまででも。それに、妹のティルラの病が治ったらお礼をしたいと思うでしょうし」

「そうですか……では、この世界での生活が出来るようになるまでどれくらいかかるかはわかりませんが、しばらく滞在させて下さい。よろしくお願いします」

「はい。セバスチャン、ライラ、ゲルダ、話は聞いていたわね? タクミさんは私の客人になります。失礼の無きよう接する事。それと、急ぎ部屋を用意して頂戴」

「畏まりました」

「はい!」

「は、はい!」


 クレアさんの言葉を聞いた三人がすぐさま部屋を出て行く。

 部屋の用意までしてもらっていいのかな。

 適当にその辺で寝ても良いんだけど……。

 あ、ライラさんお茶ありがとうございます。

 部屋を出る前に俺とクレアさんのカップが空なのに気付いたライラさんが、ポットからお代わりを注いでくれた。


「そういえば、妹さん……ティルラさん……でしたか?」

「はい。ティルラ・リーベルトが私の妹の名です」

「そのティルラさんの薬の方は、もう準備出来たんですか?」

「それが……ラモギを薬として使用するには採って来た花を刻んだうえで乾燥させないといけないようなのです。なので、早くても明日の昼頃になると言われました」

「そうですか。あーそれと、薬にするラモギの数は足りましたか? 確か採って来たのは5本だけだったと思いますが」

「数の方は十分です。ティルラの病に使用するのは1本で十分だったようで、5本は多いと言われました」


 そう言いながらクレアさんがラモギの花を4本取り出す。

 薬に使用する分以外は持っていたんだろう、それを苦笑しながらテーブルの上に置いた。


「1本で十分だったんですね。5本も採らなくて良かったかなぁ。まぁでも、また誰かが同じ病に罹った時のために保存しておいても良いですね」

「そうですね。残ったラモギは保存して、次また誰かが同じ症状の病に罹った時に備えましょう」

「……ワフ……ワフ?」


 のんびりと、紅茶を飲みながらクレアさんとそんな話をしていたら、レオがラモギに興味を示したのか顔を近づけて鼻をスンスンさせ始める。


「レオ、それは食べ物じゃないから食べちゃダメだぞ」

「お腹が空いてるのかもしれませんね。そろそろ夕餉の時間になりますから」

「日が暮れて来ましたね」

「料理人達に用意させましょう。私もお腹が空きました……森に行ってラモギを採って来る事しか考えてなかったので、昼も食べてませんでした」

「ははは、それはお腹が空きますね。俺はクレアさんと会う前にレオが倒したオークを焼いて食べたくらいです……あれは多分、昼前でしたね」

「ふふ、タクミさんもお腹が空いてるようですね。では、用意をさせましょう。今日はタクミさんの歓迎会です」

「あまり豪勢な食事とかは勘弁して下さい。作法とか慣れてないので」

「作法は気にしなくても良いのですよ。私と使用人達だけですからね。あ、レオ様は何を食べられるのでしょうか?」

「こいつは、そうですね……ソーセージってありますか? レオの好物なんです。……こう、肉を詰めて調理した物なんですが……こっちの世界でもあるのかどうか……」

「こちらにもありますよ。ふふふ、今度タクミさんの世界とこちらの世界で有る物と無い物を比べてみるのも面白いかもしれませんね」

「そうですね。……レオ、ソーセージが食べられるぞ」

「ワフ? ワウワウワウ!」

「そうか、嬉しいかー」


 レオにソーセージと言ってからの反応が凄い。

 尻尾を振り回して、俺に飛びついて来ようとするくらいの勢いだが……待て! お前のその巨体だと俺が潰れる!


「……ワウ?」


 なんとかレオを落ち着かせて、俺の上に乗るのを防いだ。

 異世界に来て色々順調に行きそうだって時に潰れて終わりなんて、笑い話にもならないからな。

 落ち着いたレオの頭を撫でようと手を頭に近付けると、レオが顔を上げて俺を見た。

 その拍子でテーブルに置いてあったラモギが落ちる。

 レオが興奮していた時既にテーブルが揺れてラモギが端に行き落ちそうになっていたんだな。


「あっ」

「おっと」


 3本をなんとか床に落ちる前にキャッチ。

 床に落ちた1本はクレアさんが拾うために手を伸ばした。

 俺はラモギをテーブルに置こうとして、何となく花を見つめながらこれが薬になるんだなぁと不思議に思った。

 日本では煎じる前の物なんて見る機会がほぼ無い。

 薬局とか病院で出される薬は既に加工され、錠剤や粉末になった物だからな。

 このラモギと同じかどうかはわからないが、カワラヨモギが解熱作用があるという事は知識として知ってる。

 けど、実際それを薬として使う場面なんか見た事がない。

 ……確か、花を刻んで乾燥させる事で薬になるんだったかなとぼんやりと考えていた。


「タクミさん?」

「……あぁ、すみません。ぼんやりして」


 ぼんやりしてたせいか、クレアさんに心配そうな顔をさせてしまった。

 慌てて手に持っていたラモギをテーブルに置こうとして異変に気付く。


「……えっと……クレアさん、これって……」

「え?」


 手の中にあったラモギをクレアさんに見せる。


「……乾燥……してますね……」

「ですよね……さっきテーブルから落ちるまでは採った時と変わらず乾燥なんてしてなかったのに……」

「タクミさん……何かしました?」

「いえ、ただテーブルから落ちる前に拾っただけですけど……」

「そう、ですよね。私から見てもそれだけでしたし……」

「ワウ?」


 不思議な事が目の前で起こり、信じられない顔をしてる俺とクレアさん。

 俺達の顔を見てレオは首を傾げていた。


「……あ、そうだクレアさん。これなら薬に使えるんじゃないですか?」

「はっ! そうですね! しっかり乾燥しているようですし。すぐにセバスチャンに伝えて来ます!」


 クレアさんは俺の手から乾燥したラモギを受け取って、部屋を慌てて出て行った。

 俺とレオしかいなくなった部屋に、俺のお腹の音だけが響く。


「……これは晩飯……もう少し後になりそうだな……まぁ、薬を病気の人にあげる方が優先なのは当たり前か。……しかしさっきのはなんだったんだろうな……」

「ワウ……ワウワウ」

「レオ、ソーセージはもうちょっと待ってくれ」

「……ワゥ」


 心なしかしょんぼりしたレオを撫でながら、さっきの不思議な現象の事を考えつつ、誰かが来るまで客間にて待ちぼうけになった。


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