第11話 異世界から来た事を話しました



「森で起きた時に驚いた事がありまして」

「……それは?」

「ええと……レオが大きくなっていたんです」

「え? レオ様はシルバーフェンリル。大きいのは当たり前の事では?」

「そのシルバーフェンリルというのがどういうものかはわかりませんが、元々レオは俺が簡単に抱き上げられる程小さい犬だったんです」

「「「「……」」」」

「ワフ?」


 クレアさんとセバスチャンさんだけでなく、同じ部屋で話を聞いていたライラさんやゲルダさんも訝し気な顔をしてレオを見てる。

 皆に注目されて何事かとレオは首を傾げてる。


「タクミさん、レオ様が大きくなったというのは本当なのですか?」

「はい、本当です。レオは俺が数年前に捨てられていたのを拾って育てたのですが……俺が抱えられる程の大きさで大人の大きさだったはずなんです」

「シルバーフェンリルの子供を育てて大きくなったのではないのですか?」

「はい。先程シルバーフェンリルは家族を大事にする種族であり、子供が捨てられる事は無いと聞きましたが、俺が拾った時には確かに捨てられていましたし、辺りに親がいた様子はありませんでした」

「……そうですか」

「なので俺が考えた結論としては、シルバーフェンリルを従えたとか育てたのではなく、俺が拾って育てた犬がシルバーフェンリルに変化したと考えています」

「……成る程。最初からシルバーフェンリルではなかったという事ですね」

「はい」

「ですが、そんなタクミさんが抱えられる程の大きさの生き物がシルバーフェンリルに変化するなんて、聞いた事がありません」

「その事についてなのですが……」

「?」


 さすがにこの先は言いにくい。

 信じてもらえるかどうかという事もあるが、俺自身まだ半信半疑な事だからだ。

 でも、ここまで話したんだから言っておかないといけないよな。


「俺は、多分異世界から来たんだと思います」

「……異世界?」

「はい。こことは違う世界です。この世界のあの森に来てから俺が見た物は知らない物だらけでした。シルバーフェンリルになったレオもそうです。オークなんて俺の世界だと本の中に出て来る以外ありませんでした」

「それで魔物を知らなかったんですね。この国に住む者、いえ……タクミさんの言い方をお借りすると、この世界にいる者にとって魔物の事やオークは子供でも知っている事です。……ですが異世界……ですか……」

「すぐに信じられないのも無理はありません。俺もここが異世界だという事をまだ完全に信じているわけではありませんから」

「そうなのですか?」

「ええ。もしかしたらまだ俺は寝ていて、今も夢の中でこうして話しているんだと考えてる部分もあります」

「……」

「まぁ、ここまで色々行動をしているのに目が覚めないという事や、俺は今までクレアさんと会った事も無いのに夢に出て来るというのもおかしな話なので、段々と否定は出来なくなっていますけどね」

「そうですね、おそらく夢では無いと思います」

「はい。ですが……夢でないとしたなら、考えられる事が異世界という事になってしまったんです」


 魔物が出たり、金髪の美人さんと出会ったり、あの小さくてかわいかったレオがこんなに立派になったり……夢でなきゃ異世界と考えるしかないだろう。

 ……他に何もないよね? きっと。


「それで、俺達の世界では本の中等で異世界へ移動するというお話はありました。その時何か特別な力を授かるという事が多かったと思います」

「特別な力……」


 同僚に見せられたラノベとかではそういう設定が多かった。

 チートって言うんだっけ? そういった能力をもらって異世界で最強になるって話だ。

 アニメや漫画でも異世界に突然行ってしまったという話を見た事もある。

 あまり詳しくはないが、大体そういう場合は何かしらの能力が与えられてるという事が多かったと思う。


「その特別な力というのが、レオの変化なのかもしれないと考えています」

「レオ様が……」

「元々小さな犬だったレオですが、この世界に来た事で特別な力を授かりシルバーフェンリルになった……という事なのではないかと」

「……」

「まあ、俺が異世界に来るのにレオが巻き込まれたのかもしれませんから、レオにとっては迷惑な話かもしれませんけどね」

「……ワフ……ワフワフ」

「ん? ちょ、レオやめろって。迷惑と思って無いんだろ? わかったから」


 俺の話に反応したレオが俺の顔をベロベロ舐め始めた。

 レオとしては俺と一緒に居られるから迷惑なんて事は無いと伝えたかったっぽいな。

 この世界に来て、以前よりレオの言いたい事がわかるようになった気がする。

 まぁそれはレオの方も俺の言葉を理解してる気もするからお互い様なのかもしれないな。

 舐めるのを辞めさせ、おとなしくなったレオの頭をしっかりと撫でておいた。


「お嬢様、今の話ですが……」

「セバスチャン、信じられないような荒唐無稽な話だというのは分かってるわ。でも、私は他ならぬタクミさんの言う事……信じてみようと思うわ」

「……そうですか。クレアお嬢様がそう御思いになられたのでしたら、私からは何も申しません。……それに、クレアお嬢様は人を見る目が確かだと私は考えております」

「ありがとう、セバスチャン」

「私も、お嬢様の目は確かだと思います。実際お嬢様に見出だされて、この屋敷やリーベルト本邸で使用人を勤める者は皆、確かな働きを見せております」

「私もお嬢様によってこの屋敷に雇われました。お嬢様に恥じる事の無いよう精一杯務めさせて頂きます!」

「ライラ、ゲルダも……皆、ありがとう」

「ワフー」

「フフ、レオ様も信頼してくれますか、ありがとうございます」

 

 クレアさんは皆からの人望が厚いようだ。

 妹のために屋敷を飛び出して薬草を探しに行くくらいだから、人情に厚いのだろうな。

 俺は目の前で繰り広げられる信頼関係の確認を微笑ましく見ている。

 やっぱ、信頼できる上司と部下っていいよな、俺の職場では上司が部下に無理を言って部下が上司のいない所でひたすら陰口を言うって場所だったから……。


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