第9話 客間でメイドさんと話しました



 メイドさん二人に案内され、俺とレオは客間へと来た。

 通された客間は広く、多分10人以上は楽に過ごせるんじゃないかという部屋だった。

 あの天井から釣り下がってる照明……シャンデリアってやつかな、初めて見た。

 あんな高い場所のろうそくに火を付けるとか大変だろうなー。


「それでは、お茶を用意して参りますのでしばしお待ちください。……レオ様は何をお出しすればよろしいでしょうか……?」

「あぁ、こいつは……水か牛乳でお願いします」

「畏まりました。では」

「しばしお待ちください!」

「お構いなくー」


 メイドさんがお辞儀をして部屋を出て行ったけど、こういう時お構いなくなんて言ってしまうのは日本人の性なんだろうか。

 扉が閉まる前にゲルダさんが少しだけ笑ってるのが見えた。

 ……まあすごい緊張してたから、それが解れたのならいいか。

 このまま立ってるのもなぁと思って、部屋の真ん中にあるテーブルへ近づき椅子へと座った。

 レオも俺の座ってる椅子の横に来て伏せの体勢。

 リラックスしてるようで何より、レオが警戒してないって事は危ない事はないんだろうと思う。

 オークとかも察知してくれてたしな。

 まぁ、助けてくれた人を招いて危ない事を仕掛けるなんて事をクレアさんはしないだろうが、念のため。

 知らない場所に来て、もしかしたら異世界かもしれない場所だからという考えで、ちょっとだけ警戒してる。

 ……まだ夢である可能性も捨ててないけど。


「ワウ?」

「夢じゃないのかもなぁ。レオがこんなに大きくなってるのはいまだに信じられないけど」

「ワフワフ」

「レオ、遊びたいのか?」

「ワフ!」


 遊びたそうに吠えるレオを撫でながら、客間を見渡す。


「……さすがにここじゃ遊べないな」

「……ワフー」


 レオの大きさは人が数人乗れる程。

 今は伏せていて顔を俺に向けてるだけだが、立ち上がれば俺が見上げる程だからな。

 伏せてても俺が座った時の顔までの高さと大きさがあるし……。

 この屋敷が大きくて助かった。

 じゃないとレオが中まで入れるスペースなんて無かったんじゃないかな。

 とは言え、さすがに客間が広くてもレオとじゃれ合ったり遊んだりする場所は無いな。

 ……後で庭にでも出て遊んでやるか。

 ただ……門から玄関までの間で見た限り、立派な庭だったから物を壊したりしないように気を付けないと。

 考えながらレオの頭をガシガシと撫でていると、客間のドアがノックされて開いた。


「失礼します。お茶をお持ちしました」

「しました!」


 器用にお茶を淹れた白いカップをお盆に乗せたまま、お辞儀をするライラさん。

 ゲルダさんはやっぱりまだ緊張してるようだ。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 俺が座ってる場所まで来て、前にあるテーブルへと静かにカップを置く。

 ゲルダさんはバケツくらいの大きさはある物に牛乳を入れて来たらしい。

 それをレオの前に恐る恐る置いた。

 ……確かにレオって見た目だけだと怖い狼に見えるからなぁ。

 女性が恐がっても無理はないと思う。


「レオ、ちゃんと頂きますをして飲むんだぞ」

「ワウ!……ワフワフ」


 一度俺に返事をするように吠えて、ゲルダさんへと顔を向けて軽く吠えた。

 レオなりの頂きますなんだろう。

 ゲルダさんはレオに吠えかけられて体をビクッとさせてたが、レオなりの挨拶だとわかったのか、小さめの声で「どうぞ」と言ってる。

 レオが勢いよく牛乳を飲み始めた事だし、俺も飲みますか。


「……ん。おいしいですね」

「ありがとうございます」

「ワフ!」

「……ありがとうございます」


 レオもちゃんとゲルダさんに感想を言ってるようだ。

 お茶がおいしくてほとんど一気に飲んでしまった。

 レオが勢いよく飲んでたが、俺も同じようなものだったようだ。

 飼い主と飼い犬は似るって言うけど、本当かもしれない。

 ……少しだけ恥ずかしい。


「お代わりは如何でしょうか?」

「……お願いします」

「畏まりました」


 お茶のカップと一緒に持って来てたポットの様な物から、お代わりを淹れてもらう。

 またお茶のおいしそうな匂いが漂って来た。

 というか今更だけど、これって紅茶かな?

 あまり詳しくないけど、缶やペットボトルで売ってる紅茶くらいは飲んだことがある。

 あれよりも爽やかな味と香りだけど。

 紅茶を楽しむのも良いけど、ゲルダさんがレオを見て怖がってるのが少し気になる。

 見た目的に仕方ない事かもしれないけど、話しかけたら少しは緩和されるだろうか。


「……ゲルダさん、でしたっけ?」

「はい!」

「レオは人を襲ったりしないので、怖がらなくても大丈夫ですよ」

「……すみません」

「申し訳ございません、タクミ様。ゲルダ、そういった様子をお客様にお見せするものではありませんよ!」

「……はい」

「あぁ、いえいえ。怒ってるわけじゃないので良いんですよ。確かにレオのこの見た目は怖いですからね。女性の方が恐がるのもわかります」

「私はレオ様はかわいらしい方とお見受けしましたが」

「そうなんですか?」

「はい。タクミ様に付いて離れず、ご主人様を守ろうとしているように見えました。それに、ゲルダに対しても怖がらせないようにと小さく声を出しておられました。こんなに大きな体なのに、何となくかわいらしいじゃありませんか」

「ははは。そうですね、レオは女の子なので怖いよりもかわいらしい奴ですよ」

「……女の子だったんですか」


 ライラさんはレオの仕草を見てかわいいと思ったようだ。

 ゲルダさんはレオが雌だと聞いて驚いてる。


「ゲルダさんと同じく可愛い女の子なんですよ。だから、出来ればで良いので怖がらないで上げて下さい」

「……私が可愛い……はっ……はい、わかりました!」

「ふふ、タクミ様は口がお上手のようですね」

「いえ、思った事をそのまま言っただけですよ」


 ゲルダさんって緊張しっぱなしだからな、新人っぽいけど頑張ってる感じが可愛いと思った。

 まあ、雰囲気だけじゃなくて実際見た目も可愛いんだけど……俺ここに来てからクレアさんといい、メイドさん達といい、美形の人しか見てないな……セバスチャンさんも歳は取ってるが美形の紳士だったし、他に見かけた執事さん達も……。

 ……なんか平凡な顔をしてる自分が少し肩身の狭さを感じる。

 

「ワウ……ワフワフ」

「何だレオ、慰めてくれてるのか?」

「ワウワウ」


 ちょっぴり落ち込んだ俺に気付いたレオが顔を寄せて慰めてくれた。

 ありがとうなレオ。

 でも、牛乳を飲んですぐに顔を舐められたら牛乳が付くから今度からは止めような……。

 ポケットからハンカチを取り出して顔を拭いておいた。

 ライラさんとゲルダさんに微笑ましく見られてるのが恥ずかしい。



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