第8話 お屋敷に招かれました
「なんと……オークに……タクミ様、本当にありがとうございました。お嬢様が森に薬を取りに行くと言って屋敷を飛び出した時はどうしようかと……今しがた、森へ向かう部隊を集めているところでした」
「ははは、大したことはしてませんよ。それに実際助けたのはこのレオですから」
「ワウ」
何度も俺に礼を言って来るけど、本当に俺は何もしてない。
ただ森から出ようと移動してたらクレアさんを見つけただけだ。
実際オークを倒したのはレオだからな。
誇らし気な顔をしてるレオの頭を撫でながら、セバスチャンさんに説明する。
「タクミ様は従魔を使ってお嬢様を助けられたのですな。しかしこの従魔……まさか……」
「セバスチャン、私はこのレオ様が爪でオークを切り裂いたところを見たわ。あれは間違いなくシルバーフェンリルだから出来る事だと思うわ」
「見た目からしてもしやとは思っていましたが、まさか本当にシルバーフェンリルとは……いや、文献等では存じておりましたが、この目で見られる日が来ようとは」
「そうね、私もまさか見られるとは思っていなかったわ」
「シルバーフェンリルはこの国の象徴であり、絶対不可侵な存在。まさかそれを従魔として従える事が出来る方がいたとは……」
「……いえ……従えてると言うか、数年前に拾っただけなんですけどね……懐いていますけど、こいつは従魔だとか従えてるとかじゃなくて、相棒だと思ってます」
「ワフワフ」
「……シルバーフェンリルを拾う……そんなまさか……」
俺の言葉を聞いたレオが顔を寄せて来るから、また頭を撫でておいた。
でもセバスチャンさんは俺が言った相棒だとかより、拾ったという事に驚いてるようだ。
「タクミさん、シルバーフェンリルは家族を大事にする種族としても有名なんです。そんなシルバーフェンリルの子供を拾うなんて、普通は近くに親がいるはずだから出来る事じゃないと思います」
「……そうなんですか」
まあ、シルバーフェンリルじゃなくてマルチーズだからなぁ。
ダンボールに入れられて道端に捨てられてるのを見つけただけだ。
親らしい犬は見当たらなかったし、多分生まれて来た子犬を育てられない事情があって捨てたんだろう。
「タクミ様は一体どのような……」
「タクミさんの事は後でじっくり聞かせてもらえばいいわ。それよりティルラよ。まだ熱が下がらないのでしょう? タクミさんがラモギを発見してくれたの。これでティルラも治るはずよ」
「なんと、ラモギの発見まで。タクミ様には何とお礼を申し上げて良いか」
「とりあえず、ここでこのまま立ち話をしてるのもなんだし、まずは屋敷に入りましょう」
「失礼しました。タクミ様、ようこそリーベルト家の別荘へ。私を始め使用人一同歓迎致します」
そう言ってセバスチャンさんは礼をしながら屋敷の入り口を大きく開け俺達を中へと促した。
クレアさんは勝手知ったる我が家だからか、何も気にすることなく中に入って行ったし、レオもその後ろを悠々と歩いてついて行ってる。
俺、こんな豪華な屋敷に入ったり、執事の人に歓迎されたりとか経験した事無いんだけど、作法とかって大丈夫なんだろうか……。
出来るだけ表に出さないように気を付けながら、内心はオドオドしつつ屋敷の中に入る。
「「「「「「お帰りなさいませ、クレアお嬢様!」」」」」」
屋敷の中に入ると、玄関ホールと思われる場所でメイドさんやセバスチャンさん以外の執事さんが並んで出迎えられた。
建物の事より、そっちの方が圧倒された。
セバスチャンさんが使用人一同って言ってたから、何人かいるとは思ってたけどこんなにいるとは……。
総勢20人くらいかな。
「出迎えご苦労様。セバスチャン、このラモギをお願い」
「畏まりました」
「この方達は私を助けて下さった方です。丁重にもてなして下さい」
「「「「「はい!」」」」」
クレアさんが大事にしまっていたラモギをセバスチャンさんに渡しながら、他の使用人達へ声を掛ける。
それに返事をした使用人達は、半分以上が散り散りになって解散し方々へ向かう。
その中からメイドさんが二人、俺の所へ来た。
「この度はクレアお嬢様を助けて頂きまして、ありがとうございます。私、お客様のお世話を担当させて頂きます、ライラと申します」
「同じくお世話を担当させて頂きます、ゲルダと申します」
「……はぁ。……よろしくお願いします」
メイドさんなんて初めて会ったからどう反応して良いかわからない。
メイド喫茶とか、通ってればわかったのかな。
メイドさんにも圧倒されっぱなしだが、この玄関ホールにも圧倒されてる。
さっきまで人が20人以上いたのに狭苦しさは微塵も感じない程広く、入り口から赤い絨毯が敷いてあって真ん中を通り、階段へと続いてる。
こんな玄関ホール……何かで見た事があるような……。
あぁ、あれだ。
ゾンビを銃で撃つホラーゲームだ。
以前同僚の勧めでやった事があるが、苦手なジャンルだったのと、仕事に時間を取られて最後まで出来なかった。
まあ、時間が余ったらゲームをやるより先にレオの相手をしてたのもあったけどな。
そのホラーゲームの最初に出て来る玄関ホールに似てるそこは、沢山の人がいるおかげで怖い雰囲気は感じなかった。
むしろどこか暖かい雰囲気だ。
メイドさんや執事さん達の顔が明るいからだろうか?
でもさすがに、夜中の誰もいないこの玄関ホールに来るのは止めておこう……。
「タクミさん、私はティルラ……妹の様子を見て来ます」
「あ、はい」
「ライラ、ゲルダ、粗相の無いように」
「はい、畏まりましたお嬢様」
「頑張ります!」
メイドさん二人に言い残して、クレアさんは階段を上がって行った。
妹さんが心配なんだろう、優しい人だな。
ライラさんは長い黒髪をした美人さんで、ゲルダさんは茶色い短髪でそばかすのある顔を緊張で強張らせている。
そんなに緊張しなくても、俺なんて適当に扱って良いんですよ?
「タクミ様、客間へ案内させて頂きます。こちらへ」
「こちらへどうぞ!」
「あ……と。レオ……こいつも一緒で大丈夫ですか?」
「はい。客間は十分な広さがありますので」
「大丈夫です!」
「それなら良かった。じゃあお願いします」
「ワウー」
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