第6話 薬草を探しました
「本当ですか!? ありがとうございます。タクミさんがいてくれれば、さっきのようにオークに見つかっても怖くありません!」
「ははは、俺は何もしてませんけどね」
「レオ様がタクミさんと一緒にいるというのはきっとタクミさんの力だと思います」
「……んーそうですかね」
「ワフ」
ただ道端で捨てられてたのがかわいそうだから拾って帰っただけなんだけどなぁ。
レオはそうだと言わんばかりに頷いてるし……。
……レオが言葉を理解して意思疎通するのに違和感が無くなって来たな。
「その薬草とはどんなものなんですか?」
「薬草はラモギと言います。特徴は……」
クレアさんから薬草の見た目や特徴を聞き、俺とレオも一緒に薬草を探し始めた。
特徴を聞いた時に思ったけど、もしかするとカワラヨモギの事かもしれない。
確か川辺に群生して解熱作用があるって聞いた事がある。
ただ、クレアさんはこの薬草の事をラモギと呼んでいたから、もしかしたら勘違いなのかも知れないけどな。
熱を出して寝込んでいる妹さんのため、症状に良く効く薬草がこの森にあると薬師に聞いて来たんだそうだ。
薬師って、薬剤師かな?
というか薬局に行けば解熱剤だとか風邪薬だとか売ってると思うんだけど……。
まあクレアさんが探したいと言っているので、それに付き合う事にした。
「見当たりませんね……」
「……この森の川辺になら生えていると聞いたのですけど」
「ワウワウ! ワフー」
飽きて来たのか、レオは早々に探すのを諦めて川で遊んでる。
レオの体は大きいから、小さいラモギを探すのは向いてないよな。
犬だったらにおいで……と思わなくもないが、そのラモギはどんなにおいがするのか知らないから探しようもないだろう。
レオにはしばらく好きに遊んでいてもらおう。
こういう川とかに連れて来てやった事もないしな。
しかし……結構な時間探してるが、聞いた特徴に当てはまる薬草は見当たらない。
下を見ながら移動し、それっぽい物を見かけたら屈んで確認しているが、慣れない作業のせいか少しだけ腰が痛くなってきた。
「んー」
「……ん」
俺が腰を伸ばすために後ろに仰け反っていると、それを見たクレアさんも同じ事をした。
多分、あっちも腰が辛いんだろう。
慣れない作業をするとどうしてもねぇ。
お互い体を伸ばした後、目が合って苦笑を交わしつつまたラモギを探す作業に戻る。
「……見つからないなぁ」
川を辿るように移動しながら探す作業の途中、いつまでも見つからないので、少し休憩しようと腰を下ろす。
地面に手を付いて腰を下ろしながら、ラモギの特徴をもう一度考えてみる。
茎が木質化して固く、葉は綿毛で覆われて全体的に白っぽく見える、茎から直接生えた花を取って薬として使う……と。
「ん?」
腰を下ろした時に地面に付けていた手の指の隙間から、探していたラモギと特徴が一致する植物が生えて来た。
地面からニョキニョキと合計5本のラモギが生えて来て、驚いて固まってる間に小さい木のようになった茎から花が生えて来る。
「……どういう事なんだ……?」
いくらなんでも目の前で、しかも目に見える形で植物が生えて成長していくなんて事があるわけがない……。
でも今俺はその光景を確かにこの目で見た。
……やっぱり夢なんだろうな。
とか現実逃避してる場合じゃない、クレアさんに知らせないと。
「クレアさん! ラモギを見つけました!」
「本当ですか!?」
「ワフ!?」
俺が叫んで少し離れた場所を探していたクレアさんがこちらに走って来る。
レオも川から上がり、体を震わせて水気を飛ばしながら駆けて来る。
「これ、ですよね?」
俺は近づいて来たクレアさんに、手で示して生えて来たラモギを見せる。
「……はい。間違いなくこれがラモギです」
「ようやく見つかりましたね」
「はい。タクミさんのおかげです。ありがとうございます!」
「いえいえ、クレアさんが一生懸命に探したからですよ」
「ワフ」
クレアさんが感激している様子で俺にお礼を言っているが、まずはこのラモギから花を採取しないと。
俺とクレアさんで、全部で5本あるラモギの茎から花を採る。
それを大事そうに革袋に入れたクレアさんは、再び先程の綺麗な礼をした。
「タクミさん、この度は本当にありがとうございました。貴方のおかげでこうして目的のラモギを手に入れる事が出来ました」
「ははは、いいんですよ。俺もちゃんと協力出来たならそれで」
「さて、私はこのラモギを持って一刻も早く戻らなければなりません。ですが……」
「ん?」
「先程のオークのせいで馬が逃げてしまいました……」
「あー。それじゃあ歩いて帰りますか?」
「それしかないでしょうね……早く妹に持って帰りたいのに……」
「焦っても仕方ありませんよ」
「……そうですね」
「ワウ? ワウワウ!」
「ん? どうしたレオ?」
レオが急に騒ぎ出したと思ったら、俺とクレアさんの前に出て背中を向けて座った。
もしかして、乗れって事なのかな?
「レオ、乗せてくれるのか?」
「ワフ!」
人が乗っても大丈夫なんだろうか……。
確かにレオの背中は4,5人乗れるくらいの大きさだけど。
「クレアさん、レオに乗って行きますか?」
「……シルバーフェンリルにですか……大丈夫なのですか?」
「ワウ!」
大丈夫と言うように一吠えするレオ。
それを見て決心したのか、クレアさんはゴクリと唾を飲み込んだ後、もう一度礼をした。
「……それではすみませんがレオ様、よろしくお願い致します」
「ワウ」
レオに乗る事になった俺達。
まずは俺がレオの背中に乗っかって、首元にしがみつく。
……馬とか生き物に乗った経験なんて無いからな。
レオの今までの走りからすると相当なスピードが出るだろうから、しがみついてないと振り落とされそうだ。
俺に続いてクレアさんも背中に乗っかる。
俺に似た体勢を取って前に乗ってる俺にしがみついて来たため、気になってたけど気にしないようにしてたクレアさんのお胸様が、背中で潰れる感触がして一気に顔が熱くなった。
「タクミさん、すみません」
「い、いいいいえ。だ、大丈夫です。このまま、このまま行きましょう!」
「はい、お願いします」
「ワウ? ワッフ!」
クレアさんは気にしてないんだろうか。
と言うより俺、動揺しすぎで恥ずかしい。
レオが「乗った? じゃあ行くよ」と言うように吠えて走り出す。
……あれ? ちょっと待って。
「レオ、行き先わかるのか?」
「……ワウ」
わからなかったらしい、すぐさま止まってちょっとしょんぼりしてる。
勢いだけで走り出そうとしてたのか。
目的地と進む先がわからないとどんな場所に辿り着くかわからないぞ。
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