第2話 森の中を彷徨いました
元々小型犬のマルチーズだったレオ。
今はそれが見る影も無く俺より大きな巨体になっており、口から見える歯は鋭く牙のように見えた。
顔付きは精悍でニホンオオカミみたいになっている。
……マルチーズだった時の可愛さが無くなってしまった。
レオは雌なはずなんだけどなぁ、こんなに格好良くなっちゃって。
写真とかで見た事のある狼は確かに雄雌関係無く格好良かったけどさ。
「お前、随分大きくなったなぁ」
「ワフ?」
レオに話しかけると、首を傾げて考える仕草。
こいつは拾った時から少しだけ不思議だった。
マルチーズは賢いとは良く聞く話だが、レオは子犬の時から妙に人間臭い仕草をする時がある。
俺が話しかけた言葉を理解してる風な事もあった。
他の犬と接したことは何度もあるが、レオ程こちらの言葉を理解してると思える犬は見た事が無い。
「というか、大きくなりすぎじゃないか? いつもは俺が抱き上げてたのに、これじゃ俺がお前に乗れそうだな」
「ワフー? ワウワウ!」
「何なら乗る?」とばかりに背中を向けたレオ。
……やっぱり俺の言葉を理解してるよな。
「まあ、お前に乗るのはまた今度な。とりあえずここが何処なのか確かめないと」
「ワフ」
俺の言葉を理解したのか、レオは立ち上がり森に顔を向けた。
俺もレオに続いて寝転がっていた体を起こし、立ち上がった。
そういえば寝る前に体がフラフラしていたのが無くなってるな。
というか寝た記憶もないんだけど、まあいいか。
それよりもここはどこだか確かめないといけないからな。
……今日は仕事に遅れそうだ……また怒られるなぁ。
「んー、木が邪魔であんまり遠くまで見えないな。とりあえず歩くか」
「ワフワフ」
適当な方向へ向かって歩き出す。
レオは俺の隣にくっ付いているが、その大きい体が木に邪魔されないのかな?
……器用に避けてるな。
それから結構な時間森の中を歩いたが、森が途切れる事は無かった。
薄暗い森の中だから、時間感覚も曖昧になってるな。
一応明かりが木々の間から少しだけ射して来てるから、まだ夜ではないんだろう。
このままじゃ森で遭難とか有り得るかもしれない……。
さすがに仕事には行けそうにないな。
「どうしたもんか……しかし喉が渇いたな……川とか無いのかな」
「ワフ? ワウワウ!」
俺がどうしようかと一人で呟いたのを聞いたレオが急に吠えて先導し始めた。
「どうしたレオ? 付いて行けばいいのか?」
「ワウ!」
俺の言葉に吠えながら頷いたように見えた。
絶対俺の言葉わかってるよな……。
……あてがあるわけでもないし、とりあえず付いて行くか。
ココホレワンワンとか言い出したりしないよな?
そんな冗談を考えて笑いつつ、レオに付いて歩いた。
元は白かったはずの毛は銀色に輝いて、艶やかな毛並みを風に靡かせて歩くレオの姿は格好良かった。
「ワウ」
しばらく歩いたところでレオが立ち止まり、俺の方を振り返って一度吠えた。
何かあったのかと思っていると、レオのいる方向から水の流れる音が聞こえた。
「この音は、川か?」
「ワフ」
再び歩き出したレオに付いて行くと、他の場所より木が開けた所に出た。
そこは透明で綺麗な水が流れており、木が密集してないせいか他の場所より明るい。
「空が見えるな。この日の高さだと、今は昼くらいか」
「ワフー。ガブガブ」
俺が空を見てるうちにレオが走り出し、川の中へ飛び込んでそのまま川の水を飲んでる。
この川の水は飲んでも大丈夫なのか気になったけど、レオが勢いよく美味そうに飲んでるから大丈夫なんだろう。
レオに続いて俺も川に近づいた。
流れる川に手を入れると冷たい感触が気持ち良い。
「ん……ゴク……ゴク」
それなりに森の中を歩いたからか、俺も結構喉が渇いていたらしい。
手で掬い上げた水だけでは足りず、顔を川に突っ込んで勢い良く飲み込む。
「プハァ!」
水を飲んで顔を上げる。
冷たい川の水で顔を洗ったようで気持ち良かった。
「少しここで休憩だな」
「ワウ」
流れてる川の近くに腰を下ろし、体を休める。
レオも満足したのか川から上がり、体を震わせて水気を飛ばして俺の隣へ来てお座りの体勢。
「ワウー」
リラックスしてるのか、座った俺の膝に顔を乗せた。
「……小さい時は膝に体を乗せられたけど、今は顔を乗せるのでいっぱいだな。顔だけでも前より重いし」
「ワウ!? ワウー!」
重いと言った事への抗議なのか、少し不満気な声を漏らしてた。
まあそんな姿になっても女の子だもんな、重いって言っちゃいけなかったか。
「さて……と。これからどうするかなぁ」
「ワウ?」
空を見上げながら考える。
いつの間にか知らない森の中にいた。
歩いて森から出られるか試してみたけど、未だに出られない。
このままだと遭難しそうだ。
レオのおかげで川を見つけたから水に困る事は無いが、食料がないのが不安だな。
さすがに野草に詳しくはないから、適当に採って食べるのは危険な気がする。
今まで歩いて来た森の木に果物が生ってたりはしなかったから、それにも期待は出来ないしな。
「…………どうしたもんか」
サバイバル知識とかほとんどないんだよなぁ。
俺はどちらかと言うとインドア派だからな。
学校の行事とかでしかキャンプなんてした事が無い。
本格的なアウトドアだとかあまりやりたいとは思わなかったし、それ以前に仕事で時間を取られ過ぎて就職してからはそんな事が出来る余裕も無かった。
「ああ……でもここ、空気はおいしいな」
「ワウー」
レオの返事っぽい声を聞きながら深呼吸をする。
川が近く、木々が生い茂ってる場所だからか、都会の空気とは全然違った。
森から出られるかどうかというのさえ考えなければ、こんなにのんびりしたのはいつ以来だろう……。
学校に通ってる時は、一人暮らしの生活費のためにバイト三昧だったしなぁ。
就職してからは休日なんて数カ月に一度なんて当たり前。
残業で日付が変わる頃に帰るのも普通だったから、休日があっても疲れを取るためにほとんど寝て過ごした。
もしかしたら、こんな自然の中でのんびりする事自体が初めてかもしれないな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます