第3話 見た事のない生き物と遭遇しました



「……すまんレオ、今まであんまり相手をしてやれてなかったな」

「ワウ? ワフー」


 今までを振り返った時、自分がのんびり出来て無い事よりもレオを構ってやれなかった事が気になった。

 拾って来てからは部屋に置いて、ちゃんと餌やり等はしてたが、散歩に連れて行く事も週に1度程度。

 俺が深夜に帰って来るのをずっと待たせてばかりだったな……。

 この森を出て自宅に戻ったら、まず今の仕事を辞めて、もっと時間に余裕のある仕事を探そう。

 仕事ばかりでお金を使うあても無かったから、就職してからの給料で結構貯金があるはずだ。

 それでとりあえずは暮らしつつ、のんびりとレオの相手をしてやろう。

 そんな事を考えてレオの綺麗な銀の毛を撫でてると、ふと顔を上げ、俺の頬を一回だけ舐めた。


「ワウ。ワフー」

「……気にするなって、言ってるのか?」

「ワウ」


 ありがとうレオ。

 お前のおかげで俺はこれまで寂しくなった事は無いぞ。

 少ししんみりしつつ、また膝に顔を乗せたレオを撫でて休んだ。

 しばらくして、さすがにそろそろ動かないといけないと思っていたら、レオが弾かれたように立ち上がった。


「どうしたレオ?」

「ウゥゥゥゥ!」


 レオは俺の問いには答えず、川とは逆の俺達が来た森の方を見て唸り始めた。


「どうした? 森の中に何かあるのか?」

「ウゥゥゥゥゥゥ!」


 俺がレオに話しかけても反応せず、そのまま森の方を見て唸り続けている。

 レオの唸りに何かあるのかと俺もそちらに顔を向けたが、木々が邪魔をして何があるかわからない。

 けど、レオの唸りと川の流れる音とは違う音が森の方から聞こえ始めた。

 草木を踏み、掻き分ける音。

 誰かが俺のいる場所へ近づいて来てる音だ。


「ウゥゥゥゥゥ!」


 レオがさらに牙を剥き出しにして唸った時、木々の間から音を出していた誰かが出て来た。

 誰か……それは見た事の無い生き物だった。

 人間くらいの身長で、二足歩行。

 手には槍を持ってこちらに穂先を向けてる。

 丸いお腹は肥満気味なのかもしれない。

 これだけなら人間と思えるけど、その顔が人間じゃなかった。

 豚の顔をしてたんだ。


「え? 豚? でも二本足で立ってるし……槍? え?」


 俺はその姿を見てただ戸惑うだけだった。

 目を覚ましたら見知らぬ森の中、やっと見つけた川で休憩してたら今度は豚人間(?)が出て来た。

 どうしたらいいのかなんてわかるわけがない。

 ……えっと……こんな姿をどこかで見た事があるような気がする……えー、どこだっけか……。

 ……あぁ! ゲームとかで見た! 確かオークとか言う豚の怪物だ!

 あまり詳しくはないけど、ゲームは多少やった事がある。

 まあ有名どころくらいだけど。


「って、え? オークだって? ほんとに!?」


 見た事も無い森の中だけど、ここって日本だよな?

 さすがに日本でこんな生き物が発見されたとか聞いた事は無い……。

 頭の片隅で、最近同僚が読んでたラノベとかいう小説の設定がちらついているが、それは無視。

 さすがに現実感が無い設定だったからな。


「ウゥゥゥ……。ガウ!」


 森から現れた生き物を見て俺がひたすら戸惑ってると、隣でオークと思われる生き物を見て唸っていたレオが急に飛び掛かった!


「ガウ! ガウウ!」

「ギュォォォォ!」


 レオが前足の爪で相手を切り裂き、止めとばかりに喉元に牙を突き立てた。

 素早いレオの動きはなんとか目で追えたけど、反応できる速さじゃなかった。

 ……強いんだな、レオ……。

 オークと思われる生き物は、悲鳴っぽい叫び声をあげて地面に倒れ込み、そのまま動かなくなった。


「ガウ。ワフワフ」


 レオが尻尾を振り、自慢げな顔をしながらそいつの腕を咥えて俺の前に引きずって来た。


「ワウワウ」

「えっと、食べるの? これ」

「ワフ!」


 俺の言葉に頷くレオ。

 ……えー、二足歩行の生き物を食べるのに抵抗があるんだけどな……。

 確かに顔は豚だから、豚肉なのかもしれないけどさ……。

 レオは期待した目で俺を見てる。

 俺も森の中を歩いて結構腹は減ってる。


「……せめて焼けたらな」

「ワウ? ワーウ、ワフ!」


 考える仕草のレオ、その後周りに落ちてる枯れ枝を咥えて持って来た。


「火をおこせばいいのか?」

「ワフ」


 そうは言っても、何もない所から火をおこすなんてした事ないぞ。

 でも生で肉を食べるのは嫌だな……なんかさっきのオーク(?)は不潔そうだし……。

 仕方ないな、やるだけやってみよう。

 水辺とは言え森の中。

 雨が降った形跡も無いから、乾燥した枝はそこらに落ちてる。

 レオと協力して、たき火に出来そうな枝を集めるだけ集めた。


「さて、問題は火が付くかどうかだけど……」


 確か、テレビかなんかで見たのは、木の板に枝の先を回転させながら擦り付ける……だったか?


「ワウ」


 火のつけ方をどうしようか考えてると、レオが集めてある枝に顔を近づけた。


「ガウ!」


 一度吠えると開けた口から小さな火が出て、集めた枝が燃え始めた。


「……レオ? 何したの?」

「ワウ? ワフー」


 ちょっと得意気なレオ。

 何か目が覚めてから現実離れした事が起きすぎてて、もう何から突っ込めばいいかわからない。

 頭の中で踊り狂ってる色んな疑問はこの際無視しよう。

 とりあえず、腹ごしらえだ。


「レオ、もしかしてこいつをその爪か牙で切ったり出来るか?」

「ワウ!」


 レオが前足から爪を出し、軽々と振るうごとにオークは細切れにされていった。


「……あるがままを受け入れよう」


 悟りの境地なのかもしれないな……。

 レオが大きくなった事や、軽々とオークを切り刻んでいる事への疑問は宇宙の彼方へポイした。


「ありがとうレオ。じゃあ焼くか」

「ワフ、ワフ」


 落ちていた細い枝を川の水で軽く洗い、レオが切った肉に突き刺して持ち上げる。

 血が滴っていたので、それも川の水で流したき火のそばで枝を地面に刺した。

 直火でバーベキューみたいに焼きたいが、枝まで焼けちゃいけないからな。

 この肉の味がどうなのかはまだわからないけど……。

 同じように何個か枝に肉を刺して、たき火の傍に枝を刺す。


「ワッフワッフ」


 枝に刺さってじっくり焼かれていく肉を楽しそうな雰囲気で見つめるレオ。

 もう少しで焼きあがるはずだからなー、もうちょっと待とうなー。

 それから数分、そろそろいいかなと枝を持ってたき火から肉を離す。

 見た目は今まで何度も見た事がある、焼かれた豚肉だ。

 まずはレオにその肉をあげ、別の肉をたき火から離して俺も食べ始める。

 ……口の中に入れる瞬間に、さっきまで立っていた姿を思い出して躊躇したけど、結局食欲に負けてそのまま食べた。


「モグ……モグ……」

「ワフ……モシャ……モシャ……」


 レオはおいしいのか勢いよく食べている。

 ……これって普通の豚肉の味だよな。

 少し高めの豚肉かもしれないと思うくらい美味しい。

 あんな見た目でも、味はやっぱり豚だったんだな……。


「モグ……モグ……」


 でも、塩コショウとかの調味料が欲しいなぁ……。



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