【大感謝!610万PV突破!】異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】

龍央

第1話 愛犬が大きくなってしまいました



「……ふぅ……今日もおつかれさんっと」


 そろそろ日付が変わりそうな深夜、ようやく今日の仕事を終わらせて帰宅してる途中だ。

 最近定時で帰った覚えがないなぁ。

 就職して2年、休みも無いし、サービス残業ばかりで完全にブラックな職場なんだと思う。

 けど、別の仕事を探す時間も無くてズルズルと今の仕事を続けてる。


「あー……ちょっとフラフラするな」


 以前3カ月休み無しの連勤だった時に自宅で一度倒れた事がある。

 その時はすぐに目が覚めたが、これは危ないと思って欠勤して病院に行った。

 翌日出勤した時には、上司に怒られたうえ同僚には白い目で見られた。

 その時程ではないが、少しだけ歩調が怪しい。

 酒を飲んでるわけじゃない。

 まだ成人したばかりで、酒を飲んだ事はあるが美味しいと思える程飲んでない。

 残業が少なかった日に上司が飲み会に行くというのを断れずに連れて行かれたが、ずっとビールだけを飲まされて、何度もトイレに駆け込んだのが記憶に新しい。


「何なんだろうな……この職場」


 ぶつぶつ独り言を言いつつ、最寄り駅から歩いて自宅へと向かう。


「あ、コンビニに寄ってくか。今日は何も食べて無いしな……あいつにも何か買って帰ってやらないと」


 自宅までの途中にあるコンビニに入り、今日1日何も食べてなかった事を思い出しながら、適当に弁当と、ソーセージを購入した。

 いつも寂しい思いをさせてるもんな、たまには好物を買って喜ばせてやりたい。

 コンビニから出て、また少し怪しい歩調で自宅へ向かう。

 10分程歩いて自宅のマンションに帰り着き、広岡巧と書かれてる表札の前でポケットから鍵を取り出して玄関を開ける。


「ただいまー」


 ドアを開けてあいつに声を掛けながら中に入った。

 玄関から続く廊下の奥にあるドアを、引っ掻いて開けようとする音が聞こえる。


「よしよし、今日も元気だな、今開けてやるから待ってろー」


 靴を脱いで廊下に上がり、ドアの前に行って開けてやる。

 ドアを開けた途端、中から勢いよく白い物体が飛び掛かって来た。


「クゥーン……クゥーン」

「ははは、よしよし。良い子にしてたかー?」


 飛び掛かって来たのはマルチーズのレオだ。

 数年前に子犬がダンボールに入って捨てられてるのを見つけて拾って来たのが最初の出会い。

 当時学生だった俺は一人暮らしをし始めたばかりだったが、レオのおかげで寂しくは無かった。

 拾って来た時、勢いでレオと名付けたはいいが、後で雌だと気づいたのは良い思い出だ。

 すまんレオ、女の子にこんな名前を付けてしまって。


「ほら、今日はお前の好きなソーセージを買って来てやったぞー」

「クゥーン……ワフワフ」


 ソーセージを見せてやると、さっきまでブンブン振ってた尻尾がさらに激しく振られ始めた。

 鼻をソーセージに近付け、今にも口を開けて齧り付こうとしてる。

「ははは、待て待て。そのままじゃ食えないだろ。……ほら、こうして中身を出してからな」

「ワフワフ!……モシャモシャ」


 ソーセージの包装を外して、床に置いてやると勢いよく食べ始めた。

 俺も弁当を食うか。

 コンビニで温めてもらった弁当を出してテーブルに置き、蓋を開けて食べ始める。

 ……なんか味があんまりしないな……今日の弁当は薄味だったのか?

 ともあれ、お腹は空いてるので残す事はしない。

 弁当を食べてる途中で、ソーセージを食べ終わったレオがじゃれついて来た。


「クゥーン……キューン」

「何だ? 遊んで欲しいのか? ちょっと待ってな、もうすぐ弁当を食べ終わるから」

「……クゥーン」


 レオを一度撫でて落ち着かせてから、俺は弁当の残りを食べ切る。

 コンビニ袋にゴミを纏めて部屋の隅に置いた。

 明日は燃えないゴミの日だったな、仕事に行く前に出さないと。


「よし、レオおいで」

「キューン……キューン」

「何だ? 遊んで欲しいんじゃないのか?」

「……キューン……キューン」


 今日は何故かやたらと俺の顔に鼻先を押し付けたり、舐めて来るな……。

 俺の体調がいつもより悪いのに気付いてるのか?

 不思議に思いつつも、そろそろ寝るかと考えた時に思い出した。


「あー風呂に入らないとな」 


 さすがに帰ってそのまま寝るのはよろしくない。

 風呂と聞いてレオが俺から離れた。

 相変わらずの風呂嫌いだな……。

 レオに苦笑しつつ、風呂に入ろうと立ち上がった時、視界が揺れた。


「……地震か?」


 何か、妙に揺れてるような……待てよ、これは俺が揺れてるのか……?


「ワンワンワン!」


 揺れる視界の端でレオがやけに吠えてたけど、俺はそれに答える事も出来ないまま、床に倒れた。


「ワンワンワン!……クゥーンクゥーン」


 床に倒れた俺を心配したのか、レオが近づいて来るのだけははっきりとわかったが、どうすることも出来ずにそのまま意識が途絶えた。


――――――――――――――――――――


「……ん」

「ワフワフ」


 風が吹いてるのを感じながら目が覚める。

 というか俺寝てたっけ? この顔を覆ってるモサモサはレオか?


「すまんレオ、ちょっとどいてくれ。……お前ちょっと重くなったな」

「ワフ」


 いつもより低い気がする鳴き声のレオを顔からどかしながら、目を開ける。

 ……目を開けた俺の視界に入って来たのは、見た事のない森だった。


「……ここ、どこだ? 夢か?」

「ワフ!」


 俺、部屋で寝たんだよな? 弁当を食ったとこまでは覚えてるが、ベッドで寝た覚えはない。

 何でこんな森の中にいるんだろう……?

 夢かと思い、自分の頬をつねってみたら痛い。


「夢じゃないのか……? にしても何で森の中に……」

「ワフ! ワフ!」


 レオの吠える声がいつもより低いというか、力強い気がするのは何故だろう。 

 さっきからレオが隣で吠えて自己主張してるのでそちらに顔を向ける。

 そちらを見て驚いた。

 

「え? ちょ! お前レオじゃなかったのか!」

「ワフ!」


 隣でお座りの体勢のままこちらを見て少し首を傾げる仕草をしてたのは、見た事も無い俺よりも大きい体をした狼だった。


「っ! ……!」


 何とか体を起こして逃げようとするが、寝起きのうえ連日の仕事の疲れがあるせいか、うまく体が動かせない。

 そうこうしてるうちに、その狼が俺の顔に口を近づけた。

 食われる! そう身構えて、体を固くし目をギュッと閉じた。


「クゥーン」


 目を閉じた俺の耳に聞いた覚えのある鳴き声、そして顔を舐められる感触。

 まさかお前……。


「お前、レオなのか?」

「ワフ! ワフ!」


 「そうだよ!」と言わんばかりに頷くような仕草をしながら吠えた。


「なんでこんなに大きく……」


 知らない場所で目が覚めた俺が最初に見たのは、可愛がっていた飼い犬が大きくなっている姿だった。



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