やさしいひとのおはなし

 私の名前は鳥居ゆめ。職業は写真家です。私の夢は私の撮った写真集を出したいことが夢です。その夢に向かって日々コンクールに応募しています。しかしなかなか難しいもので撮りたいものがないのです。風景とかを主に撮っていたのですが賞に掠る事もなかったです。今なんというかスランプです。


「うーん。どうしよう…」


 うーん、と唸りながら歩いていると前から来る人に気づかずぶつかってしまった。


「きゃっ!?」

「おっ!?」


ぶつかってしまった人は男性のようだ。


「す、すいません!? 私、前を見てなくて…。大丈夫ですか?」

「あぁ。大丈夫だよ」


 私は急いで手を差し伸べた。その男の人は手を取って起き上がった。見た感じいわゆるイケメンだった。


「ほ、本当にごめんなさい!!」

「いや、大丈夫だよ。僕も前を見てなかったからね」

「何かお詫びを…」

「そんな、大丈夫だよ」

「で、でも…」


 私は少しパニックになっていると男性は何か思いついたようで


「なら一緒に来てくれるかい?」

「えっ、あっ、はい」


 私は男性に連れられてどこかに向かった。どこに行くのだろう…。


 着いたのは有名な喫茶店だ。前にニュースの特集でやっていたのを覚えている。なんの特集だったっけ…。とりあえず私たちは席に着いた。店員さんがやってきた。


「いらっしゃいませ!! ご注文はおきまりですか?」


 男性はメニュー表を見ずに


「恋人ラブラブパフェをお願いします」


 恋人ラブラブパフェ? 何だろうそれは…。うん? 確かその商品って……。すると


「では恋人の印をお願いします」

「はい」

「えっ?」


 すると彼がいきなり唇を奪ってきた。しかも舌も入れてきた。歯をゆっくりとなぞるように私の舌にも絡めてくるようなキスだった。キスをし終えると私は放心状態だった。店員さんは


「はい、確認しました。お飲み物などございますか?」

「珈琲を二つお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 店員さんはそのまま注文を伝えに行った。私はまだなにが起きたのか分からなかった。彼はハンカチを渡してきて


「大丈夫かい?」

「は、はい…」


 私はハンカチを受けっとってようやく頭がはっきりしてきた


「…じゃないですよ!!!! なにするんですか!!?」

「うん?」

「うん? じゃないですよ!! なんでキ、キスしてきたんですか!!?」

「だってこれが食べたかったんだ」


 メニュー表を開いて『恋人ラブラブパフェ』の下の方に書いてあったのは「恋人の証明でキスをしてください」とのことだった。私は口をパクパクしていたら


「ごめんね。どうしても一度食べてみたかったんだよね」


 彼はペロッと舌を出して謝ってきた。お詫びをするって言った手前なんか怒れなくなってしまった。すると珈琲が運ばれてきた。私はブラックが飲めないので砂糖などを入れたりして飲む事にした。彼はブラックで飲んでる。…なんかすごいな。そうだ


「名前を聞いてもよろしいですか?」

「うん? 僕のかい?」

「えぇ。誰だか分からない人に唇を奪われたのは嫌です。名前の要求をします」


 彼はクスッと笑い


「僕の名前は鳥山信之」

「鳥山さんですね。私は鳥居ゆめです」

「ゆめちゃんね」

「ちゃん付けはやめてください」

「はいはい、分かりました、ゆめさん」


 なんか子供扱いされていやだった。注意しようとしたら


「お待たせしました!! 恋人ラブラブパフェです」


 店員さんが大きなパフェを運んできた。美味しそうで悔しい。


「さて、食べようか?」

「……はい」


 私たちは食べ始めた。美味しいですぞ、畜生。ちょっと不機嫌気味に食べ進めていると彼が口を開いていた。


「……何ですか?」

「いや、恋人同士ならくれるかなって」

「………」


 私はしぶしぶパフェを一口スプーンですくい彼の口に運んだ。それを嬉しそうに食べていた。なんか調子狂うな。


 私達はパフェを食べ終わり珈琲をおかわりした。すると


「君は写真を撮るのかい?」


 彼は私のカメラを指差し聞いてきた。私は自慢げに答えた。


「そうなんですよ!! 私これでも写真家なんですよ。カメラマンですよ!!」


 私は撮ってきた様々な写真を見せた。彼は感心しながら見ていた。私もそんな彼に後押しされるように色々見せた。


「……この時に撮った夕日が奇麗でしょう? ほかにも……ってなんか興奮して話してしまいすいません」

「ふふっ。写真撮るのが好きなんだね」

「はい!! でも最近スランプ気味で…」

「? どうしてだい? こんなに良いものが撮れているのに」

「なんか私が撮りたいのはこれではないっていうか…。でも私が撮りたいのはなにかが分からないんです」


 彼に今の現状、悩みを喋っていた。なんか彼になら話しても良いかと思った。おかしな話だ。初対面で、しかも私のファーストキスを奪った人なのに…。何故か許してしまう。不思議な人だ。


「ところであなたは何をしているのですか?」

「僕かい? 僕は今は好きな事を思いっきりやっているよ」

「何ですか、それ? ニートですか?」

「……うーん、まぁ、君なら言っても良いかな」

「なんですか?」

「実は僕の余命はあと1か月なんだ」

「………はぁ?」


 えっ、この人は何を言っているのだろうか? 余命? 1か月? 


「な、なにを…言っているのですか?」

「そうだよね。驚くよね」

「ほ、本当なのですか?」

「もちろん。本当さ。名医すら投げ出した不治の病ってやつだね」


 彼は他人事のように言い珈琲を飲んでいた。


「なんであなたは平気そうな顔をしているのですか?」

「ふふっ。そうだね。でも宣告うけてから決めているんだ。悲観せずやりたいことをやろうってね。これも僕の人生ってやつさ」


 なんで、なんでそんなに普通に話すんだ。なんで平然と話すんだ。


「……親御さんはなんて言ってるのですか?」

「僕の親かい? 残念だけど病と知って僕を置いてどこかに行ってしまったさ」

「そ、そんな……」


私はその事実に胸が絞めつけられた。そんな親がいるのか…。そんなのありえないよ。なんだか涙が出てきた。


「君は優しい娘だね」

「だ、だって…そんなの…可哀そうじゃない」

「うーん。僕としては自由に好きなことが出来て楽だけどね」


 彼は私の涙を指で拭ってくれた。


「あっ、そうだ! キミにお願いがあるんだけど」

「お願い……ですか?」

「このまま僕の恋人になってよ」

「……えっ?」


 彼の申し出に私は驚いてしまった。彼はつづけた。


「実はやりたいことの中に恋人と過ごすって決めていてね。キミみたいな可愛い子に頼みたいんだ。ダメかな?」


 こんな事聞かされたら断れるわけ出来ないじゃないですか。でもこれもなにかの縁なのだろう。あの時ぶつかったのはこの為なのだろう。


「……良いですよ」

「本当? 嬉しいな!! まぁ、期間限定だけどよろしくね、ゆめちゃん!!」

「……はい。よろしくお願いします、信之さん」


 彼の期間限定という言葉に悲しくなった。私に出来ることは……。私はカメラを構えて彼を撮った。彼は驚いていた。


「ふふっ。驚いてますね」

「急にどうしたんだい?」

「あなたが生きてた証として写真に収めさせてもらいますよ」

「うーん。恥ずかしいけど君がしたいなら別に良いよ」

「恥ずかしいんですか? 私にキスしたくせに」

「それならお互い様ってことで」

「そうですね」


 可笑しくてお互いに笑ってしまった。


******


それから私たちは色んなとこを見た。奇麗な日の出、夕日、月。美しい絶景、夜景、風景。その一つ一つを背景に彼を撮っていった。いつも彼は笑っていた。私は彼と一緒で幸せだった。……そしてその日は訪れた。



彼の実家にあたる家。だけどご両親も親族もいない。私はいつものように掃除をしたりしていた。彼は縁側でお茶を啜りながら座っている。私は掃除も終わり彼のもとに向かった。


「掃除おわりましたよー」

「……あぁ、ありがとう」


私もお茶を淹れて隣で飲んだ。この雰囲気も好きである。


「今日はどこ行きます?」

「うーん。今日は良いかな」

「珍しいですね。あなたがどこにも行かないなんて」

「なんかね、僕今すっごく幸せなんだ」

「なんですか、急に?」

「ふふっ。この一か月で好きな事全部やり切ったみたいだよ」

「……何を言ってるんですか。まだまだやることがあるでしょう。他にもあなたに見せたいものがいっぱい、いっぱいあるんですよ」


 私は涙が溢れていた。彼は私の涙を指で優しく拭ってくれた。


「手を……握ってくれないか」

「……はい」


 私は強く握った。しかし彼の握りかえす手が弱弱しかった。


「ふふっ………。本当……僕は……幸せ……ものだ」

「はい!! 私も幸せです。本当に、幸せです!!」

「それは……よか……た」


 彼は力をなくしこちらに寄り掛かってきた。私はそのままギュっと抱きしめた。


「……おやすみなさい、信之さん」


******


 鳥居ゆめは個展を開いている。ある写真が賞に乗ったことで有名になり個展を開くまでになった。色んな写真のなかで特に人気だったのは、男性の眠る姿の写真であった。その写真の被写体の男性の表情はとても安らかでとても朗らかで幸せいっぱいの顔であった。

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いろんなおはなし 遊松 @asobi01matu

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