第179話 新造ダンジョン探索開始


 僕は先行して進む。


 クリムの炎が光源となっているが油断はできない。


 光り輝く光源は、その輝きゆえに闇に潜む影の存在を薄める。


 (……何かいる)


 魔物モンスターの気配を察知した僕は構えを変える。


 膝を曲げ、腰を落として前傾姿勢。頭の位置は、小柄な敵を想定した低く下げる。


 そして短剣は右の逆手持ち。


 光が届かないギリギリの位置から影が飛び出して来た。


 ゴブリンだ。


 無手ではない。


 石器のように岩と岩をぶつけ合って作ったらしき、原始的な剣を持っている。


 合理性の欠片のない太刀筋で僕に向かって振り下ろして来た。


 それに対して剣をぶつけ、ゴブリンの体ごと弾き飛ばす。


 僕は柄に左手を添えて刺突。無防備になったゴブリンの腹部へ突き立てた。


 断末魔


 だが、ゴブリンは1匹ではない。


 (……あと2匹)


 横から飛びかかってくるゴブリンを捉える。


 前蹴り


 蹴りと言うには不細工なフォーム。


 ただ、敵に向けて足を真っ直ぐ伸ばしただけのノーモーションの蹴りだった。


 しかし、人間とゴブリンの体格差は、ゴーレムと人間くらいの差。


 威力の乗らない蹴りでも、ゴブリンを仕留めるには十分な威力だ。


 (3匹目……は逃げたか)


 剣を宙に振るい、僅かながらでも血と油にまみれた汚れを落とす。


 「やっぱり逆手持ちは使いづらいな」と誰に聞かせるわけでもなく呟いた。


 従来、剣を逆手で持つ事はあり得ない事だ。


 本来の持ち方と比べてもグリップ力が違う。 それに切り裂く直前に手首のスナップを利用するため、手首の負担は大きく痛めやすくなる。なにより、力が剣先まで伝わり難い。


 だが、狭い場所。


 洞窟でゴブリンを相手にするなら有効な構えだ。


 ゴブリンは狭い場所を好むのは、それが苦にならない小柄な肉体。加えて機動力と瞬発力を持っているからだ。


 しかし、小柄な肉体だからこそ力が弱い。逆手持ちでも力負けする事はない。


 そして、逆手持ち最大の利点は命中力にある。


 相手を殴るようなイメージ。狙いを僅かに左にズラすだけで、攻撃精度は高くなる。


 狭い場所、機動力と瞬発力が高い小柄な相手にこそ、逆手持ちは有効になるのだ。


 「お勤めご苦労様です」


 パーティ本体のドラゴンたちが追いついてきた。


 「あれ、少し進軍速度が遅かったか?」 


 「いえいえ、私たちが早過ぎたみたいですね。サクラさんの撃ち漏らしがないので楽させてもらってます」


 「まぁ、一応はプロの探索者だからな」


 あれ?シュット学園は卒業扱いになってるのか? 僕、プロだよな? 一応…… 


 「ところで、サクラちゃん……」とキララ。


 「ゴブリンとか亜人系ってキモくない? よく平気だね」


 普通の魔物と平気で戦えても、二足歩行系がダメな人は多い。


 キララもそういうタイプなのだろう。


 「ん~、シュット学園に入学すると1年目は、そういう苦手意識を払拭する授業から始まるからね」


 具体的には解体とか……


 「2年生になる頃には、血と臓物系は見慣れてしまうのさ」


 僕は、あの時代を思い出して遠い目になった。


 そう言えば、途中編入だったクリムは、そこら辺はどうなんだろ?


 そう思っていたら、クリムは倒したゴブリンを逆さに吊っていた。


 やだ、この子……ゴブリン食べる気だ!?

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