第163話 決闘代理人 再び


 「どうするんだ? これ?」


 僕は小声でドラゴンに問う。


 勝利の確信から、一転してクリムの敵対。


 修正案を―――


 「まだですよ。クリムの相手が私になれば1勝は確実。もう、勝確の実力者1人を……今から…」


 「いや、流石に無理だろ。素直にごめんなさいして、勝ち抜き戦にしてもらうしないんじゃないか?」


 「う~ん! う~ん!」と唸ったあげく、ドラゴンが下した判断は―———


 「まぁ、負けても約束を反故すればいいだけなので、気楽にいきましょう」


 「……うわぁ」と少し引いた。


 僕等の目前では、観客になるであろう民衆たちが熱狂している。


 この状態で負けたら、逃げると言い切るメンタルに思うところがないと言えば嘘になる。

 それにより、なにより————


 「それとも、サクラさんは、私が国王の妾に堕ちてもいいのですか?」


 「————いいわけないだろ」


 僕の返答に、ドラゴンの表情は……なんていうか……ニヤニヤよりも、ニマニマしてるって感じだった。


 「いやぁ、良い表情と言葉ですね。惚れ直しちゃいましたよ」


 「はぁ」とため息を1つ。「お前なぁ」と悪態をつこうとした。


 しかし、そのタイミング。 民衆からの声援に答えていたイスカル王がクルリと僕の方を見て————


 「おぉ、我が強き友よ。来ていたのか。ならば、話は早い」


 そのイスカル王の言葉は不意打ち気味で、僕は「……え」と呟いた。


 何を言っているんだ。まるで僕の背後に誰かいるかのように―――


 「————ッ!?」


 突然、僕の背後に人の気配が現れた。


 それも僕に纏わりつくような気配。そして、いつの間にか僕の肩に手を置いていた。


 ――――いや、置いていたなんて表現は似つかわしくない。


 まるで拘束するように掴まれていた。


 (コイツが……背後にいる人物がイスカル王チームの3人目……強い!)


 だが、3人目を確認しようにも、肩を掴まれただけで、全身が束縛されたのかのように動きを制されている。 


 間違いなく、コイツも規格外な力量。


 ――――しかし、どうしてだろうか? どこか……既視感?


 闘技者…… 強者…… 僕の人生で接点があったようにな……


 それも、そう遠くない話に……


 そんな忘却の彼方かた記憶を引き上げている最中―――


 「イスカル王、ご戯れを……」


 背後の闘技者は喋った。


 「この者は————トーア・サクラは、我が国では前国王の殺害容疑がかかった人物。すぐにでも、差し出されるがよろしいかと」


 その声、僕には聞き覚えがあった。


 「ハッハッハッ……相変わらずの堅物だな。友よ。貴様の忠義は美徳であり、その忠義が我に向かない事が何よりも悔しいものぞ」


 そうイスカル王は、背後の人物の名前を言った。


 「しかし、今は貴様も祭りを楽しめ。我が強き友―———


  ゴドー」


 その名前で、僕は背後の存在―――僕を拘束する男の正体を理解した。 


 聖職者モンクのように剃髪されたスキンヘッド。


 ドワーフたちが鉱山での作業着として好んで使っていたというジーンズ。


 昔の探索者が初期装備で使われていた|革の服(レザージャケット)と素肌に直接、羽織っている。


 彼の名はゴドー。


 現シュット国王の決闘代理人だ。

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