第162話 3対3 団体戦?


 「ここは闘技場コロッセウムならば、戦い――――そして、勝者の前に私は跪ひざまづく事を誓いましょう」


 妙に芝居がかった口調でドラゴンで言う。


 これに答えるイスカル王も、また芝居がかった大げさな口調だ。


 「なんという気性か。貴方の旦那を貫き、貴方を奪えと言うのか。だが、しかし、それでも、貴方が望む愛の形がそれだと言うのならば、我は修羅道に落ちてみせましょう」


 それを聞いた周囲の人達は、それぞれに————


 「見えるのか?」 「あの王の戦いが……」 「見えると言うのか!」


 その感情は熱を帯びて、目に見えぬ力に昇華していく。


 イスカル王の強さを称えるように見える。


 ――――いや、違うのか。それは王への忠誠心―――つまりは信頼だ。


 絶対的強者への信頼が、王の周りに渦巻く力になっていく。


 僕にはそう目に映った。


 王は僕を見る。


 対戦相手としての分析なんて生易しいものではなく、調理された料理をどこから喰らうか?


 そんな視線。


 (……ダメだ。勝機が見えない)


 戦う前から心が折れていく。


 すぐにでも背中を見せて駆け出したくない。


 でも――――


 「あれ?イスカル王、勘違いをされていますよ。敵は我が夫1人とは言いってませんよ」


 このドラゴンの発言に「ほう」とイスカル王は僕から視線を外した。


 「私が求める戦いは3対3での戦い。私は自らの人生を、たとえ旦那でも、王でも、他者にゆだねるような真似はしたくないのですよ」


 「……それは、つまり?」


 「察しの通り、旦那のチームには私も入ります」


 「これは豪気な女性だ。惚れ直したぞ」


 「ならば?」


 「構わぬ。我らは、あとの2人か。丁度、新たな弟子を取ったばかりだ。それに、強き友も訪ねてきている」


 イスカル王は豪快に笑った。


 その隙にドラゴンは僕に耳打ちをした。


 「これで、私たちの勝利が確定しましたね」


 ドラゴンの勝利宣言に僕は「へぇ?」とマヌケな返事が口から出てしまった。


 「サクラさんはお忘れですか?3人のチーム戦なら、サクラさんが負けても大丈夫なのです。なぜなら、他の2人は私とクリムですから」


 「そうか!」と合点がいった。


 例え、僕が王に負けるとしても————


 クリムとドラゴンに勝てる人類は、ほぼ皆無。


 人工的に次代の探索者を作るために人造人間 ロウ・クリム。


 最強の探索者の遺伝子を持ち、魔剣を体内に取り込んだ無尽蔵の魔力。


 人類が未踏のラスボス ドラゴン。


 もはや、力量において、一切の説明を不要とする最強生物。


 ハッキリ言おう。僕等に負けはない!


 「おぉ丁度いい。我が弟子がやってきた」


 イスカル王が言う。


 かわいそうにイスカル王が弟子入りを認めるほどの強者だ。


 おそらく人類最強レベル。


 しかし……残念ながら……所詮は人類最強程度なんだな。


 僕は笑いを堪えながら、イスカル王の弟子とやらを見た。


 そこには―――


 「あれ?お父さん、どうしてここにいるの?」


 「あ、あれ?クリムこそ、どうして……」


 「んっとね。話と長いけど……このおじちゃんが弟子にしてくれるんだって!」

 「oh……」


 僕はイスカル王に向いて、「えっと、この子は僕にとって義理の娘でして……」とクリムの正体に触れないように説明した。その結果―———


 「おぉ、またもや何たる悲劇。家族が愛のために争うなどと……しかし、それもよし。なぜなら、ここはイスカルなのだからな!」


 イスカル王の隣に並んでクリムも―――


 「愛なのか……それじゃ仕方ない!」


 と言った。


 ドラゴンのプランは完全に崩壊した瞬間であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る