第129話 コウガのダンジョン

 「いたか?」 「いない!」 「どこに行った?」 


 朝の町中に怒声を上げる男たちが駆け抜けていく。


 「なんだい?ありゃ?装備を見る限りシュット生産だけど、知り合いかい?」


 僕たちはブンブンと首を横に振って否定する。


 自分でも不信感全開だけど……


 フミさんは、それで納得したのか「ふ~ん、まぁ良いんだけどさ」と興味なさそうだった。


 『花屋』の面々は武装して列を成している。


 どうやら、武器や防具の制作に必要な素材を集めにダンジョンに潜る予定だったらしい。


 そこに僕等も同行させてもらうことにした。オントの手から隠れるためだ。


 「しかし、助かったよ。ダンジョンに潜るための探索者は月屋が独占しちゃって、今回は鍛冶職人だけの身内パーティになるところだったんだよ」


 「そうですか。僕等も助かりま……いえ、なんでもありません」


 フミさんは「変な子だね」と豪快に笑った。


 僕は、あらためてパーティを見る。 何というか……マッスルだ。


 下手な探索者よりも鍛えられてる肉体を有して見えるのは僕だけじゃないはず。


 フミさんが左右に従えている鍛冶職人は、確か最初の騒動でもフミさんの左右にいた職人だ。


 同じような恰好で双子のように見える。職人たちの中で一回り大きい体が特徴的だ。


 武器もデカい。2人とも武器は巨大なハンマ-。


 それを肩にかけている。 


 「ん?あぁ、コイツら金と銀だ」


 「金さん?銀さん?名前の響きが東洋ぽいですね」


 「本名がゴールデンとシルバーだけど、先代が縁起が良いって纏めて引き取って、つけた仇名が金と銀なのさ」


 「金です」


 「銀です」


 彼らは見た目と同様に無骨な挨拶をする。


 萎縮されて「……どうも」と返すのが精いっぱいだった。



 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・



 「ここがこの国のダンジョンか」


 シュット学園内にあるダンジョンとは違い野生のダンジョンだ。


 一言で言うなら「ヤバそう」に尽きる。


 人を誘うこみ、取って喰らおうとする蠱惑的な魔力が僕等を出迎えてくれる。


 いやがおうにもテンションのボルテージが跳ね上がり、体を震わせる。


 「サクラさん、私たちは逃亡者の身だと忘れてません?」


 隣からドラゴンの冷静な声は、まさに冷水をぶちかけるが如くだった。


 そのため、僕はギリギリのところで冷静さを保てた。


 「もちろんわかってるよ」と自分でも生返事だとわかる声を返して、ダンジョンへ進んだ。


 このダンジョンは洞窟に似ている。


 少し気温も低く湿り気を感じ、遠くから水滴が落ちる音が一定間隔で聞こえてくる。


 「なぁ、シュットじゃダンジョンに住んでる連中がわんさかいるって本当かい?」


 鍛冶職人の1人が聞いてきた。見るからに緊張していて、それを紛らわせるために話しかけてきたのだろう。


 おそらく、彼が言ってるのはダンジョンキーパーの事だと判断して肯定した。


 不思議な事に質問してきた彼は驚いていた。


 聞いてみると、他の国でダンジョンキーパーの存在は都市伝説的なジョークの一種になっているらしい。


 周囲と雑談にふけっていると集団の前方から……


 「で、出た。出やがったぞ!魔物だ!」


 叫び声が聞こえ、僕は前方へと躍り出た。


 そして、現れた魔物の正体は―――


 スライムだった。

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