第130話 野生のダンジョンの洗礼
―――スライム―――
ぬるぬるとしたゼリー状の体を引きずりならが地面を這っていた。
「な、なんでぇ、雑魚じゃねぇか。脅かしやがって!」
僕の後ろでパーティのメンバーが必要以上に大きな声を上げた。
緊張感からか、自分を鼓舞するような大声で、そのまま手にした剣でスライムを切りつけようする。
僕は「待ってください」と男を制止した。
「これは変だ。何かが奇妙だ」と頭の中でけたたましい警戒音が鳴り響いている。
「なにか、コイツはおかしい。色が淀んでいる……環境?食べ物で変質しているのか?」
観察を続けると違和感の正体がわかってきた。
気泡?スライムの体内には、いくつかの泡のようなものがあった。
「ここら辺で毒を持ってる魔物はいますか?」
「おっ応、5層あたりには毒トカゲって魔物はいるが……」
「じゃ、それだ。ここらのスライムはその毒トカゲを食べている」
背後からざわめきが起きる。
「剣で切り付けたり、鈍器で潰さない方が良い。毒トカゲを消化して、毒だけを体の外へ排出するように体内へ貯めている。通常攻撃でダメージを受けたら、毒を外に噴き出してくるかも……だれか、魔法を使える人は?」
僕が周囲を見ると、さっと目を逸らされた。
そうか、本業は鍛冶職人だけだから……
でも、鍛冶職人なら火系の魔法とか使えたら便利そうだけどなぁ。
「じゃ、クリム。頼むよ」
「は~い」とクリムが前に出るとスライム相手に手をかざす。
次の瞬間、業火がクリムの手から放出され、轟音の中で「じゅー」と小さな音が聞こえた。たぶん、スライムが蒸発した音だ。
文字通りの超火力。背後からは鍛冶職人たちの悲鳴のような声すら聞こえる。
そのまま、クリムの炎が巨大な蛇のようにダンジョンの通路を走り抜けていった。
「まるでボンバーマンの爆炎ですね」とドラゴン
「そのボンバーマンが何か、もう突っ込むつもりはないけど―――これは流石にやりすぎじゃないか?」
「もちろん、この階層に他の探索者がいないって確認済みだから使えるのでしょうけど……」
その会話を聞いていたのだろう。
クリムは勢いよく、こちらを振り向いた。
その表情から読み取れるのは『あっ!人がいるのか確認するの忘れていた!』と如実に語っていた。
僕は横にいた。ドラゴンに確認をとる。
「セーフ!セーフですよ。周囲には人の気配は皆無でした!」
僕は胸を撫で下ろした。
まだ、所々でクリムの炎が残る通路を進んでいく。
「こりゃ、すげぇな。1層の魔物を全部、倒しちまったんじゃないか?」
フミさんがクリムへ賞賛の声をかけてくれた。
クリムも、まんざらでもなさそうだった。
「それに凄いのは、アンタもだ」
「僕のことですか?」
何の事だろう?心当たりがない。
「みんな、スライムなんて気に欠けず倒そうとしてやがった。あのままだったら、たった1層で洒落にならない状況になってたかもしれねぇ」
「それは……過大評価ですよ。探索者なら、誰も気づくはずです」
そんな僕の自己評価をフミさんは笑い飛ばした。
よく笑う人だ。
「あんたが自己評価が低すぎるのさ。とんだ過小評価ってやつだ」
……そうだろうか?
そのまま2層へ続く、階段まで魔物は現れなかった。
しかし、僕は嫌な予感がしていた。
1層のスライムですら、トラップのように変質している。
これが野生のダンジョン。 人工的に管理されていたシュット学園のダンジョンとは別物だ。
ダンジョンキーパーも存在せず、魔物の生態系も流動的か……
ここでは何が起きるかわからない。
僕は警戒心をもう1段階引き上げた。
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