第87話 ダンジョンのイレギュラー

 

 結果から言うと――――ビックピックは僕らを襲ってこなかった。


 襲撃ではなかったのだ。


 原因はわからない。よくよく観察すれば、ビックピックの体が小刻みに震えている事がわかった。


 その巨体に外傷は見当たらないが、なんらかのダメージを受けている?


 「いや、しかし… それにしては……」


 考えはまとまらない。不確定要素が多すぎるってやつだ。


 僕は近くにいるクラスメイトに手で合図を飛ばし、避難を促せた。


 いつ、ビックピッグが僕らの集団への攻撃を開始しても対応するため、僕は殿しんがりとして残り、ビックピッグに睨みを利かせる。


 しかし、その心配も不要だった。


 なぜなら、ビックピッグはその場に倒れたからだ。


 僕が倒したわけではない。他の誰かの攻撃によって倒れたのでもない。


 本当に、ただ自然に倒れた。 そのまま、ぴくぴくと痙攣している。 


 病気?あるいは呪い? 突然の地震と何か関係があるのか?


 それまで感じていなかった不安が一気に噴き出てくる感覚。



 「一体、何が起きている?」


 僕は、その感情を誤魔化すように――――

 誰に聞かせるわけでもなく呟いた。


 その感情――― 恐怖を誤魔化すように……だ。



 ―― 10層 ―――



 先生の予想通り、他の生徒たちも10層に集まっていた。


 歓迎会でクラスメイト全員で集まっていた僕らは幸いだった。


 他の生徒たちは自分のクラスメイトたちの安否が不明だ。不安を取り除くために、情報を求めて動き回っていた。


 だが、地上の情報がないのはどういう事だろうか?


 ただの地震なら、地上からダンジョン内へ情報が送られてくるはず。


 そのためにダンジョンキーパーには特殊な連絡網がある。


 現にダンジョンキーパー達は、この階層に集まってきている。


 しかし、彼らの困惑した表情を見る限り、地上との連絡が途絶えているのがわかる。


 一番、近くにいるダンジョンキーパーは……2人。


 責任者なのだろうか?白髪交じりのダンジョンキーパーが若いダンジョンキーパーに情報を求めている。


 可能な限り、彼らに近づき、会話を盗み聞くと……


 「途中でルートが分断されている。正規ルートから地上への帰還は不可能だ」


 「復興まで予測時間は?」


 「正確な時間は不明だ。どう見ても1週間以上は必要」


 「待て!1週間だと?なぜ、そんなに時間がかかる。分断されたルートは2~3か所ではないのか?」


 「いえ、少なく見積もっても、その10倍はあるかと……」


 「そんな馬鹿な!ありえない!何者かが謀ったか!」


 「いくら、なんでも自然現象を利用するとは……」


 「自然現象ではないとしたら?」


 「そんな、まさか!?」


 若いダンジョンキーパーが悲鳴のような声を上げた。


 責任者が「声が大きい」と咎める。


 2人は、即座に周囲を警戒するように視線を走られる。


 そして、2人は聞き耳を立てている僕に気づき、苦虫を噛み潰したよう顔になった。


 「チッ、行くぞ」


 「は、はい」


 僕に構っている間もないのか、2人はそのまま、どこかに移動していった。


 本当に何が起きている? 僕はそのまま、視線を入口に向けた。


 入り口―――


 上層へ繋がっている通路の事だ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る