第88話 唐突なドラゴン
「さすがにダメだよな……ヤバいよな……」
僕は誰にも告げず、上層へ向かっていた。
なぜ、そんな事を? そう聞かれたら、答えることはできない。
まるで何かに導かれるように体が動いてしまった。
「しかし、本当に出てこないものなんだね」
単独行動を行い、暫くの時間が経過したはずだが、魔物と遭遇しない。
普段なら、できれば遭遇したくないと心ではヒッソリと祈りながら、ダンジョンを進むのだが……
実際に出会わないとなると不気味でしかたがない。
やがて、目的地についた。
「……本当だった」
崩れた土砂によって通路がふさがれている。
「さて、管理人達は、人為的に通行不能にされた可能性を考えていたみたいだが……何が出てくるか?」
通路を慎重に調べてみる。
まず、火薬のようなもので爆破された痕跡はない。
爆風で焼かれた黒ずみや火薬の残り香はしない。
魔法を使用された痕跡も見つからなかった。
しかし、変だ。
管理人達は通路が崩れた場所は20か所とか30か所と言っていた。
人為的な可能性がないと言うなら、本当に、自然に崩れたということなのだろうか?
僕はズボンのポケットから地図を取り出す。
無造作にポケットに突っ込んでいたのは、機動力を重視してバックパックは置いてきたからだ。
地図で現在地を確認すると、ペンで×マークを付ける。
とりあえず、脱出経路を確保するため、正規ルート以外の通路の確認をしよう。
再び地図をポケットに入れ直し、駆けだそうと――――
突然、腕を掴まれた。
「うわっ!?」
油断した。魔物? 腕を掴むということは人型か?
素早く、背中の短剣を取り出し、ソイツに一太刀浴びせようと体が動く。
「やあぁ!」と気合を込めて短剣を振るうと同時に襲撃者の姿を確認―――
「って!?あぶねぇ! 何してんの?お前!」
襲撃者が魔物ではなく、知り合いだと気づき、ギリギリで短剣を止めた。
いや、それは正しくない。
週に2回は会って、町をブラブラと遊ぶ仲だから、忘れがちになってしまうが――――
彼女は魔物だ。
魔物どころか、このダンジョンの最下層で探索者を待ち受けるラスボスである。
そう彼女はドラゴンだった。
人間名 ドラ子・オブ・スピリットファイアがそこにいた。
「やぁ、サクラさん。お変わりがないようで何よりです」
「いや、お前……どうしたんだ!?」
僕の問にドラゴンは曖昧な笑みを返すだけだったが、その様子はどう見てもおかしかった。
青ざめた顔。額は汗で濡れている。よく見れば、手が小刻みに震えていた。
その震えは30層で見たビックピックと同じだ。
「流石ですね。初見で私の不調を見破るなんて、愛のなせる技としか思えません」
ドラゴンは普段通りの口調だが、無理をしているのは明らかだ。
けど、彼女は無理をしてでも僕に何かを伝えようと現れたのだ。
「一体、何が起きているんだ?ダンジョンに……お前の身に!」
「アハッ、普段からそんなに優しければ、私は幸せになれるんですけどね」
「もういい!黙れ!」
「そのタイミングで、そのセリフは酷くないですか?」
そう言ったと思った、次の瞬間にドラゴンは前のめりに倒れ始めた。
慌てて受け止める。抱きしめる形になってしまったが、気にしている場合じゃない。
「おい!おい!しっかりしろ!」
「あー大丈夫です。私の場合は、ただの立ち眩みですから」
「本当か?とても、そうは見えないけど?」
「まぁ、私は大丈夫なんですが、ダンジョンとサクラさんの学校がピンチなんです」
「ダンジョンとシュット学園がピンチ!」
「まぁ、落ち着いて。こちらをご覧ください!」
ドラゴンが指差した場所から映像が浮かび上がってきた。
それを見た僕は――――
「なんじゃ、こりゃ!?」
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