第18話 ラスボス戦(八百長)完全決着!?


 『ハッハッハ……これ楽しい!超々楽しいのですわ!』


 ドラゴンは、巨大なアギトを上に向け、火球を打ち上げる。



 ちゅーポン! ちゅーポン! ちゅーポン!



 間の抜けたような打ち上げ音が鳴った。


 そして――――打ち上げられた火球は、重力に従って落下していく。

 

着弾。


 その衝撃、爆撃音は僕の聴覚を凌駕して無音――――音は死んだ。

 

 僕も死ぬそうだ。


 「ほ、本気で殺すつもりか?」と僕はできるだけ大声で叫んだ。



 『いやいや、サクラさん。全く、そんなつもりはありませんよ』


 「はぁ?」



 『ほら、あちらをご覧ください』とドラゴンは顎をクイッと動かし、視線を誘導させる。


 そこには、落下した火球を浴びながら、キャッキャッと喜んでる子ドラゴンの姿が……


 「お前らの同種族と比べるな!こっち、人間だ! 死ぬ死ぬ!」


 『えー マジにならないでくださいよ。 マジ必死過ぎて若干引き気味ですわ。サクラさん、キャラ崩壊してますよ?』


 「えぇい!どうしろと!」


 『そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないですか、こっちは超手加減しまくリング!って感じですよ? 一応、形だけでも戦って負けたって設定にしないと、クリア報酬をプレゼントできないって仕様なんですよ?』

 「いや、何だよ、それ? だったら、だからどうしろと!」


 『ほら、最初は勢いよく、ぶつかって、後は流れで~』


 「死ぬ!死ぬから!八百長でも死ぬから!」


 『仕方ないですね。こちらは3段変身+最終形態の用意も万全なんですが、巻きで、巻き巻きで、いきましょう』 



 そう言うと、ドラゴンは動きを止めた。



 『……体が……鈍い。まさか、あの時に毒を……くっ……殺せ!』


 「いや、毒なんて盛ってないけど?」


 『ここにマジ返信って、天然かッ!? 空気読んで下さいねっ!』


 「じゃ、どうすればいいんだと?」


 『適当に短剣を投げてください。とりあえず、当たった場所が逆鱗って事にして倒れるんで』



 「あーはいはい、とっりゃあー」と裂帛の気合と共に、僕は短剣を投擲した。


 『うわー や、やられた……ってサクラさん?何やってるんですか!?片手を挙げて、空を見上げながら、まるで何かを掴むような感じで、割とよくある勝利のポーズを決めてください!そういう台本でしょ!?』


 「台本なんてねぇーよ!」


 僕の突っ込みの雄たけびがダンジョンの最下層に虚しく響き―――― 僕は、人類初のダンジョン攻略の偉業を達成する事になった。





 『というわけで受賞式に移ります。トーア・サクラくん!』


 「……はい」


 ドラゴンは人型の形状に戻っていた。



 『なんで、サクラくんは、死んだような目になってるんですか?』


 「いや、つい先ほど嫌な事がありましてね」



 ゴホンと、ドラゴンは空気を換えるようにようにわざとらしい咳払いをした。



 『さて――――まずは当ダンジョン攻略おめでとうございます』


 「……ありがとうございます」 


 『それでは、このアイテムをお渡しいたします。右手をだしてください』 

 「えっと、こうかな?」


 僕は、自分の右手を差し出す。すると――――

 ドラゴンの人型時に発する光、それと同等――――いや、それ以上の光が右手に宿る。


 「熱っ!?」と一瞬だけ痛みに等しい熱が走った。



 『はい。これで手続きは完了です。どうですか?人類の頂点に立った気分は?』


 「人類の頂点?これだけで?」


 『えぇ、今のはダンジョン攻略の恩賞。 おそらく人類は手に入れるには、1000年近い時間が必要だったアイテム。我々、龍の魔力を1000年間、吸収してきたアイテム。最強を名乗っても文句のでない一品ですよ?』


 「ん?え……それ、どこにあるの?」


  周囲を見渡しても、そんな物は見当たらない。あるとするなら……


 僕は視線を自分の拳に向ける。 あんなにも眩く、神々しい光を灯っていた右手から光は消え去っていた。 代わりにある変化が起きていた。


 手の甲の部分、黒い紋章? ドラゴンの絵が刻まれていた



 『それ、かっこいいでしょ? 子供の頃、読んだマンガで出てくる竜の紋章みたいで。竜闘気ドラゴニックオーラって感じ?』



 ドラゴンの説明は、まるで意味がわからなかったが、むやみやたらに突っ込むと非常な危険性を感じて、自分を押さえ込んだ。


 『イメージしなさい。最強のアイテム、それは常に貴方の手の中に……』


 「イメージ……最強……」


 やがて、僕の右手――――正確には、右手の紋章が再び輝き始める。


 その光が最高潮に達したと思った瞬間、何かが飛び出してきた。


 それは――――


 「こ、これが最強の武器?」


 『えぇ、そのとおりです。これこそが最強の武器――――龍の足枷です!!』


 その名前を聞いて、僕は「嗚呼、確かに」と納得した。 


 最初に目に入ってきたのは、見上げるほど巨大な球体。


 鉄の塊を思わせる無骨で黒光りした巨大な球体だった。


 そこから鎖が生えている。


 鎖の先には、まるで芸術品のように煌びやかに装飾。


 おそらく、武器として使用する際は、そこをもつのだろう…… つまり、それは鈍器に類する武器……となる。


 要するに……要するにだ。


 滅茶苦茶、馬鹿でかいモーニングスターだったのだ。

 

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