第13話 漆黒の闇 脱出可???

暗闇が支配している。


 僕は死んでしまったのだろうか? まるでここは死者の国だ。


 しかし、その考えを否定するように全身に痛みが走る。



 「痛ッ……!?」



 どうやら、気を失っていたみたいだ。


 体の感覚から時間を逆算してみる。おそらくは……2時間近くが経過している。


 もっとも、体の痛み、衝撃、混乱で、時間の誤差は生じているのだろうけど……


 かと言って、大幅なズレはない……はず。



 体を起こし、ダメージを推測。



 (全身は打撲、手首は炎症。足首は、軽度の捻挫と炎症。至る所に裂傷あり。

 肋骨と前腕、おそらく骨折まで至らないまでも……)



 僕はバックパックから、回復薬を取り出す。


 衝撃緩衝材で過剰包装された回復薬は無事だった。


 僕は、中身の液体を専門の容器に注ぎ、針状の先端を――――

 腕に突き刺した。



 「う……がッ! 何度やっても、回復薬の痛みは慣れないな」



 回復薬には即効性があり、痛みが徐々に薄れていった。


 注入された魔力を含む液体が、体の内部から肉体を活性化されていく感覚。


 戦闘継続可能なほどに回復した。


 精神安定剤も含まれているので、混乱状態から落ち着きを取り戻していく。


 「ふぅ……」


 そこで奇妙な点に気がついた。 まずは、この暗闇についてだ。



 「このダンジョン内で光源が設置されていない場所があるのか?」



 一瞬、眼球へのダメージで視力が効かなくなったのかと思った。


 しかし、視力に問題はない。本当に暗闇なんだ。


 そういう罠トラップが有る部屋なのか? それとも――――


 本当に————



 「ひょっとして未到達の階層なのか?……そんな、まさか……」



 1層の崖から落ちて、この程度の怪我ですんでいるなら、2層くらいのはず。



 「それでも、整備されていない場所という事は……」



 嫌な予感がした。僕はそれを払拭するように再び、バックパックに手を伸ばす。 


 取り出したのは魔石。


 周囲を照らしながら、浮遊する魔力が込められているタイプ。


 それを発動させ、宙に浮かばせる。


 光で魔物を呼び寄せてしまうかもしれない。 


 それを防ぐために魔物避けの道具を複数取り出す。


 まずは松明型トーチの道具アイテム。



 「よかった。壊れてない」


 火を灯すと魔物除けの煙が周囲に広がっていく。


 鼻が利くタイプの魔物には近寄れないほど、酷い悪臭らしいが、人間の僕に臭わない。 

 次に取り出した小瓶だ。ガラスでできているが破損はない。



 「これこそ、よく瓶が無傷で済んだなぁ」



 小瓶のふたを開け、中の液体を体に振りかける。 


 中身は聖職者が、浄めた水――――聖水だ。 


 これで不死系アンデットタイプの魔物を遠ざける。



 短い杖。



 魔法使いが使う杖を簡易化した物。


 杖の先を地面に刺し、結界効果のある魔法陣を書く。


 さらに取り出した道具アイテムは、これまでと真逆だ。


 魔物を遠ざけるのではなく、引き付ける道具アイテム。


 魔物が好む肉を加工してしたモノ。それに特殊な液体をかける。


 それを食べると神経を刺激して混乱状態になる液体。


 一種類だけではない。マヒの効果がある液体もあれば、単純に猛毒の液体もある。


 それらを次々に振りかけ、できたモノを遠くへ。


 できるだけ、遠くへ投擲する。 何度も、何個も、作っては投げての繰り返し。

 次々にばら撒く。



 「これで、当分は魔物の襲撃はない……と言いきれないのが辛いところだな」



 さて……一通りの防御方法をこなした。


 次は、何をするべきか? 少し考えた。


 生存率は僅かでも高めるためだ。この事態で考え過ぎて困る事はない。

 僕は上を見上げた。 


 視線の先には、不自然な漆黒の闇が広がっている。


 さらに、その先から、僕は落下してきたのだ。


 落ちていた小石を拾い上げ、その場所に向かって投げた。


 「……」


 いくら待っても、投げた小石が落下してくる事はなかった。

 僕の予感は当たっていた。



 時空の歪。



 それはダンジョンに複数、存在している。


 そこに足を踏み入れると、全く別の場所へ飛ばされてしまうのだ。


 言うならば、瞬間移動魔法ワープみたいもの。


 僕が落ちた場所に、それが存在していた。 そして、1層以外の場所へ飛ばされた。


 そういう事なのだ。



 「……最悪だ」



 ここが何層かわからない。 

 

 つまり―――― 本当に―――― 人間が踏み入れていない場所の可能性もある。


 緊急連絡用の魔石を取り出し、試したが通話不能の状態。


 つまり―――― ここから自力で脱出しなければならない。



 「どうする? どうしたらいいんだ?」



 考え過ぎて困る事はないと思ったばかりだったが……前言撤回だ。


 冷静さを取り戻せば、取り戻すほどに混乱していく矛盾。



 だから、遅れた。


 周囲から聞こえてくる異音に――――


 何らかの生物の鳴き声に――――





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