第14話 可能性を考えれば、無限にある
「なんの音……鳴き声だ?」
魔物だろうか?
僕は、自分の装備を確認する。魔物避けの効果は継続中だ。
魔物以外の生物……あるいは探索者がいるのか?
いや、魔物避けを無効にする魔物がいる可能性も……
脳裏に高名な探索者の言葉が浮かぶ。
『可能性を考えれば、無限にある。 ここはダンジョンであり、何が起きても不思議ではない』
だったら、ここに陣取っていても安全とは言い切れない。
生き残るためには……不安要素を物色しなければならない。
松明型の道具を地面に突き刺した。倒れないように、周りに石を積んで固定する。
即座に逃避できるようにバックパックは置いていく。
中身の半分―――特に重要な道具だけは持ち運べるように別の袋に詰め直し、背中に背負った。
もしも、ここに戻れなくても、暫くの生存は可能……のはず。
一歩、一歩、地面を踏みしめる毎に心臓の鼓動が響く。
それに比例して、鳴き声はハッキリと聞こえてくる。
そして――――
「……落石?」
大きな岩。それに追随したように石と大量の土。
それらが、土砂崩れのようにダンジョンの通路を塞いでいる。
生物の鳴き声はそこから聞こえてきているみたいだ。
「けど……どこだ? この鳴き声はどこから?」
どこを探しても、鳴き声の主の姿は見えない。
この下、土砂崩れに巻き込まれたのか?
なぜだろう? 自分の内側から湧き出てきたのは、不思議な感情だった。
この時、僕は助けなければならないと、不思議な使命感が芽生えていた。
助けた結果、その相手が魔物で、食い殺される可能性は頭から抜け落ちていた。
なにか、こう……うまく言えないけれども……確かな予感めいたもの?
それが自分よりも、遥かに上位の存在であり、助けなければならないと無意識に理解している。
それが僕を突き動かしている。 失敗は許されない。 慎重に、そして迅速に――――
地面を掘り起こしていく。
そして――――
「いた!」
空間? 土の中、ソイツの身を守るように小さな空間が存在していた。
魔力で自分の周りだけ防御壁を作っていたのか?
僕は、そんな事を考えてる最中――――
ソイツと目が合った。
そう認識した次の瞬間、ソイツは僕の顔面に襲い掛かってきた。
悲鳴を上げる隙もなく、僕の顔を覆うソイツ。 その勢いで、後ろへ倒れた。
生きる罠を化したスライムを連想する。
僕は混乱しながらも、背中を浮かし、短剣を……あれ?
様子がおかしい。 まるで―――― まるで、実家で飼っていた子犬がジャレついてきてるような感じ……
いや、実際にジャレている? ソイツは僕の顔面をペロペロと舐めまわしていた。
「なんだ?何なんだ?お前はって…… え?」
僕はその生物を知っている。
いや、僕だけではない。誰だって知っている。そして、誰も見た事はない。
神話の世界。あるいは古い冒険譚でしか登場しない生物。
現実と架空の境界に存在すると言われる生物。
まるで爬虫類をふっくらと太らせたような体型。 背中に生えた翼に尖がった牙と爪。
手と足もある。そう、その生物とは――――
「もしかして、お前、ドラゴンか? その子供か?」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
『ドラゴン』
それは生物であるという説。 それは魔物であるという説。 何かわからない未知の存在説。
要するに正体不明の生物であり、この世の中に存在しているかどうかも怪しいと言われている。
人間を遥かに超える英知と魔力。 そして、単純に巨大な肉体。
単純に魔物という種類カテゴリーに分類するには、規格外すぎる。
ゆえに神話生物。 それが、僕の顔面に張り付いたモノの正体だった。
「……どうするんだよ? これ?」
ドラゴンは、僕の足に頬を擦りつけている。
要するに完全に懐かれたわけだ。
もしも――――コイツを連れてダンジョンから脱出できたら……国が買える。
冗談でも、大げさでもなく、本当に小国くらいの領土は購入できる。
つまり、国王だ。 それくらいの価値はある。余裕である。
無論、売っぱらってしまえばの話だ。
しかし、それが現実になるのは、ダンジョンから無事に脱出できたらの話だ。
むしろ、コイツの出会いで、現状の困難さを実感してしまった。
「長い間、人類と交流がなかったドラゴンが存在する階層なんだよな……」
絶望的だ。 ここが少なくとも100層よりも下――――人類が未踏破の領域
だとわかってしまった。
唯一の幸運は、100層以下の魔物にも、魔物避けの効果があるという事だ。
効果がなければ、今頃は体の原型すら残っていなかっただろう。
最も、魔力避けの効果が永遠に続くわけではない。 それが尽きた時が……
「いや、ダメだ。そんな事を考えてたらダメだ!」
僕は頭を振るい。 ネガティブな感情を振り払う。
大丈夫、僕が落下した場所をオントが見ている。 そこ中心に調べてくれれば……きっと!
僕はバックパックを置いていた場所に戻り、体を休める。 火を起こし、食糧に熱を入れる。
残りの食糧は……3日分。 魔力避けの道具も同じ3日分の効果だ。
とりあえず、3日は生き延びれる。 たぶん……
簡易的なスープと乾燥させた肉。
僅かな食事を口に流し込む。
気がつくとドラゴンの子供が「くぅん くぅん」と甘える犬のような声をだしていた。
「ん~ お前も食べたいのか?」と僕が聞くと、子供ながらも鋭い牙の群れから、大量の唾液を漏らし始めた。
「もしかして、お前、人間の言葉がわかるのか?」
いや、ない話ではない。なんせ、コイツはドラゴンの子供だ。
そんな事を考えながらも、食事をソイツに分け与えた。
すると、ソイツは凄まじい勢いで粗食を開始した。
「すげぇ、食べるんだな。お前…… ん?」
流石のドラゴンでも、落石で無傷とはいかなかったのか、足に流血が見て取れる。
ドラゴンにも回復薬は聞くのかなぁ?
ここに落ちて、最初に使った直接体内に注入するタイプの回復薬はダメだろう。
ドラゴンの体内に回復用の魔力を注入するなんて、何が起きるかわからない。
そもそも、針を体に突き刺して注入して、敵対行動と勘違いされたら洒落にならない。
正直、こんな子供のドラゴンでも、戦闘になれば勝てる気がしない。
……というより、確実に瞬殺されてしまう。
僕は、複数の薬草を混ぜて、液体化させたタイプの回復薬(塗り薬)と取り出して、傷口に優しく塗ってやった
ドラゴンも治療を受けていると理解しているのか、甘えた犬のような声を再び出している。
(さて……これからどうしたものか?)
そんな事を考えながら、僕は就寝の準備に取り掛かった。
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