第5話 少年の始まる飛躍  決闘決着 

 開かれた空間。


 僕とオントの間に遮蔽物は存在しない。


 僕に勝機があるならば接近戦。


 互いの間合いから接近戦に持ち込むには――――僕の全力疾走で、およそ5秒。


 もちろん、オントは置物じゃない。僕が前に出る動きに合わせて、彼も動く。


 僕が接近戦に持ち込むまで2発……いや、3発は繰り出せるはずだ。


 それでも被弾を恐れず、前へ―――― ただ、前に突き進む。


 それができればカッコイイかもしれない。しかし、現実的な話――――そこに勝機は存在しない。


 ……もっとだ。僕が求めるのは、もっと困難で、限りなく不可能に近い方法。


 例えるならば―――― オントの攻撃を封じ、尚且つ、互いの間合いを瞬時に縮める。そんな魔法みたい方法だ。


 そんな方法は――――


 ある


 僕は鎖を回す。


 それと同時にオントも止めていた鎖を回転させる。



 来い、来い、来い……



 狙って来い。僕の無防備な頭部に、その金属の塊を放て。


 あぁ、気がついてるんだね、オント。流石だ。


 そうだ。これは罠だ。 それでも君なら――――僕の作戦なんて真正面から――――実力で叩き潰そうとしてくれる。そう信じている。信頼すらしている。


 そう、君の強さは、君の信念は、信頼に値する。


 そして―――― 



 来た!?



 予測通り、僕の顔に真っ直ぐ正面。 

 

 どんなに速くても―――― 


 「わかっていたら避けれる!」


 僕は体を横に、倒れるように動く。


 顔の真横、視線の端で金属が通過していく。


 しかし、僕にはそれを確認する余裕はない。


 真っ直ぐに伸びきったオントの鎖。それに向かって、僕は――――


 十分に回転させた、自分の鎖を叩きつける。



 2匹の蛇のように、複雑に絡み合う2つの鎖。



 絡み合った鎖。2つの鎖が1つになる。


 僕は、それを渾身の力を込めて引き寄せる。


 力勝負。 単純で、そして、純粋な力勝負だ。 


 平均的な大人よりも恵まれた体格のオントを相手に……


 中型の魔物相手に力勝負で勝ってしまうオントを相手に……


 無謀?でも――――


 不意をつかれ、脱力しているオントが相手なら?



 効果は予想通り。 大した抵抗もなく、前にバランスを大きく崩すオント。


 しかし、それもすぐに終わる。


 大きく前へ足を踏み出し、オントは動きを止める。


 そして、表情には怒り。 


 そんなオントの次の行動は? そんなの決まっている。


 不意をつかれ、無防備に引っ張られた人間は、反射的に――――


 引っ張り返そうとする。



 「そこだ!」



 気がつくと僕は叫んでいた。


 僕の体は既に動き出し―――― 前へ―――― 前へ――――


 僅か3歩で助走を完了。そして、若干のタイムラグがあるものの、鎖を通じて手から感じられるオントの剛腕。


 そのタイミングで僕は……飛んだ。


 僕は跳躍して、飛翔して、そして飛行した。


 オントの怪力によって、互いの間合いが、瞬時に無ゼロへ向かっていく。


 オントの顔が近づいていく。その表情は驚愕そのもの。


 さらに言えば、彼の体勢は崩れていた。 後方へよろめいている。


 きっと、僕が前へ飛んだ事によって、引いた彼はバランスを崩したのだろう。


 この瞬間、オントからの追撃も、カウンターもないと確信した。


 あとは――――


 「どこでもいい。だから当たれ!」



 僕は、右腕に巻き付いた鎖をそのまま――――

 彼に――― オントに――――


 叩き付ける!



 二の腕から伝わるのは、確かな感触。 確かな手ごたえ。


 鎖を巻いた僕の右腕は、彼の首へ直撃していたのだ。


 それを自分の目で確認して、数瞬後に……



 「それまで! 勝者、トーア・サクラ!」



 サンボル先生の声が校庭に響いた。


    

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