泉翔也の視点2

 家の周りは登校や友人と遊ぶなどの都合で熟知していたため、そのスーパーマーケットに辿り着くのにそう時間はかからなかった。中に人は一人もいないのだが、自動ドアは何故か普通に作動した。電気がまだ通っているということか。翔也は、どうぞお入り下さいと言わんばかりに大きく開かれたその無機質なドアに足を踏み込んだ。通知音が鳴る。


『主さんは今何処ですか?』


 アニメアイコンの短文が一番上に来ていた。これから先はすべてに返信は難しいと思ったので、先程歩きながら、『一つ一つ分かる範囲で答えていくので、返信すべてに返せるわけではありません』と呟いたおかげか、返信の数は徐々に減り始めていた。

 今何処か……か。

 僕はそのスーパーマーケットから出ると、その写真を一枚、スマホに収めた。意図せずフラッシュが光り、無機質に激しく割れたガラスが白塗りに映る。


『今、自宅付近のスーパーマーケットに来ています。付近同様、スーパーマーケットの中に人は見当たりません』


 早速、返信が流れる。僕が食料を確保したことを、まるで砂漠にオアシスでも見つけたかのように喜ぶ人、未だ疑う人もいる。

 その玉石混交の中から一つの返信が目に止まった。どうやら返信主は女性のようで、間抜けな絵文字で驚きを表現している。


『え、このスーパーマーケットって今私が働いてるスーパーマーケット〜?? Σ(゚Д゚)』


 その返信に添付された写真には、確かに僕が今いるスーパーマーケットらしき写真がある。しかしそこには客も店員もいて、にこやかに母親と手を繋ぐ少年の笑顔まではっきりと写していた。そして、いよいよ怖くなってきた。

 やっぱり、人が消えたんじゃない。僕が違う世界に飛ばされてしまったんだ。

 僕はカメラアプリを再起動させて、再び入室した。小さく呟いた「おじゃまします」は隅の方に転がって消えた。僕がまず最初に向かったのはレジだ。別に金を取ろうというわけではない。いくら何でも、一般人がレジを開け閉めしているのを見ればもっと信頼してくれる人がいるかもしれない。そして、それがさらに話題を呼び、いつか専門家やメディアの目に止まれば、本当にこの世界から脱することができるかもしれない。

 撮影した動画を投稿する。画面を回転する魚のようなローリング画面は硬直している。しばらく時間がかかりそうだな、と、僕は冷静さを取り戻すべく、目の前にある飲み物コーナーに近づく。人がいない。だから、お金は払わなくてもいい。…それは、人道的に駄目かな。と僕の心が囁いたので、ポケットにあった小銭をカウンターに置いて、炭酸飲料を摘む。冷やされているあたり、やはりここにも電気はきているようだ。

 シュッと空気を放ってペットボトルの蓋が転がる。僕はそれを目で追いながら喉を潤していた。そのさなか、ペットボトルの表記がふと目に入った。

『賞味期限: 2128年8月5日』

 え。

 唖然としてそのペットボトルをもう一度見る。確かに、そこには『2128』の字。今は、確か、2019年のはず。2128?

 僕は慌ててそこらのおにぎり、パン、菓子やらをひっくり返して賞味期限を確かめる。普通、賞味期限がかなり短いお惣菜でさえ、『2128年7月25日』。今日の日付と同じではあるけれど、表記によれば109年ほど先の未来に来たことになっている。固形食料に至っては、消費期限は2130年だ。どう考えてもおかしい。誰が、なんのためにこんなことを?

 僕はとりあえず、その写真をSNSに投稿する。


『商品の消費期限は全部百年後の物になっています。ぶっちゃけ、凄く怖いです』

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