第2話 無個性
「次、受験番号18番の笹原志乃さん」
寒さと不安で悴んだ《かじか》手に、はぁっと息を吹きかけて面接会場の扉を開けた。
いつの間にか受験当日になってしまっていた。私の受験する学校は試験に面接が含まれるので、ものすごく時間がかかる。
「失礼します」
ノックは3回、入ったら扉を閉めてお辞儀。もはやロボットのような動きで一連の流れを済ませる。
指定された椅子に座り、いよいよ面接が始まった。
「笹原さんの得意教科は何ですか?」
得意教科………私には得意教科というものがなかった、どれも満遍なく劣らない、だけでこれと言った得意な教科はなかったのだ。
「ありません。でも、苦手な教科もありません」
どんどん新しい質問をされる。その度に私は言葉に詰まる。何ひとつとしてインパクトのある《ルビを入力…》ことが話せないのだ。
「この学校に入って、頑張りたいことはありますか?」
「え、ええと…勉強を頑張りたい、です」
1度もまともな受け答えができないまま面接が終わった。
気分はだだ下がりだった。扉を閉めて俯きながら歩く。
やっぱり私は普通の女の子なんだ。
後ろから次の受験生の面接内容が聞こえてくる。
「…勉強を頑張りたいです」
みんな、同じことしか言えないのだ。
私がこの学校に入ったところで、きっと私の代わりはたくさんいるんだろうな。
私はこれ以上面接会場にいることが辛くて、足早にその場を去った。
「ただいま…」
「おかえり志乃!」
「お母さん、私、受験ー」
私の残念すぎる受験報告は、いつもよりやたらとテンションの高いお母さんの言葉で掻き消された。
「志乃、お姉ちゃんになるのよ、妹ができたの」
…妹???
予想の斜め上を行くお母さんの言葉に何度も口をパクパクさせてしまう。
「妹ができるの??私に??」
「そう、来年の夏あたりに産まれるのよ」
私がお姉ちゃんか。
お母さんに受験の話を完全に無視されてしまったことは何だか寂しかったけれど、お姉ちゃんになったら私も今までの普通の女の子ではない気がして、少しだけ嬉しかった。
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