だいたいにんげん

まるもち

第1話 普通

薄いカーテンから覗く太陽と母親の作る甘い玉子焼きの匂いによって目を覚ます。私が1階に降りると、いつも通り新聞を読みながらコーヒーを飲むお父さんと、朝ご飯を作るお母さんの顔が見える。

「志乃、おはよう」

「おはよう、お父さん、お母さん」

いつも通りの朝だ。私は笹原志乃ささはらしの、12歳。

お父さんもお母さんも優しくて、友達も普通にいて、勉強も運動も普通にできる、でも飛び抜けた何かがない、そんな女子小学生だ。

それでも別に不自由はないと思っていた。

そう、あの日までは―。


「ただいまー」

家に帰るとお母さんが名門私立中学のパンフレットを持って走ってきた。

「志乃、テストの点数もいつも80点以上じゃない、きっとこの中学校に合格できると思うのよね」

私立中学を受験する、なんて頭は私には全くなかった私は咄嗟の判断で首を大きく横に振った。

「さすがに無理だよ、だって私、ほら、ずば抜けて頭がいいわけじゃないし」

そう言うけどお母さんは聞かない。

いつの間にか願書に筆を走らせる有様だ。

困惑した気持ちと共に、どこかお母さんに期待されていることが嬉しくて、私は少し胸を踊らせた。

普通な私でも、この名門私立中学に合格したら普通じゃない、頭のいい女の子になれるんだ。合格したら私、普通の女の子を卒業できるんだ。

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