奇跡の御業

「おいおいおい、どうなってるのさ、私の腕が、見ろこの通りピンピンしてる」

「え、菊花それ痛くないの? ちょっと触っても平気?」

「何かあったでごわす……千堂どん、その腕!?」

「まぁ、腕が治ってるの、それ」


 絶句、俺は何か言おうと口を開くが何も言えなかった、エルが千堂の腕に触ったと思えば、なんと腕が直っているのだ、これも魔術だと……あんな、子供だましの言葉が詠唱になったのか、馬鹿げてる、こんな技があるだなんて。


「これはエルがやった事なんだな、魔術を使って骨を再生させた、そうだな」

「そ、そうだよ、菊花おねーさんの腕が治ったら、お馬さんに乗れるんだよね? 嬉しいんだよね、エルもそれなら嬉しいな!」

「私はそうだね、早速馬主様と調教師の方に連絡して明日にでもスカイに乗って訓練に戻りたいね、あ、でもどう説明しようかね、これ」

「そりゃ、そのままエル嬢が清孝どんの言う、まじゅつ? でごわすか、それで直したって言えば……」

「いやいやいや、キドンさん、魔術なんて子供の御伽噺とか民間伝承のお話を信じる人はそうそういませんよ、いや、目の前にしたので私は信じますけど、それでもただの子供がちょっと触ったら治っただなんて、そんな馬鹿げた話は誰も信じません!」

「俺としても表沙汰にしたくはないが、何とかならんものか」


 俺はエルの肩に手をかけて、これが本当にエルがやった事なのか再確認すればエルは親切心で無邪気にそう答える、千堂も自分が腕の治った事を喜び明日にでもレースに向けての練習がしたいと言う、だが問題なのは説明である。


 まず魔術なんてものが子供が使える訳が無いと言う一般論が根底にあるが為、本当の事を言って信じる者はそうそういないだろう、それに俺としてはエルを表沙汰にはしたくない、これが表沙汰になればエルの下に怪我をしたから直してくれという話がひっきりなしに舞い込んで来かねない、それはエルの自由を奪う事に繋がる事だ。

絶対に避けたい。


「とりあえず、エルさんの事は内々に説明をするだけに留めてはどうでしょう、腕を直した医者の素性は企業秘密や個人を尊重して秘匿いたしますって、菊花さんの記事はクレナさんが書いてるのだから、それくらい訳ないでしょう」

「難しい注文だけど、おっけいです、そこらへんは私に任せてください清孝さん、あ清孝さんって、連絡魔法水晶ってお持ちですか? よろしければ連絡先を、それで暇な時にでもデートとかぁ」

「あ、ああ、持ってるぞ今出そう」


 ルイーズさんの起点を利かせた提案をクレナが請け負う、そして今後についての連絡用……という訳でも無く思いっきり個人的な目的で連絡先を聞かれる。むぅ、無碍にする事も出来んな、それに雑誌がどうなったかの情報を聞く事も出来るだろう。

一応、自分は旅をする身であるため、更に言えば持ってるだけで魔力が無い為、頻繁に連絡が出来ない等を理由にして、デートだけはやんわりと断った。


「さてと、今度こそお暇するよ、菊花賞それなら出れるだろう、当日は見に行くから是非優勝する姿を見せてくれよ、千堂騎手」

「私とスカイであれば数日の遅れを取り戻すのも容易、必ず一位になるよ、エル君

お礼についてはまた後日、そうだな菊花賞の後にでもまた会った時に」

「別にお礼とかいいよー、菊花おねーさんが元気ならそれで一番だよ!」

「嬉しい事言うね、魔央君、娘を私にくれないかい、大事にするよ私は」

「やらん、まだ俺の娘だ、それじゃあまた会おう」

「ああ、また会おう」


 今度こそと腰を上げて俺とエル、キドンは部屋を出ていく、腕を直した礼にアイツもしかして菊花賞の優勝賞金をやるとか言わんだろうな、確か菊花賞の優勝賞金って

軽く1億超えてたよな、渡されても困るぞ、おい!?


「いやぁ、まさかエル嬢があんな凄い事が出来るとは思わんかったでごわすよ」

「俺も正直、あそこまでの事が出来るとはな凄いと言う他無い、しかし強い気持ちがとか言ってたがどういう事なんだ?」

「あのね、サラワティおねーさんが言うには魔術は想像や気持ちがその力のさい?

って奴にえーきょーするんだって」

「差異が影響ねぇ、つまりあの時はエルが千堂の腕を直したいって思ったから出来たって事か?」

「それだけじゃ駄目で、魔術をかける人や物にも強い気持ちが必要なんだって」

「成程、千堂も治ればそれが一番だと、というか腕が直るんなら誰でもいいから直してくれって切望してた感じだしな」

「じゃあ、誰しもを直せるわけではないでごわすな、エル嬢だって悪い人に怪我を直せと脅されても直さんでごわすよね」

「うーんと、痛いのは皆嫌だろうけど、でも悪い人なんだよね、悪さしないって約束してくれたらやるかも」


 家を出て大通りを歩いてる途中、キドンが口を開きエルを手放しに誉める。

俺も同じくエルを褒める、だがそれと同時に強い気持ちがと言っていた事を思い出し尋ねてみれば、サラワティとの研究と考察結果から基づいて、エルの魔術はエル自身の強い感情に起因するようだ、山羊の時もエルの離れて欲しいという強い感情により発動してしまったと言う所か、これは子供が使うにはちと厄介だな。


 子供ってのは感情をコントロールする部分は未熟な所がある、山羊の時はグリンがおおらかだったからよかったが、これが気難しい奴や所謂偉い人に発動でもした日には大惨事だ、こりゃ俺の責任も重大だな。しかしキドンの言う通り感情に起因するのであれば、上手く感情をコントロールさえ出来れば、発動する事はないのだ。


「エル、優しい子になろうな」

「いきなりどしたの、おとさん?」

「清孝どん、エル嬢は十分優しい子でごわすよ」

「ああ、そうだな」


 エルに一言そんな事を言えば、不思議そうに俺の方を見て来る、キドンもまたエルの事を評価してくれる、うん、エルは十分優しい子だよな。この旅を通じて色んな人と出会い、色んな感情を知り、色んな知識を身に着けている。

 だが、その本質は心優しいいい子な筈さ、だからこそモロク爺さんも魔術の才能を開花させたのかもしれんな、エルが悪い事には使わないと信じて。


「そろそろ日が暮れるでごわすな、ローラどんの所に戻るでごわす」

「だな、夕飯は美味いとサイラスがいっていた、どんなものか楽しみだ」

「エルも、美味しい物食べたい、早くいこー!」


 こうして千堂の見舞いを終わらせ俺達は今日取った宿へと戻るのであった。

 





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