友人を訪ねて 古馴染との再会③

「ああ、そうだ、これ見舞いの品だ、是非貰ってくれ」

「へぇ、ジャムか、ちなみに何で出来たもの?」

「バラだ、知り合いの料理人が作ってくれてな、ちなみにお前のファンだぞ、紅茶に入れるなりクッキーに乗せるなりして食ってくれ」

「ファンからの貰い物とは嬉しい限り、ジャムは好きなんだよね」


 ちなみにこのバラ、先日エルが魔術で出した大量の花の中からマルコに分けた物が返って来た物で俺が友人の見舞いに行くなら持っていってくださいと渡された物だ。

マルコも千堂に渡されているそれも喜んで貰えてると聞けば小躍りする事だろうな。


「しかし割と洒落た物を出すね魔央君、棗君は君の事を女相手にお洒落の一つも出来やしない武骨な男と称してたのに」

「そういう奴がいないだけだ」

「娘もいるのに? いい歳してるんだから、さっさと嫁を見つけてはどうかな?」

「余計な世話だ、ほっといてくれ」


 こいつも礼に乗っ取って、白石の力で若返っている、ええい俺も失った青春を取り戻したいが、こればかりは仕方のない事だ。


「皆ー紅茶入れて来たよ、はいどうぞ、こっちのジャムは清孝さんのお土産?」

「ああ、薔薇のジャムだそうだ、早速ロシアンティーにでもしようかな、魔央君達も使ってくれていいよ、クレナ君小皿も持ってきてくれ」

「はいはーい、ちょっと待っててねー、はい人数分かな?」

「ほう? 紅茶にジャムを使うんでごわすか?」


 クレナが人数分の紅茶を持って来てテーブルへと置いていく、千堂はそれに礼を言いながら小皿を用意して欲しいと言う、紅茶を飲むのに小皿なんているのか?

そしてキドンはどうやら紅茶にジャムを入れて飲むと言う文化が無かったのかどんな味がするのかと興味津々であった。


「それではいただくでごわす、これはそういえば果肉が全然残ってないでごわすな、おいどんの国のジャムは果肉が残っているのでごわすが」

「えー? ジャムに果肉は残らないよー」

「キドンさん、山人族のジャムは砂糖では無く蜂蜜や糖蜜を使いません?」

「そうでごわすな、帝国では違うんでごわすか? 国一つ違うだけでジャムの作り方も違うんでごわすなぁ」

「そうですね、山人のジャムもそのうち食べてみたいですね、おそらく私の好みだけで言えば、山人のジャムの方が好きだと思いますので」


 キドンが自分の国のジャムと持って来たジャムが違うと指摘すれば千堂が一つ質問をする、へぇ山人族は蜂蜜や糖蜜でジャムを作るのか知らなんだ、俺にはジャムの違いなんぞ判らんが、何やら違うそうだな、まぁいいとりあえず俺も一匙紅茶に入れて頂きます……うん、美味い。バラの香りと言うのかね、それがいい。

 

「紅茶を飲む前にジャムを口に含んでから飲む、これが本場ロシアの飲み方……なんてね、私はこの飲み方が好きでねそれに美味いんだ」

「ほう、そういう飲み方もあるのか、砂糖の代わりに入れるものかと」

「飲み方は人それぞれだし本場なんて言ったけど別の飲み方が悪いとは言わない。

好きなように飲めばいい」

「では、おいどんは千堂どんの飲み方を…………美味でごわす! おいどんの国ではジャムと言えばヨーグルトに少し入れるかそのまま食べるものでごわすが、こんな味わい方もあるとは驚きでごわす、それにこれは味もさながら、鼻も楽しませてくれる実に素晴らしい飲み方でごわすよ! これはもう止まらんでごわす、おかわり!」


 俺やエル、クレナが同じようにジャムを紅茶に入れてる中で千堂だけが別の飲み方をする、本場ロシアねぇ、そういや周防が千堂とどこそこに行ったという話をする時は大体喫茶店だったな、お茶に並々ならぬこだわりでもあるのかと言えばそうでも無いのかね、好きに飲めばいいと、キドンは千堂の真似をして飲めば大絶賛。

解るぞキドン、だが、落ち着いて飲めないのかね?


「ただいまー、あら何か良い匂いがするわね、紅茶かしら?」

「あ、ルイーズさんお帰りなさい、清孝さん、もう一人の同居人が返ってきました」

「ああ、お邪魔しています、清孝魔央と申します、今日は友人の見舞いに来まして」

「お邪魔しているでごわす! おいどんはキドンと言うでごわす」

「こんにちは、おねーさん、エルはエルです!」

「この家にこんなにお客さんがいるだなんて久しぶりねぇ、ルイーズと申します。

どうぞごゆっくりお寛ぎ下さいませ、お二人は軍人さん? 勇ましい軍人さんと可愛らしい軍人さんね、私軍人さんは好きだから素敵だと思うわよ」

「「えへへへ」」


 紅茶を楽しんでいる所に家のドアが開き人が入ってくる、クレナがルイーズと呼ぶ彼女は雰囲気や見目から落ち着きのある女性というのが伺える、パンや食材の入った紙袋を抱えてる所から今日の食事の買い出しの帰りと言った所か。

俺は普通にエルとキドンは軍礼をすれば柔らかくだが少し寂しそうに微笑み二人の事を褒める。何、顔を赤く染めてるんだ。しかし軍人が好きねぇ。


「あれでも3年前は酷かったんだ、恋人を失い一時期自殺まで計ったくらいだ、その姿が痛々しくてほっとけなくてね、ルームシェアを提案して、今日まで一緒に暮らしてる、私も愛馬を亡くして人恋しかった時期であったからよかったと言う物だ、今では軍人だった恋人の分まで生きるんだって、とっても健気で素敵な人だよ」

「そうだったか、ヘルパッカはそういう女が多いな、仕方の無い事とは言え」


 やはりと言うかそうかというべきかという経歴の持ち主であった、して何故こんな未亡人やら恋人を失った女性が多いのかとと言えば、このヘルパッカ領は軍人と傭兵の数が帝国の他の場所と違い相当数がいる、その為、恋人を失った女性や未亡人の数もおのずと増える訳だ。その理由はこの地の侯爵の経歴にある。


 この地の侯爵ヘルパッカは元々は馬の世話をする下人であった、しかし時の皇帝の圧政に否と答え賛同する若者達と一揆を起こす、まぁ所詮は下人の戯言で最初は皇帝軍に抑えられるが、同じように皇帝を引きずり落とそうと立ち上がった、現在の皇帝のご先祖様に勇気と仁義を称えられ支援を貰いヘルパッカ一帯の皇帝軍を蹴散らしていく。特にヘルパッカは一頭の馬を駆り戦場において馬より下ろす事敵わぬと言われた程の英雄だとか、そうしてヘルパッカはこの地を皇帝から賜ったという訳だ。


 そしてその後も魔獣や長い時が経った時に愚王が生まれた時、圧政を敷く事を誅する事の出来る様にとこの地は傭兵と予備兵の補充に余念がなく、そういった軍法関係も他の土地より厳密に定められている、ゆえの帝都を覗いてもっとも軍人の多い地であるのだ、だからこそ、先の戦争でこの地の男達は戦死してしまった物も多い訳だがまあハリーの様に二重の意味で面の皮の厚い奴は生きてるわけだがな。


「さてと、そろそろお暇するかね、そういや怪我の具合はどうなんだ? 菊花賞には出れそうか」

「いや、ヤブ医者を掴まされてね、治るのは菊花賞の後だと言われてしまったよ

絶対他の馬主の妨害だよ、嫌になるねぇ」


 割と元気そうな千堂も見れた事なので、紅茶を飲み干しそろそろ帰ろうかと思う。

最後に怪我の具合を聞いてみたが、あっけらかんとした態度で千堂は口にする。

こいつも周防と似てるんだよなぁ、どこか余裕のある態度が上手なもんだ、


「菊花おねーさん、大変だね、エルがいたいのいたいの飛んでけってしたげる、おねーさんも痛いの嫌だよね」

「まあ腕がまともに動かないと言うのは苦痛だね、というか動かすと実際凄い痛い、クレナやルイーズさんに迷惑もかかるし、本当に嫌になる」

「あのね、怪我を直したいって強い気持ちがあれば出来るのサラワティおねーさんがそう言ってた、むむむー! いたいのいたいのちょんでけー!」

「いやいや、それで飛んで行ったらこの世に医者と薬師がいらなく…………え?」


 エルが菊花の折れている方の腕に触れながらそう唱えると緑色の光が千堂の腕を包む、するとどうだろう、その腕の光が収まった時、千堂が目を見開いた後、クレナを呼び包帯を外させる、そして外れた時、千堂が折れた腕を何事も無いように上げたり下げたりと自由に動くのを確認する。まさか、エルは……


「よっし成功だね! エルの魔術は元気があれば何でもできる! えっへん!」


 そう、魔術によって骨を再生させたのであった。

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