太陽の家

「しかし、生きていたとはなぁ、こうしてあえて本当嬉しいぞ」

「おいおい、勝手に殺さないでくれよな、そっちも元気そうで何よりだ」

「まぁな! 俺にはやるべきことが沢山あるんだ」

「おとさんのお友達? こんにちは、エルです」

「そっちのは清孝の娘さんかな、俺は天道寺龍馬―――日本人だ」

「にほんじん?」

「お前、そのフレーズ、この世界でも変わらず使ってるのな」

「応! 大和魂! 侍根性! 熱き祖国の血が俺には今日も流れてる!」

「か、格好いい、にほんじんって、カッコいーね!」

「日本人じゃなくて、こいつが格好いいんだと思うんだがなぁ」


 天道寺龍馬、向こうの世界でも自分を顧みず人助けをする事を是として来た好漢。

俺とも友人であり、よく学校帰りにはラーメンを食べた物だ、山の様な大きな男にはエルも少々気遅れして、俺の後ろに隠れながら挨拶をする、それを意に介さず天道寺はエルに手を伸ばし握手を求めると、エルはいつものフレーズに首を傾げる。

 そのフレーズの後に続けた言葉と天道寺の姿にエルは目を輝かせ、彼の言う日本人を賞賛した。日本人がどいつもこいつも天道寺のような好漢という訳では無いが、勘違いさせておくか。ひとまず馬鹿にでかい男二人が道を塞ぐのもなんだと歩き出す事に。行き先は天道寺の自宅もとい孤児院。俺達の事情を説明すれば問題ないと天道寺は答えてくれる。今日の宿を確保できてひとまず安心。


「しかし、お前はこの世界で孤児院を作っていたとはな」

「ああ、ま、俺も孤児院で育った身だからかな、ほっとけなかったんだ」

「おにーさんも孤児院で育ったの?」

「向こうの世界じゃ孤児院じゃなくて児童養護施設だけどな、まぁ理由は違えど親がいない子供を預かる場所さ」


 天道寺龍馬という男は理由があり幼少期を児童養護施設で育った。

その理由は俺が聞く理由も無いし聞く必要も無い、彼が気風も体躯もでかい、強い男で俺の友人、それだけで十分である。


「さーて、ついたぞ、ただいまー!」

「あ、龍さん、おかえりなさい、先ほどお客様が来られて……あら」

「どうも、先ほどぶりです」

「また来たよ! おねーさん」


 しばらく談笑しながら歩けば先ほども挨拶をしに来た孤児院へと到着。

天道寺が何も言わずに扉を開けば部屋の一つから先ほどのお姉さんが出てくる。

俺達がいるのに少し驚いたもののそこで先ほどあった事を説明すれば俺達を歓迎してくれる、さて孤児院の作りと言えばなんら変哲の無い作りだ、基本は大部屋があって個人部屋もあるという感じだ。


「あ、龍にーさんだ!」「あ、龍にぃおかえり」「龍兄ちゃんおかえりー!」

「おう、子供達! 帰ったぜ、そしてお客様だご挨拶しな」

「初めまして、清孝魔央だ、こちらは娘のエル」

「こんにちは」

「凄い! 守護英雄だ」「初めまして」「すっげー、強そう!」


 廊下を歩いていると男女問わず小さな子供達が天道寺にわらわらと寄ってくる。

そして俺とエルに元気のいい挨拶をしてくれる。天道寺が言うにはここでは20数名の子供を預かってるとか大体5~8歳くらいの子供が中心で10歳以上は数名程度この場にはいない模様で外に遊びに行ってるか別の大部屋か個人部屋で遊んでるとの事


「龍兄ちゃん、遊ぼうぜー」

「えー、龍にぃは私とおままごとするのー」

「龍にーさん、勉強教えてー」

「おいおい、俺は一人しかいないんだぜ引っ張らないでくれよ、仕方ねぇな、エリン清孝を俺の部屋に案内してやってくれよ、俺は子供達の相手をするからさ」

「わかりました、清孝さん、こちらにどうぞ


 天道寺は子供達にすそやズボンを引っ張られて困り顔をする。

俺は先ほどの女性、エリンと呼ばれた彼女に連れられ天道寺の部屋へと案内される。

天道寺の部屋はベッドと書き物をする机と椅子に服をしまう箪笥そして帝国から授与された銀獅子勲章がつけられた軍服が飾られていた。


 アイツは他種族紛争ではフレデリック領を中心に精力的に戦って来た。その戦功がああして勲章と言う形で渡されている、確か今は予備兵登録をしてるんだったか。

公国戦争でも銃弾を受けて大怪我をしてなければ男爵位を貰えたかもしれない強者であったな。実に惜しい奴だ。


「あれおとさんも来てた服だ、てんどーじおにーさんも軍人さん?」

「ああ、アイツは確か中佐になったくらいだな、あのガタイだからかなり強い」

「おとさんより?」

「ん~、本気でやり合えば俺が勝つが試合みたいな競技となると多分負ける」


 俺の戦い方は根底に剣道はあってもほぼ実践で鍛え上げられた技が殆どと言ってもいい、なので実践形式というか何でもありなら俺は誰にも負けない自信がある。

ただ、所謂達人相手と競技として戦えと言われれば俺は途端に弱くなる自負がある。

達人相手にぶっちゃけると手加減しろと言われてるもんなんだ、俺の戦法はあくまで殺人目的の技ばかりだ。達人相手に殺さない程度に手加減しろと言われれば中途半端になる、さすがに多少訓練した程度の中堅ぐらいの相手なら負ける事は無いが。


「それでは、私はお夕食の準備がありますのでごゆっくり」

「ん? 案内ありがとうございます、よろしければご夕食を作るのを手伝いますが」

「いえ! それには及びません、夕食を作るのが私の仕事ですから、それでは!」

 

 俺を部屋に案内してくれたエリンさんは夕食の準備があるとそそくさと部屋を出ていこうとする。何か手伝う事が無いかと尋ねれば全力で拒否してその足を更に速めて出て行った。ふむ、料理が好きなのかね? 誰かに邪魔されたくないタイプ。

さてとまぁ荷物を置いてからゆっくりさせてもらうかな。って、この部屋椅子が一つしかないのか……


「あのー、しゅごえーゆーさまもいっしょにあそびませんか?」

「おっと君は?」

「あの、りゅーにーがしゅごえーゆーさまもよんできなさいって」

「ではそうさせてもらおうか、いくぞエル」

「はーい」


 椅子が無いのにどうしたものかと荷物を下ろした後に思案していると、舌足らずな声でいつもの呼ばれ方をする、振り向けば5歳程の小さな子供が立っていた、天道寺に言われて俺を呼びに来たのか折角だし向かうとするか。行き先は裏庭、飯が出来るまで天道寺と子供たちは外で遊んでいるようだ。


「お、来た来た、っよ、清孝」

「天道寺、来てやったぞ、で、何をしてたんだ」

「ほらそこで、ボール使ってドッジボールやってるぞ、俺は休憩中だ」

「面白そう、エルも混ざって来ていーい!」

「ああ、構わんぞ、行ってこい」


 裏庭に出てみればベンチに天道寺は座っていた、とりあえず俺とエルもそこに座る

そこでは子供達が革製のボールを投げ合ってドッジボールをしていた、天道寺が教えたそうで孤児院では日が暮れるまで毎日やってる程の人気の遊びなんだとか。

エルも面白そうだと思ったのか、その輪に混ざっていく、さて実力はどれほどか。


「龍にぃ、お団子出来ましたよ、はいどーぞ」

「ほい、サンキュ……うん、美味い、と、このようにおままごともだ」

「しゅごえーゆーさまもどーぞ」

「ああ、頂こう」


 泥で作られた団子が手渡された、所謂おままごとって奴をやっているそうで、少女は天道寺と色々喋ってから満足したのか泥団子作りに戻っていく、俺に団子を渡した子供は赤面したまま何もいわず俺の前でもじもじしている。


「あ、あのしゅごえーゆーさまはけっこんしてますか?」


 何かを決めたのかようやく声がかけられる。結婚かなんか最近この手の話題ばかりだな、まあしていないと答えるわけだが。


「それじゃ、わたしをおよめさんにしてみませんか?」

「ふむ、気持ちは嬉しいが俺と君じゃ歳も違うから無理だよ」

「……ごめんなさい」

「子供の遊びに真面目が過ぎないか、清孝」

「こういう口約束こそ馬鹿にならんのだよ、俺の性格は知ってるだろう」

「まあ、そうだが……アビー、悲しまないでおくれ、その気持ちが10年後変わってなかったら、また気持ちを伝えてやるんだ、な」

「うん…………」


 少女に勢いのまま逆プロポーズをされてしまう、本当にここ最近女性に言い寄られてるな、子供の遊びと言われそうなその返事に真面目に返す俺も俺だが、生憎ごっこでも嘘をつくのは苦手な性分なんだ。少女は目元に涙を溜め天道寺に慰められる。

ううん……悪い事をしてしまったかな。


「皆―――ごはんが出来たわよー」

『はーい!!』


 やがて日も落ちようと言う時間に裏庭への扉が開きエリンさんがご飯が出来たと声をかけに来てくれた、子供達は我先にとご飯を得ようと部屋へと駆け戻っていく。

さて、今日の夕飯は何なのだろうかね。

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