太陽の家の食事情、次の目的そして出立

「よし、全員席に着いたな、それじゃいただきます」

『いただきまーす』


 あの後、裏庭で散々遊び倒した俺とエル、そして孤児院の全員、勿論天道寺と料理を作ってくれたエリンさんも加えて食堂に集まり食事を食べていた、今日のメニューは野菜たっぷりのポトフにパンであった。


「ちょっと硬いね」

「ふむ……今まで食べて来たものとはまた違うな」

「フレデリック様も皇帝陛下も頑張ってるが戦争の爪痕は今もって奴だ、中々いい物を買うには入り用なんでな、本当はもっといい物食べさせてやりたいが」


 パンに齧りついたエルはパンが硬かったのか少し噛み切りにくそうにしている。

俺は気にならないが、子供にはこの硬さはきつい物があるのだろう。

他の子供達がポトフにつけて柔らかくしているのを見てエルも同じように食べる事に

やはりというべきか、戦争の爪痕はこうした無辜の民の生活にもっとも影響を与えている様だ、勿論陛下や各地の領主が悪い訳ではない、ようは足りないのだ。

天道寺が寂し気なそれでいて優しい目で美味しそうに食事を摂る子供達を見て呟く


 戦争を勝利で終えて得る者は少ない失う物ばかりなのだ。

長きに渡る復興への苦境の道のりだ綺麗になど舗装されていない。

むしろ自らの手で舗装を始める所からなのだ、公国からの賠償金などもあるだろう。だがしかしそれでも現状はやはりというべきかまだまだという事か。


「ちょっと待ってろ、子供達にいいものをやろう」


 俺は席に立つ、丁度いいしここで出していくとしよう、天道寺の部屋に戻りバッグを持ってきて食堂へ戻り俺がバッグを漁る姿を子供も天道寺もエリンさんも不思議そうに覗いている、そんな俺が取り出したのは獣人平原で貰ったお土産とエスパドル領で貰った桑の茶葉、これは天道寺とエリンに天道寺は茶が好きだったからな。


「わー、これなに、これなにー」

「スプーンで掬って食べてみるといい」

「……っわ!? 酸っぱい……でも甘い!」

「こっちのはパンに乗せるとめっちゃ美味いよ!」


 チーズやヨーグルトは子供達に大人気、こぞって奪い合いになっていく。

全員に行き渡るように出してやり満足して俺にしきりにお礼を行って来る。

エルもまた孤児の輪に入ってヨーグルトの味を楽しみながら仲良くなっていた。

仲良きことは美しきかな、いい子に育ってるようで何より。


「これはなんの茶の葉だろうか、ちょっと台所借りるぞ」

「言ってくれれば入れますよ、龍さん」

「いや、俺が淹れるよ、貰った例にな、ありがとな清孝」

「おおむね喜んでくれてるようで何より、ちなみにそれは桑の茶葉な」


 やはり天道寺は俺の出した茶の葉の瓶を見て興味を示した、台所で湯を沸かし俺とエリンさんの分を入れて持って来る、初めて飲むがさて。


「悪くないな、緑茶よりかはやや飲みにくいかもだが、いい風味が出ている」

「ちょっと苦い感じがします、私はあんまり」

「ふむ……言われて見れば緑茶とはまた違うか?」

「エリンが飲まないなら、代わりに貰うぞ」

「あ、ど、どうぞ……」


 思い思いの感想だ、エリンは一口すすったのを置いてしまうも残りは天道寺の胃の中へと収められていく。何故かエリンが顔を赤らめているがどうしたのだろう。


「守護英雄様、もっと、もっとないのかよ!」

「あの甘いのもっとたべたいー」

「おいおい、欲張っちゃいけないぞ、すまんな清孝、出す必要は無いからな」

「ああ、もっと食わせたいところだが、そこまでの量はな」


 桑茶を飲んでいると孤児達が更にヨーグルトとチーズをせがんでくる。

俺とエル、それに帰った時に配る分のお土産は残したいので出して上げれない。

天道寺も申し訳なさそうに俺に頭を下げている、よく見れば孤児の来ている服は仕立てのよい物には思えない、食事もまた質素なものであった。


「なぁ、こういう孤児院への寄付ってのはどこでどうすりゃ出来るかね」

「ん? 多分帝都の銀行で手続きをすれば領主様を経由して渡されると思うが」

「なら宿賃と昔の友人のよしみだ、帰ったら太陽の家当てにいくらか用立てるよ」

「そりゃ、助かるがお前は大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、軍を辞めて放蕩生活をするくらいには余裕があるからな、一人で全部なんとかしようと抱え込むなよ、お前はそういう所があるからな」

「そうですよ、私も子供達も一緒ですよ、龍さん」

「ああ……そうだったな、さてと、風呂入って寝るぞ、ほらお前らもだ!」

『はーい』


 天道寺という男は困った時も悩んだ時も、一人で抱え込もうとしてしまう男だ。

まだ高校一年の頃にも同じように一人で何でも抱え込んで倒れた事あったからな。

真面目なんだ、周りが心配になる程に、心が大きすぎるのも問題だな。


「それじゃ、エルちゃんはベッドを使うといいよ、俺と清孝は布団な」

「ありがとーございます、それじゃおやすみー」

「それじゃおやすみ」


 風呂にも入り寝間着に着替えた俺と天道寺とエルが寝床につく。

もう明日にはここを発ち、快晴号で帝都か……長かった旅も御終いか。

この次はどこに行くか、北か南か情勢の安定しない西はエルと行くにはまだ少し怖いかな、とすると……そういや、秋になれば南部で。


「清孝、まだ起きてるか?」

「ん? ああ、どうした天道寺」

「お前はこの後どうするつもりだ? 帝都に戻るんだろ」

「その予定だ、そうだな小倉との約束を果たして、秋本番にヘルパッカ領でダービー

でも見に行くかな、あそこ等辺なら誰かしらクラスメイトもいるだろ」

「そっか……フレデリック様の下で働かないか誘おうと思ったが、放蕩生活が随分お気にめされたようで」

「ああ、娘との旅はいいぞ」

「そっか……たまにさ、この世界に来たのを後悔しちまうんだ、施設の先生や皆には手紙を渡したけど、それっきりで、心配してるんじゃないかって」

「…………」

「帰れないかなってたまに思うんだ、なぁ清孝、お前はそういう時はないのか?」

「ないな」


 俺は天道寺にそうきっぱりと言い切った。きっと最初は父も母も悲しむだろう。

だがそれ以上にきっと俺の選んだ道を応援してくれている。それと爺ちゃんならば

男なら一度決めた道を貫けと、諦めちゃいけないぞと言うだろう。もしもやり通せず帰りでもした日には、道半ばで戻ってくるとは情けない! そうやって

怒鳴り根性を叩き直そうと地獄の稽古を始めようとするに決まってる。そう思うと、全力でこの世界で生きて行かなきゃって思う。


「だから天道寺もそう思おうぜ、きっと自分の選んだ道を皆も応援してるって、思う事は誰にでもいつでもできる、そしてその思いはきっと届いてるに決まってる、俺は少なくともそう信じてる、それにお前には孤児の皆やエリンさんがいるだろ」

「そっか、そうだったな。変な事聞いて悪かった、寝よう、明日また頑張る為にさ」

「ああ……おやすみ」


 こうして一晩を孤児院を過ごし……夜が明けた。


「本当にもう行くんだな」

「今生の別れでもなし、また縁があれば会う事もあるだろう」

「そう……だよな、うん、そうだな」


 帝都側の城門、そこには子供達にエリンそして天道寺が俺達を見送る為に集まってくれていた、天道寺は目に涙を溜めていたが、俺の言葉を聞くとシャツの袖でそれを拭い目一杯の笑顔を返してくれる、快男児はそうでなきゃいけない。

子供達もまた会おうと一人一人俺やエル快晴号に声をかけてきてくれる。


「さてと、兵士さんそろそろ通るよ」

「はい、お気をつけて!」


 兵士にそろそろ外に出るのでと城門を開けて貰う、早朝の眩しい太陽が目に入る。

眩しさに目を細めながら、快晴号は蹄を鳴らし歩き始める。


「清孝――――! …………またな!」


 背中越しから天道寺の大音声が聞こえる、それは再開を約束するものだった。

俺は静かに拳を作り手を上げるだけに済ませ、城門を潜っていく、エルに返事を返さなくていいのと言われたけど、いいんだ、また会えるんだ、平和と安寧が続く限り。


 さてと、春先から始めた夏が終わるまで続いた長旅はようやく終わりを迎えた。

帰ろう、第二の故郷、俺達の帝都に。

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