快男児との再会
「ここみたいだな、アイツがいるといいんだが? …………おや?」
通りを歩き、少し外れた場所にそれはあった。やや古ぼけてはいるもののしっかりした作りの石壁、それにつけられた木製扉に着いた呼び鈴代わりの金具を鳴らす。
出てきたのは女性、俺とは同年代か年下にあたるであろう大人の女性であった。
彼が出てくると思ったのだが、俺が扉を開けたまま考え込んでしまったのを見かねて女性は声をかけてくれる。
「あの、何かご用事でも?」
「ええ、こちらは太陽の家と言う孤児院で合ってます?」
「はい、仰る通りですが」
「でしたら、
「まぁ、それじゃあ貴方が守護英雄様なんですね!」
「その呼び方は大きな声ではご遠慮頂きたく、それで天道寺は何処に?」
「すみません、龍さんはお仕事でして、夕方までは戻らないかと」
「おとさんのお友達忙しいの?」
「ええ、朝から晩まで、龍さんはヒーローさんだから」
「ヒーローさん?」
天道寺龍馬、それがここ太陽の家と呼ばれる孤児院の院長をする男の名前。
なのだが、どうやら別に仕事もしているようだ、詳しく聞けばフレデリック様直々にこの地での岡っ引き、所謂警察的な仕事を任されているそうだ。今日も街を警邏して回ってるそうなので、街を歩いていれば会えるかもしれないと。
「そうですか、それではしばらく街を歩いてみます、夕方また尋ねるので天道寺が先に戻るようでしたら、清孝魔央が一晩宿を借りたいと言っていたと伝言を頼みます」
「かしこまりました」
「さてと、しばらく街を歩くぞエル」
「え~、この街なんかつまんないからやだ~」
「地元の人間に向かって、そういう事言うもんじゃない」
「はーい、バイバイ、おねーさん、また来るね」
「ええ、またね」
応対してくれた女性に礼を返してから街の大通りに戻る……のだが。
正直この街は俺には向いてない、何せ、この街の名物は魔力を用いて使う魔法道具や様々な魔法の技術に言及した魔導書の類が売られる道具屋と本屋が並ぶばかりだ。
そこにある程度の日用品や食料品店が並ぶくらいで、娯楽施設の類は中々見当たらず
結局はそこら辺の喫茶店で時間を潰すという事になるのであった。
「この街面白く無ーい、モロクおじいのお話やキララせんせーのきょーかしょの方がよっぽどおべんきょになるしなー、ご本も変に難しいのばっか」
エルは喫茶店で注文したジュースを飲みながら不満たらたらと言った感じ。
エルなら魔法にも興味を示すかと思えばそう言う訳でも無かった。というのもエルはこの旅でハイレベルな技術を目の当たりにしている、勿論このフレデリックの魔法や魔法道具が凄くないとは言わない、ただ民衆に出回ってる品は所謂二流品だ。
勿論それが悪いわけじゃない、というより大体生活に使われてるのはそう言う道具が大半だ所謂一流の品は貴族や豪商、軍隊の間にしか出回らない。
代表的なのだと転移魔法の水晶などがそうだったりする。
「おう、なにぶつかって来てんだよ」
「あ、す、すみません、それでは」
「待てよ、ちょっと頭下げただけで謝った気になってんじゃねぇよ、土下座だろ」
「え?」
「謝るなら、土下座だろ、常識だよな」
「ひ、ひぃ!? すみません、すみません」
「なら土下座だよな? 俺は男爵家の長男だぞ、おら、土下座しろって!」
腹ごなしも終わり時間もそろそろという所で喫茶店を出てみれば通りでそれなりに高価そうなローブに身を包んだ男と貧相な見た目をした労働者風の男が言い争い……いや一方的に難癖をつけられていた。男爵家の長男ねぇ、おおよそフレデリック学園の生徒かね? 躾のなってない生徒もいたもんだ、あれじゃ労働者風の男が可哀想という物だ、少し助け船を……ぉ?
「そこまでにしな」
「ああん? 誰だよてめぇって、でかっ」
「天道寺龍馬――――日本人だ」
「テンドージ? ニホンジン? 知らねぇ名前だな、俺に舐めた口きいて何様だ?」
「何様でも俺様でもない、だが、怒声を浴びせ、あまつさえ度を越えた謝罪を求めるそんな君を諫めなければならないと俺が思ったんだ、そこに身分も出自も関係ない」
「うるせぇ奴だな! ……あだっ!? な、なんだこいつの体、かった」
「気は済んだか? ジェームズ・タイター」
「てめぇ、俺の名前をっ!?」
「これ以上の狼藉は理事長に報告する必要があるが」
「くそっ! 覚えてやがれよ!」
俺が立ちあがる前にその男は二人の間に割って入った、古ぼけたYシャツにカーゴパンツと軍用ブーツを身に着けており、人はまず第一印象として山のように大きな男という印象を抱く事だろう事実青年はその大きさに驚いていた。
そしてその男、天道寺は青年の問いに誇るべき祖国を異世界でも知らしめたいんでなという理由で使う短い自己紹介をしながら労働者風の男に先を行くように促す、男はその仕草に一言ありがとうと返しそそくさと去っていく、青年はその事に気づかずに
天道寺にくってかかる、アイツも馬鹿だな、握りこぶしで天道寺がやられるものか。
やがて天道寺が理事長、つまりはフレデリック様の名前を遠回しながらに出せば。
捨て台詞と共に青年は去っていくのだった。さてと、俺も挨拶をするか。
「久しぶりだな、
「? 貴方は……」
「ああ、その振りはもういい、俺だよ清孝魔央だ」
「…………ああ! 久しぶりだな!」
「ああ、久しぶりだな」
誰かと問われる前に俺は自分の名前を名乗る。困ったやつは見過ごせない、弱きを守り、強きを諫め、身体もでかけりゃ心もでかい。
快男児
これ以上彼に似合う通り名は無いだろう、それが天道寺龍馬という男。
俺は伸ばされた天道寺の手を握り彼との再会を喜び合うのだった。
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