移動開始
キララの方の荷物運びも終わったようで、これで全ての移動準備が完了。
さて、グランやキララの荷物はどこに運ばれたかと言うと。
「なぁグリンお前がキララとグランの荷物全部運ぶのか?」
「おう、その通りだぜ俺は二人の兄ちゃんだから」
グリンの荷馬車である、ちなみに荷馬車に馬はいない、ではどうやって運ぶんだと言われれば、それは獣化したグリン達、狼の獣人族が運ぶのだ。
獣人族の移動は馬などを使わず、自分たちで獣化して荷馬車を運ぶようにしている。
「よっと、グラン、荷馬車を俺に取り付けてくれ」
「分かったよ兄さん…………よし、取り付け完了したよ」
グリンが獣化すれば他の荷馬車の近くにいた男達も獣化を始め女性達に荷馬車を取り付けてもらい牽引の準備を始める。グリンはグランに手伝って貰い荷馬車を装着そのグリンの荷馬車であるがグリン自体が巨体の為かなり巨大。それこそグランとキララの荷物である木箱が簡単に乗り、他数名が乗れる程、というか日乃本とキララそれにグランが乗っている。ちなみに俺は今朝のうちに快晴号を引き取り既に乗っている状態。
エルも俺と一緒に快晴号に乗って進む筈だったのだが。
「おおー、荷馬車の上、ちょっとだけ高い」
「すまんなグリン、エルが我儘を言い出して」
エルがグリンの荷馬車というかキララと一緒にいたいと聞かないのでエルも荷馬車に乗っている、おとさんは一人でちょっと寂しいぜ。
「ちっこいの一人くらい余裕だぜマオーさん! グラン、ナビゲート頼む、どっちの方角に進むんだ?」
「ちょっと待っててくれ兄さん…………方角は南西だね、兄さんの向いてる方向から少し右寄りにまず進んで」
「了解だ、お前らついて来い! 出発だ!」
グランだけは獣化せず、どうやら進路を探す役割をするようだ、その手には液晶がついた羅針盤の様な物を持っている、レーダーか何かだろうか? やがてグランが進む方角を指示すればグリンがその方向を向き他の者が付いてくるように号令をして前へと進みだす、さてと何もトラブルが無く進めばいいが。
「まずは一日目、お疲れさん!」
「お疲れ様、何も起きなかったな、魔獣にも合わないし、他の獣人にも」
「今回はマオーさんに気を遣って、他の獣人が来ないルートを選びましたから」
「選んだ?」「よくぞ聞いてくれました!」
日が暮れた頃、草原のど真ん中で俺とグリン達が荷馬車の上で夕飯のスープを飲んでいた、移動は怖くなるほど何も起きなかったのだ、それを俺が疑問に思えばグランがそのように言うので更に質問すれば笑顔を浮かべ液晶つき羅針盤を持ってくる。
なんでも、これも自作の魔法道具、生き物の生体反応から強い魔力を感知する他にも方角、気温、風の向きなど、GPSばりの高性能な魔法道具なのだ。
「これ作るのは結構大変だったんですよ、でも、こいつがあれば馬鹿で無知な爺婆の原始的な方法なんてせずとも、安全かつ迅速な移動が出来るのさ!」
「グランさん、荷馬車の上なので暴れたり興奮するのはちょっと」
「おっと、すみません、とにもまぁ、これがあれば移動は何も問題なしです!」
「ほほう、そりゃ凄いな……」
矢継ぎ早にそして興奮気味に語るグランによって荷馬車が揺れる、スープが零れるからやめれ、日乃本もそれを気にしてか真っ先に注意をする。
しかしグランは案外と口が悪い、丁寧かと思えば興奮すると結構悪態が出てくる。
特に自分を追放した大人に恨みでもあるのだろう、引き合いによく出したりする。
ちなみに獣人本来の移動方法は獣化した物が先行しながら嗅覚で魔獣を察知するやり方だそうだ、そりゃ確かに原始的と言えるかもしれんな。
そうした会話も食事と共に終わりを告げ。夜も大分更けて来た時間、全員寝静まってる所に眠れないのか俺は起きていた。う~む、睡眠障害か? 野宿何てここ15年しょっちゅうだったから慣れてる者だがよもや最近はベッドで寝れるからそっちに慣れ切ってしまったのか……おや、あれは。
「グリン、お前さんも眠れんのか?」
「そういうマオーさんこそ」
「ここ最近はベッドで寝ていたからかね、野宿が落ち着かなくて」
「なら酒でもどうです? あいつらの手前おいそれと飲めないでしょう」
「ほほう、少なくとも日乃本は20だろう、一緒に飲まんのか?」
「ああ……それなんですがね」
同じように眠れないのか、少し離れた場所でグリンが土瓶を持ち星を見上げていた声をかければ眠れない事を指摘されながら酒に誘われる、グランもキララも未成年という事で酒は飲めない(獣人も俺達人間と同じく20が成人である)
それよりも彼らがまだ20になっていないと言うのは中々驚きの新事実だ。
なら日乃本はと言えば一度飲ませたら一杯で気絶するほどの下戸らしく、グリンは全員が寝静まった夜こうしていつも一人で飲んでるのだとか。
「相手がいなければ、つまらんだろうし相手をしてやる」
「ありがとうございます……さ、まずは一杯」
「ふむ、これは……乳酒か?」
「へへ、俺がこっそり作ったんだ、俺のテントに羊と山羊の乳あっただろ、あれが原料なんだぜ、あ、二人に飲ませたのはまだ酒にしてなかったものだから、変に勘繰らないでくれよ」
「ほほう……」
日本じゃ密造で許可なしで酒を造れば一発逮捕だがこの世界に密造酒を禁ずる法律は制定されていない、というより帝国の法律で獣人を縛る事は出来ない。獣人平原にいる限り獣人は独自のルールで暮らすことが許されている、まぁ裏を返せば獣人でも帝国の領地に入れば帝国の法律に従わねばならない訳だがね。
「しかしまぁ、俺がこうしてマオーさんと再会して酒を呑み交わすだなんて、グランとキララと再会できただけでも奇跡だってのに、俺マオーさんと次会うのは地獄だと思ってたぜ」
「そうか、そういえばグランは追放された身で合流は公国戦争の折だったらしいな、それに加えてキララもなのか?」
「あー……酒の肴に昔話を聞いて行きますかい?」
「では、聞かせて貰おう」
「それじゃ話させていただきます、俺達兄弟とキララの物語を……」
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