兄弟の過去

「まず俺とグランは血の繋がりのある兄弟です。でもってキララだけは別ですキララはグランが拾って来た災害孤児って奴だったんですよ」


 星の輝く夜の日、珍しく丁寧な口調でグリンは自分たちの出生からまずは語り始めてくれる。二人は別段特別な生まれという訳では無いが。キララだけは別であるようでグランが移動の時に餓死寸前の所を拾い助けたそうだなんでも部族の仲間は自分を残し魔獣にやられたそうで、まぁキララが真っ白と言うこともあり反対やら虐めやら色々あったようで。中々ハードな境遇だなお前ら。


「まぁ俺はガキの頃から獣化がすこぶる得意で大人達に期待されてました、先にちろっといった通りグランとキララは逆で、大人からしたら扱いにくい奴と言った感じでした」


 そして幼少期、グリンはやはりその力があるがゆえ周りから大きく期待されていたそうだ、その逆で幼少の頃から草原に転がるガラクタやらを集めては何か道具を作る事に楽しさを見出していたグラン、全身真っ白で拾われ子に加え体の弱いキララは部族の大人から見れば目の上のたんこぶ扱いだったそうだ。


「そんな俺達に転機が来たのはそう……他種族紛争が起きて激化し始めた頃、公国の武器商人が部族に来た時です」


 公国の武器商人か……これを事前に俺達が知ってれば紛争で楽が出来た事だろうに

さて、獣人は公国から武器を買う為の金なんて持ってない、それじゃどうやって武器を手に入れたかと言うと、人身売買いわば奴隷として仲間を売ったのである、そして彼らには丁度よく、見目麗しく貴重な白い獣人がいた、キララである。

 グリンやその母親は抵抗するもまだ未成年であるグリンや男性よりも地位が低い女性では発言力は弱く、売られてしまったそうで。

 父親はどうしたかと言えば戦争に賛成側で最初にキララを売る事を提案した元凶側だったそうだ。


「これに最後までつっかかったのは一人だけ、グランでした」


 グリンとその母親は反発し続ければ追放される、それだけは不味いと途中で矛を収めたが収めなかった奴が一人いた、それがグランである、当時まだ10になるかも怪しいグランが大人相手に自作の武器で大立ち回り最後にはボコボコにされてしまうも

大の大人数名が重傷を負ったらしい、そんな反発したグランは処刑される前に逃亡したとか。


「アイツが部族を出る時に最後に言った言葉は今もまだ覚えてる『仲間を売ってまで人殺しの道具を買う糞にも劣るアイツらじゃ、帝国には勝てねぇよ』って、あれほどの悪態をつくグランは後にも先にも見れないだろうなと思いましたよ」


 実際その通りで他種族紛争で狼の獣人族以下獣人達のことごとくは帝国に惨敗している、他種族紛争では獣人族との戦闘がもっとも大勝した紛争地帯と言えよう。


「そんで数年後親父は戦死してお袋も後を追うように死んだと同時に俺も部族を抜けました」


 抜ける前には紛争でボロボロになった部族を立て直せるのはグリンだけだ抜けないでくれと拝まれたが、親も弟妹もいない部族に未練は無かったそうで。

その後は二人を探して帝国や公国を一人放浪していたそうだ。そんな折に聞いたのが公国の裏工作の話。


「これはチャンスだと思いましたよ、便乗して公国に喧嘩を売ってキララを取り返すチャンスだとね、俺は急いで平原に戻って方々狼の獣人族の里を駆け回り同志を募りました。俺のように大人達に反発を抱えてる奴は少なくなかったですよ」


 親がいないもの、親から疎まれている物、親から虐待を受けてる者、伝統や風習をよく思わないものというのは探せば出てくるもので、そういった者達が集まり出来たのが獣人愚連隊の始まりだそうだ。


「かくして俺達は公国と戦争を始めました。その時ですねグランと再会したのは。まさか盗賊になってまでキララを助けようと公国と戦ってるとは思いませんでしたが」


 獣人愚連隊が帝国軍として戦争に参戦。その過程でグリンはグラン達と再会を果たしたそうだ。なんでもグランは追放されたその後、自給自足で食いつなぎながら公国に逃げ延び公国で多額の懸賞金が掛けられる指名手配犯の盗賊として孤独に戦い続けていたそうだ。


 キララもまた公国に奴隷として売られてから所謂性奴隷にされながらも二人が助けに来てくれると信じ生き延び続け。その折に二人と再会した時に知識が二人の役に立つと思い自分から媚を売ってまで本を買って貰い知識を身に着けたりしたそうで。


「驚きですよグランは自分で作った道具を駆使してキララも魔法を使って戦ってたりしてたんですから、しかも俺が見つけた時には二人一緒に公国の兵に囲まれてたんですよ、更に驚きだ」


 かくして再開を果たした三人、キララはひとまず帝国預かりとなり、グランはそのままグリン達獣人愚連隊に合流したとか俺が出会ったのはその後という訳だ。


「そっからはま、とんとん拍子ですね公国と戦い続けて戦功を積み重ね続けて、丁度その時救護班として来てたサクラに一目惚れしたり、報酬で部族立ち上げの為の物資を買い付けたりね」


 後は俺も知っての通りで獣人愚連隊は帝国軍の一角として公国と戦い続けた。

戦後は戦功に見合う報酬を受け取りそれで部族の立ち上げに必要な物資を買い付けて新しい部族を立ち上げる足掛かりを手にしたという訳だ。


「ふぅ……これが俺達三人の物語です、酒の肴にはちょっと辛すぎましたかね?」

「いや、中々劇的なお前らの物語が聞けてよかったよ」

「そう思ってくれたなら何より、でも悔やむばかりです、俺もグランと一緒に部族を抜けていれば、もっと強かったら、そう思い続けるばかりです」


 グリンは今も昔の事を悔やみ続ける毎日だそうだ、だが俺はグリンが我慢して来た事が二人を救う結果になったと思うと話してやる、キララが奴隷にされる時にグリンまでグランと一緒になって追放されていれば獣人愚連隊には旗頭になれる者はいないだろう、グリンという男は力もさながら人を引き付ける魅力とカリスマを持つ男だ。

そうじゃなきゃ反発心があっても部族が出来る程の人間はついてこないだろう。


「お前がいたから今ここにある全てがあるんだ、早々と地獄に行く暇は無いし行く事もない、その優しさと意思があればこれからは三人一緒にいる事が出来るさ」

「……押忍! 獣人愚連隊隊長グリン、これからより一層この部族を盛り立てる事に尽力いたします! ……そして守護英雄の様に二人を守り続けますよ」

「その呼び方は辞めてくれよ」

「はい、マオーさん」


 そうさ、地獄に行くのは俺一人十分だ。グリンは帝国軍人式の敬礼で俺に誓いを立てる、それも俺を守護英雄と呼び、そんなかしこまった男じゃないだろうお前は。

しかし大分話し続けていたようで地平線から日が昇り始め空が白み始めていた。


「さて、夜が明けてしまったな……寝てないが大丈夫か?」

「大丈夫です、俺はしぶとい図太いで通る不死身のグリンですぜ」


 そういえばそんな異名もあったな、生きてるのも不思議な程の致命傷を受けながら戦う化け物の如き生命力を称した異名だ。

こいつは殺しても殺せない、俺の知る限りもっとも地獄が似合わない男だったよ。


「そうか、それじゃ移動再開だな」


 こうして過去話もお開き再びエスパドル方面に向け出発するのであった。

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