奇才と天才

「っさ、どうぞ散らかってますけどお入りください」

「邪魔させてもらうぞ……本当に散らかってるな」

「一応、これでも僕とマオーさんの分のスペースは開けたんですけどね」


 グランのテントに誘われた俺が見た部屋は良く分からないガラクタの転がる部屋と言った所だ。隅には木箱もあり丸められた羊皮紙やよくわからないガラクタが詰まっていた。グランは転がるガラクタを蹴散らしながら毛布を取り出して俺に投げ渡す。


「とりあえずそれ使ってください」

「ありがとう、しかしまぁ随分と色々あるな、これは全部なんなんだ?」

「ああ、魔法道具の部品や残骸に設計図ですね、魔法水晶なんかも入ってますよ、他には……」

「言われても俺にはよくわからん、どこでこんなに集めた?」

「10年くらい放浪してた時に集めた物ですね」

「うん? お前グリンと一緒にいたじゃないか、放浪してたというのは?」

「ああ、マオーさんと会った時は兄さんと再会した時でしたね、元々僕は追放された身だったんですよ、兄と再会したのも実はつい最近です」

「ほほう、そんな事が」

「詳しい話はまた今度で、僕は作業してますがお先寝てて構いませんよ」

「そうか、ならそうさせてもらおう」


 話を聞こうと思ったがグランが先に止めてしまう、まあしばらく一緒なのだし聞ける日があるだろう、移動の連続で大分疲れてるし今日は先に寝かせて貰おうかね。


「……ここは、そうかグランのテントか、おいグラン起きろ」

「ぐぅ……」

「朝だぞ、起きんか!」

「うわ! 敵襲か、方角は! 数は!」

「おはようさん、敵も何もここはお前さんのテントだろうが」

「あ、ああ、すみませんおはようございます、しまった設計図に涎が」

「おおかた道具いじりで寝落ちしたという所か」

「みっともない姿をお見せしてすみません、顔洗って朝ご飯にしましょうか」

「ああ、そうしよう」


 翌朝の事、テントの入り口から差し込む朝日で目が覚める、最初はどこだと思うもすぐにグランのテントだと分かりグランを探せば、机に突っ伏して寝息を立てていたとりあえず起こしてやるのが義理かと思い起こそうと揺らせば寝息しか返ってこない大声で起こしてやれば飛び起き辺りを見渡し始める、随分な慌てようだ。落ち着いた所でとりあえず飯にするべく二人外に連れ立って出る。


「さてと、顔を洗いたいんだが、水はどうしてる?」

「あ、ちょっと待っててください、あれどこやったっけかな?」


 早速出たと言うのにグランはテントの中に戻る、テントからがちゃがちゃと物音が立ち数秒もすれば、蛇口のような道具と桶を片手に戻ってくるグランは蛇口を桶にとりつけ捻る。するとどうだ水が出てくるじゃないか。


「へへ、僕が作った水の出る魔法道具です、魔法水晶を使うよりも魔力消費が少なく出てくる部分を細く一部のみにして桶に溜めやすく飛び散る事の無いようにしてるんですよ、便利でしょう」

「ほほう、こりゃ便利だ早速水を借りるぞ」

「後は洗い物溜まってたら浄化箱ってのがあるので洗いますよ」

「なんだそれは?」


 俺の疑問によくぞ聞いてくださいましたの声と同時にテントから木箱を取り出してくる横には何か魔法水晶のようなものがついている、これもグランが作ったのか?


「いちいち一つずつ浄化魔法をかけるのは手間、でもこの浄化箱があれば何と一回の浄化魔法の使用で何着でも浄化できる優れものです、まあ布団みたいな大きいのとか何百着とかいっぺんに出来る程の大きさでは無いですが」

「それまた便利な、でも大丈夫だ汚れものは無いぞ」

「なら、私の服を浄化してくれるかしら、グラ?」

「おはよー……おとさん……むぅ」


 俺達が水で顔を洗っていれば、そこにエルを抱いてキララが来るエルはまだ夢の中と言った感じ、そしてそのキララなのだがシャツ一枚に下着という姿でありこれまた際どい感じで見えそうじゃないか、すぐに顔を背け見ないように徹する。


「おう、おはようさんエル……そしてキララはその服をだな」

「姉さん! ズボンはどうした!」

「替えのズボンは全部テントで埃を被ってたわ、だから履いてないわ」

「ないわじゃないだろ! まったく、ほら早く服を貸せ!」


 グランが赤面しながら、掴んでいる埃を被ったズボンをひったくり浄化箱に投げ入れ魔法を発動させる、数秒も待てば新品同然のズボンが出てくる、こりゃ凄い。

ズボンを履くのに両手が塞がっては履けないだろうとエルは俺が預かり先ほどグランに出して貰った水で顔を洗い目を覚まさせてもらう。


「朝から姉さんは何やってんだよ、服が汚れてるなら昨日のうちに持って来いよな」

「昨日はエルちゃんとお話したり、読み物と書き物に夢中で気が付かなかったわ」

「あのね、キララおねーさん凄いの! 色んな事知ってて、テントにはこうぐわーって! どわーって! 本が沢山積んであった、本屋さんみたいだった!」

「なるほど、わからん」


 エルはあの後キララのテントに行ってから夜の間、色々と話をして貰っていたようだ、そしてこのキララという女性、書き物や読み物が趣味の様で他には無頓着と言うこれまた、なんというか二人してこう、学者気質な所があるようだ。

そんな騒ぎもあったが全員朝の身支度も整え終わったので食事に。朝の食事は当番制で部族の女性陣が作る事になってるそうで。


「あ、おはようグラ君、それに皆も」


 食事を貰いに行けば日乃本がエプロン姿で俺達を出迎えてくれる。

日乃本は全体的に小さい身長140くらいしか無かったんだったかな?

白石に時魔法を使って貰ったようで20歳になってるそうだが。それでもこの小ささなんだからまあ驚く。そんな日乃本は食パンを用意してくれていたようで、こんがりトーストにして俺達にふるまってくれる、バターも乗ってこれはいい感じだな。

勿論一緒に羊の乳も出されてる、エルが真っ先に飛びつくように口をつけて飲む。

よっぽど気に入ったと見た。


「今日も元気だお乳が美味い! このパンの上に乗ってる黄色い塊もいつもと違って濃い感じがして美味しい!」

「マオーさん、僕はこれが終わったら移動の準備に取り掛かります、まあ移動の時間まではのんびりしててください」

「移動の準備となると、あの木箱の片付けだろう、手伝うぞ」

「客分のマオーさんに任せるのはちょっと」

「客分なんて思わないでいいぞ、部族にいる間は他の仲間と同等に扱ってくれ、手伝いも雑用も出来る事なら手伝おう、人手が多くて困る事もあるまい」

「そこまで言って頂けるなら、是非お願いいたします」

「グラ、私のテントと本の片付けも手伝ってね」

「……はぁ、わかったよ」

「エルも! エルもお手伝いするー」


 と言う事でグランのテントの片付けをする事にしたのだが。


「おっも、というかいくつあるんだ?」

「大丈夫ですか? 腰痛めないように気を付けてください、後5つくらいですね」

「そんなにか!? 随分溜め込んでるんだな」

「あはは、軍用品や公国の物とか手に入りにくい物を捨てられずにとっといてるので増える一方なんですよ、捨てよう捨てようとは思っても、いつかこの部品がとか水晶が必要になるかもって捨てきれないんですよね」


 グランのテントは奥の方まで木箱や設計図の束などががっつり詰まっており、一筋縄ではいかないようであり、というか二人じゃ無理だろうこの量は。

そう思っていれば、他の獣人族がぞろぞろと集まって来る、自分たちの荷物は片付いたのでグランとキララの応援に来たとか、というのもキララはキララで。


「キララおねーさーん、こっちの本は?」

「それはまだ読んでないからこの箱ね」

「こっちは? 後これ破れかかってるよ」

「それはこっちの木箱、あら直さないといけないわね、それは向こうの箱に入れて」


 グランが物ならキララは本だエルや他の獣人が本を選別し纏めた順から運び出す。


「こっちはこれで全部ですね、それじゃ姉さんの方を手伝ってきます」

「そうか、ちょっと休ませてくれ」

「分かりました、ここまで手伝って貰いましたし後は休んで頂いて構いませんよ」


 荷物運びの重労働はかなり腰と腕に負担が来たまだ戦闘訓練の方がマシだ。


「お疲れ様です、マオーさん」

「お疲れ様、しかしグランもキララも魔法道具の部品やら本をあんなに溜め込んでるものか」

「まあ二人は獣人族としては変わりものですね、普通あそこまでの荷物は俺達獣人族は持ちません、移動が大変になりますから」


 そんな風に休んでいれば一人の獣人が近づき俺に労いの言葉をかけてくる。

丁度いいと思いグランとキララの荷物が多いのを愚痴交じりに聞いてみれば獣人は本来ならあんな大荷物は持たず、二人がかなり珍しい部類である事を話してくれる。


 というのも獣人は生活に魔法の道具を用いるのを嫌う傾向にある、堕落へと繋がるからだそうだ。また獣人は知識に執着したりしないので読書をする文化が無い。

それだからだろう、蒐集癖を持ち、物づくりや開発を楽しみ好むグランも本から知識を吸収しようとするキララも所謂異端児と言う奴だ。


まさしく生まれる場所も種族も間違ってしまった、奇才かつ天才という訳か。

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