観光 旧友の街
「失礼、清孝だが、ここに快晴号が預けられてると聞いて様子を見に来たのだが」
「やや! 守護英雄様、お久しゅうございます、天野様から話を聞いております、快晴号はこちらでお世話させて頂いております」
街門に併設された駐屯所、開かれたドアに声をかければ、すぐに一人の兵士が出てくる、案の定知り合いと言う事もありスムーズに快晴号との再会は相成った。
裏手の普段は訓練に使われる庭の隅に彼女は立っていた。
「久しぶりだな快晴号、どうどう、顔を摺り寄せて本当甘えただなお前さんは、本当にあの暴れ馬晴天号の姪なのかね?」
快晴号に近づき撫でてやれば顔を俺に押し付け擦り寄ってくる。
甘えたがりな娘さんだ、あの馬と言うより猪かと思わんばかりの暴れ馬の晴天号とは大違い、アイツは馬のくせに銃声だろうと魔法だろうと恐れ知らずで突っ込むし。
俺を乗せてそのまま敵に突っ込もうとする程喧嘩っ早い。
そして俺意外が乗れば振り落とそうと暴れる、そんな馬だった。
そんな度胸と根性の塊の晴天号は足の速さも並の馬では追いつけない駿馬だった。
しかし晴天号も公国戦争の折に足を魔法銃で撃たれ引退、そのまま死んでしまった。
今頃は死後の世界で暴れ倒してるかもしれんな、考えると少し面白い絵面だ。
もうしばらく一人で暴れててくれ、俺もいつか一緒に暴れてやるからさ。
では快晴号はと言うと、大人しい馬で誰が乗っても暴れないし、少々おっとりした感じ。ただ銃声や大声や魔法にも怯まない堂々とした馬でもあった。
そういう肝が据わっている所はある意味晴天号の姪なのかもな。
ただ決して晴天号並みの駿馬ではない、ただスタミナは凄い、一日走っても翌日には何ともなしに同じ距離を走れる程の無尽蔵の体力を持つ。
ま、何が言いたいかと言うと俺にはどっちも可愛い大事な愛馬な訳だ。
「今日は様子見に来ただけでな明日まで世話を頼めるか、明日には引き取る」
「ええ、大丈夫ですよ任せてくださいよ」
「それじゃ頼むよ」
その言葉を最後に駐屯所を出る事にする、さて、エルを伴わないで街を観光するのは初めてだな、折角だし何か土産でも買っていくかな? 何があるだろうか。
駐屯所を出てしばらく何ともなしに歩いてみる、アマノ領の中心と言う事もあり物の流れも多いようで行商や屋台が見受けられる、物珍しい物でも見つかればいいが。
「そこの旦那、悩んだ顔して奥さんへの贈り物でも考えてるのかい?」
「俺の事か? 俺に嫁はいないのだが」
「そうそう、そこのだんn……守護英雄様じゃないですか、こ、これは失礼をば」
相当に俺は悩んだ顔をしていたようで通りがかった露店を広げていた男に声をかけられる、俺に嫁はおらんのだがなぁ、そして俺が守護英雄と分かるとこれだ。
もう慣れ切ったがな、とりあえず気にしないでくれと言った後に何が置いてあるかを聞けば。
「ええ、俺、いえ私は木で作った装飾品を作って売ってるんですよ」
「木でか? 見て行っても? それと口調なら気にしないでいいぞ」
「あ、そうですか、助かりますよかったら一品お好きなのをどうぞ!」
「いや、気に入ったら買わせて貰うが……これ本当に木なのか?」
屋台の男が売っているのは木で出来た装飾品等を売っているようで。
それを眺めていく、木の木目の綺麗なピアスなどはまぁ、わかる。
だが、ネックレスやブローチは明らかに木材には見えなかった、透明だったり紫や赤
どう見ても天然石か何かを使ったように見える。尋ねてみればこれらは植物の樹脂を使っているそうで、こんな方法もあるのか、面白いな。
「ネックレスを買おう話のいいネタになりそうだ、いくらだ? タダなんて言うつもりは無いよな? これはタダで売る程度のケチな代物と言いたいのならば別だが」
「そう言われたら言えねぇなぁ。どれでも3000ジルですよ、どれを買いますかい?」
「割かし安いなエルと俺の分だけでいいか、そこの紫色と青色の奴を」
「これらのネックレスは使い物にならなくなった木材の端材を使ってるのでそこまでお高くないのですよ、それでいてこの美術性お買い得でしょう」
「成程な、悪くない買い物だった、それじゃ失礼するよ」
「毎度あり!」
こうして木製ネックレスを買って再び歩き出す、さて次はどんな面白い物がみれるかな……ふむ、あれはまた珍しい。
「失礼、これは時計で合ってるか? 木製で出来てるのは聞いたりした事あるが実物は初めて見るものだから尋ねたが」
「っしゅ、守護英雄様! は、はい、わわ、私が作りました」
「そう、緊張しないでくれ、これは君が作ったのか、いい腕をしている」
「きょ、恐縮でしゅ!」
次に見つけた露店は数はてんで置いていないが、腕時計、それも木製の物が置いてあった、色々な屋台を見て来たがここでは木製で出来た物が多いな。
向こうの世界でも木製の時計は写真とかで見たりはした事ある、実物を見るのはこの世界に来てから始めてだ。
しかし、俺が声を書けただけでここまでの緊張、何だか申し訳ない気持ちになる。
最後には舌まで噛み耳まで真っ赤だ。詫びという訳じゃないが時計は持ってて損は無いだろうし一つ買うとしようかな。
「是非一つ頂きたいのだが、時計があれば時間も分かりやすいしな」
「は、はい、お好きなのを一つ、お持ちいただいて結構です!」
「いや、さすがにお代は出すつもりだが」
「い、いえ守護英雄様からお代を頂くなんて」
「ふむ、では日頃から身に着けて宣伝塔にでもなるよ、それが代金と言う事で」
「そ、そんな恐れ多い事など」
「では、お代を払わせて貰いたいが」
「あ、あ、あうあう」
結局、半額と言う事になり、かなりの安値でこれまた買う事が出来た。
いい買い物も出来たし日が暮れる前にそろそろ帰るとしますかね。
「俺こそが守護英雄! さぁ公国の兵士めかかってこい!」
「えー、兄さん僕も守護英雄がやりたいよー」
「駄目だ! 守護英雄は一番強い奴がやるんだぞ、お前じゃ無理無理」
「う~」
天野の屋敷に帰る途中、木刀を持つ少年とその少年に似た小さな少年が公園で揉めていた、しかし子供のごっこ遊びか、しかも題材が自分か……これは何とも言えんな
「やーだー! 僕も守護英雄がやりたいやりたいやりたいー!」
「っふ、俺が子供の憧れか」
「なんだよおじさんさっきからこっち見て」
「いやなに、守護英雄は人気者なようだと思ってな」
少年の兄の方がこちらに気づき声をかけてくる、俺の事を守護英雄だとは気づいて無い様子だ、しかし弟の方は目を丸くして驚いている、どうやら気づいてるようだ
「知ってるか、守護英雄は前口上なぞせず、ただ仕事だと割り切り戦うんだ」
「なんでおじさんがそんな事しってるんだよ」
「に、兄さん」
「それは俺が守護英雄だからだよ、自分で名乗るのはちと恥ずかしい異名だな」
「はぁ? おじさん嘘は泥棒の始まりだぜ」
本当の事を行ってみるが、兄の方はそう決めつけて鼻で笑って返す。
「嘘なんてついてないさ、弟君の方は信じてくれるかい」
「兵士さんが守護英雄様の馬をお世話してるって言ってた、近い内に守護英雄様が街で歩いてるかもしれないぞとも言ってました、本当に守護英雄様ですか?」
「ああ、俺は嘘は嫌いだ正直者だと自負がある、兵士さんと仲が良いみたいだな?」
「はいたまの暇の日に槍を教えて貰ってます、あの握手してくれますか?」
「勿論、こんな戦ばかりしか能の無い手でもよいならいくらでも握ってくれ」
「なんでいなんでいどうみてもただのおっさんだよ、どうせ法螺だよオットー」
「そう思ってくれても構わん、そろそろ日も暮れるから英雄ごっこも程々にな」
弟の方と握手を交わしていれば、兄の方は未だに信じられないといった感じにそっぽを向いていた、これで本当だと知った時にはどんな顔をするのか。
弟君はきっと少し気分も晴れるだろうな。
そうして、今度こそ俺は天野の家である屋敷へと帰る事にしたのだった。
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