次なる目的地への予定
「天野、それは無理だ、あの獣人平原だぞ」
「まぁ待てよ、話を続けさせてくれ」
獣人平原、ジークハルト東部の南側に広がるだだっ広い平原地帯だ。
ちょうどアマノ領とは隣に位置する、他にも上のエスパドル領やフレデリック領。
ジークハルト南部の一部の領地にも隣する、本当に広い平原だ。
しかしこの広大な土地は帝国領土であるのに関与した事例は魔獣騒動と扮装時代の二つくらいのものだ、理由は三つ、一つ目、獣人平原の名前の通りそこには獣人族と呼ばれる人間とは違う他種族が遊牧生活をしている土地である事、帝国は国是として他種族との共存・共生を掲げている為、他種族の生活や伝統文化を脅かさないように過干渉を行わない方針を取っている。
そして二つ目、土壌が悪いのか下草以外は作物も樹木も育たない不毛の土地である事、それゆえ遊牧に耐えれるような強靭にして頑健な獣人族以外はこの土地で生きるのは難しいと言われている、勿論人間もだ。
最後の三つ目、南側はいまだ魔獣が出ると言われる辺境である事。あくまで帝国が排除したのは帝国を襲う可能性のある平原近郊に住む魔獣だけだ。その為歩き慣れた獣人族でなければ魔獣に出くわしてそのままお陀仏なんてなりかねない。
そういったもろもろの事情を考えれば、あのだだっ広い平原を超えるなんて考えは俺の中ではいささか準備が足りないと言わざるを得ないのだ。
「準備が足りないと思ってるだろ、足とか案内役とかさ」
「わかってるなら無理だと分かるだろそれに準備しようにも、俺は獣人族に恨まれてるし、足になる快晴号は帝国に置いてきているんだ、無理なものは無理だ」
さてじゃぁ、準備すれば行けるのかと言われれば行けるっちゃ行ける……が。
獣人族とは他種族紛争で散々戦って来た間柄だほとんどの獣人族に恨まれてる。
それに俺は転移魔法も使えない、たとえ案内役を金か何かで雇えたとしてもだ、獣人族に追いつける足である馬が欲しい所、その愛馬は帝国に預けてしまっている。
ようは準備のしようが無いと言う事なのである、やっぱ無理なんじゃなかろうか
「案内役は元ヤーロウの街、今はソルって街にいる。俺から頼んだら心地よく引き受けてくれたよ、それと足になる馬だが門に併設された帝国軍の駐屯所に俺から話を通しておいたから転移魔法で連れてきてくれてるぜお前の愛馬をさ」
俺のそんな言葉に天野は全て準備しておいたとそんな風に付け加えてそう答えてくれる、何故そこまでしてくれるのかを尋ねれば
「ま、俺なりの償いそれと友達が困ってたら助けてやりたいじゃん」
そうやって15年前とどこも変わらない爽やかな笑顔でそう言ってくれる。
そうだ、こいつはこういう奴だった、友情に篤く、誰も見捨てる事をよしとしない。
いつだって誰よりも俺達の前で背中を見せて走った男。何食わぬ顔でさも苦じゃないといった感じに爽やかな笑顔で励ます、格好のいい男。良く出来た友人だよ。
「相変わらずだな、ありがとう」
「どういたしまして、今日はうちでゆっくりしてけよ案内役はまだ大丈夫って言ってたしな、サラのつくった夕飯を食べて行ってくれ」
「そうさせてもらう、快晴号の様子を見に行くがてら観光でもしてくるよ」
「おう、いってらっしゃい、ドアを開けてやってくれサラ」
「かしこまりました」
「エル、俺は外に行くが一緒に行くか?」
「はーい」
ひとまず、駐屯所に挨拶をして快晴号を一刻も早く連れて来ることに。
サラが案内を申し出るがここから出口までの道は覚えているので大丈夫と言って。
二人でさっさと屋敷を出ようとしたのだが。
「清孝様! お久しゅうございます!」
「…………ベルベット様ですか? 大きく成られましたね」
「はい、今年で18になります」
「天野と結婚したのですね、ご挨拶が遅れましたがおめでとうございます」
「ありがとうございます、こちらこそ帝国の守護英雄様のご帰還一人の帝国人として嬉しく思います」
「出来れば昔のように清孝でお願いします」
薄桃色のドレスを身にまとう腰まである長い茶髪の女性が前に立っており声をかけてくれる、彼女はそうかつて俺と天野が知り合った女性いやあの頃は少女か。
フレデリック家の一人娘であるベルベット様がいた、転移当時はまだ3歳。
俺が最後に会ったのは他種族紛争の頃8歳くらいか、立派になられたもんで。
…………なんか、親戚の姪にあったみたいな感想だぞ、おっさんか俺は。
「翔様から清孝様が来るとお聞きしましたがもう来てらしたのですね」
「はい、これから少々、観光にでもと」
「ねー、おとさん、このおねーさん誰?」
俺についてきていたエルはしびれを切らして俺の服の裾をつまみベルベット様が誰かを尋ねてくる。
「この人は天野の奥さんでベルベット様というんだ」
「こんにちはベルベットと申します、お名前を聞いてもいいですか?」
「いいですよ、エルはエルって言うの! おとさんとお友達探しをしてるの!」
「お友達探しですか?」
ベルベット様がエルのお友達探しという言葉に首を傾げるので俺が注釈を加える。
といってもただ転移した時のクラスメイトに会って挨拶して回るだけの話だが。
「いいですね、そうやって旅をして回るの、憧れます」
「おねーさんは出来ないの?」
「はい、私は翔様の奥様ですから、ねぇエルさんお暇でしたら旅のお話をしていただけませんか? 清孝様も一緒に」
「お話ですか私は快晴号の様子も見に行きたいので…………エル、ベルベット様と一緒にこの屋敷で待てるか?」
「大丈夫だよ! ベルベットおねーさんとお話ししてればいいんでしょ」
「その通りだ、そういう訳で私は出掛けますのでエルとお話して頂いても?」
「分かりました、それじゃエルさん、こっちで一緒にお茶を飲みましょう、そしてお話を聞かせてね」
エルとベルベット様が俺の横を通っていき、別の部屋へと行ってしまう。
それじゃ俺はかつての愛馬、快晴号の様子を見に行くとするか、待ってろよ快晴号。
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