また逢う日まで旧友よ
「おかえりなさいませ、清孝様」
「ああ、エルは大人しくしてくれていたか?」
「はい、おj……奥様と今もリビングの方でお話をしております」
天野の屋敷に帰りドアを潜れば、メイドをしているサラが出迎えてくれる。
どうやらエルは大人しくベルベット様と待ってていてくれたようだ。
出迎えの挨拶が終わると夕飯の準備をしていると言って去っていく。
リビングの場所だけは聞かせて貰ったのでそちらに向かう。
「失礼いたしますベルベット様、エル今戻ったぞ」
「あ、おとさんお帰りー」
「お帰りなさいませ、清孝様、その腕につけてるのは時計ですか?」
「よく見ておりますね、エルお土産を買って来たぞ」
「あら、なんでございましょうか?」
「え、何々、どんなお土産ー」
「ネックレスを買って来たんだ、面白い素材で出来てるんだぞ、これ」
「おおー、綺麗な奴だー」
「アメジストとサファイアでしょうか、アクセサリとしては普通の素材では?」
「店主が言うにはそれ、全部木や木の樹脂で出来た物らしいのです、この手の時計も気で出来ているのですよ、この土地は木製の物が広く流通しているようです、ベルベット様も気に入ったのでしたら、天野と買いに行ってみてはどうでしょうか」
「まぁ、そうなんですの、驚きですわ、今度カケル様と一緒に見に行こうかしら」
案の定ベルベット様は買って来たアクセサリーを見て驚いていた。
これらの見せた物は俺とエルの物として買った物だ。
装飾品なら天野からプレゼントして貰うといいさ。
「戻ってたのか清孝、この街はどうだった?」
噂をすれば影とはよく言ったもので天野もリビングに入ってくる。
その顔には応接間で見た時は元気な姿だったが居間の姿はやや疲れが見えるといった感じだろうか。
「天野、中々興味深い物が並ぶ街だったよ、しかし何をしていたんだ?」
「何って俺ここの領主だぜ、色々仕事とかあるんですよご隠居さん」
「そうですかい、そりゃお疲れさん伯爵様」
「カケル様、こちらのネックレスは木と樹脂だけで作られてるんですって、今度一緒に見に行ってみませんか?」
「すまんがまだやらなきゃいけない事は沢山なんだ、サラと一緒に見に行って来るといいよ」
「そう……ですか、わかりました、お仕事なら仕方ありませんよね」
「少しでも休んだ方がいいぜ、張り切ったやつからいつだって先にいくからな」
「そうも言ってられないのさ、他種族紛争からこっち領主がいなかったから仕事はたっぷり毎日報告書と陳情書とにらめっこさ」
そう言って、ため息をつく天野そら疲れもたまるという物だ。
だが、どこかで休んだ方がいいのは確かだ、そうやって戦い続けた奴から等しく戦死していった、俺は天野には長生きしてもらいたいぜ。
「皆様、食事の準備が出来ましたので食堂までお願いいたします」
「今日のおゆはんなにかな?」
「今日はハンバーグでございますよ」
リビングで談笑をしていれば夕飯の支度が終わったようでサラが俺達を呼びに来る
それにこたえて4人で食堂へ向かえば既にテーブルには4人分の食事が並んでいた。
バスケットに入ったパン、新鮮な野菜で作られたサラダ、鉄板の上で音を立てるハンバーグ。お酒であろう赤ワインのボトルも置かれていたりと
「いただきまーす、エル、このはんばーぐってやつ初めて見る」
「懐かしいな、いただきます……ほほう、これは」
「あつあつだー、それにじゅーしーで、旨味、旨味が襲ってくるよおとさん!」
「旨味は人を襲わんよ、エル」
エルが早速と言わんばかりにハンバーグを切り分け食べ始めれば熱さに慌てふためく、だがそれも数秒後には喜びの声に代わり美味しい美味しいの声と共に食べていくやがていつもの如く鉄板にフォークの音を鳴らす、行儀悪いから鳴らす前にフォークを止めなさい。
「中々に美味い食事だった、ご馳走様でした」
「ごちそうさまでしたっ!」
「お褒めの言葉ありがたく存じます」
「サラの料理は伯爵家のシェフ直伝ですから、当然です」
「だな、清孝食後のワインはどうだ? 一杯くらい付き合えよ」
「旦那様はいつか清孝様や他の異世界のご友人が来た時の為に、年代物のお酒をいくつか貯蔵しているのです、どうかお付き合いいただければ」
「そういうの言わなくていいんだよ、サラ」
「そう言う事なら一杯貰おうか」
やがて俺も食べ終われば次に進められたのはワイン、天野は俺や他のクラスメイトの為にいくつか貴重な酒を買い込んでいるとか、ここに遊びに来た時に飲みながら昔話をしたいのだろう、俺はそれに付き合う事にする。
女性陣は食事の後は風呂に入りそのまま寝るとの事。
「そういえば報告書とか陳情書とか言っていたな、どんな内容か聞かせて貰いたい
場合によっては旅先で得た話や情報が役に立つかもしれん」
「んあ? ああ、それな……ま、単純に食料不足だな、これがかなり厳しい」
二人だけの食堂で興味本位で聞いたこの話題である食糧不足はかなり深刻な様子。
北側は森が多く広がり、南側は多少農地があると言っても、その農地で出来る作物はさほど量は無く領地全体を賄える物ではなく食料は輸入頼り。そこから脱却するべく労働者用の宿泊施設(サンの街のあれだ、貴族や観光客の為の物じゃなかったのか)の
改築を進め一時的に労働者を呼び込み開拓しようと思った矢先に落石事故である。
おかげで人は呼べない、閉じ込められた商人や観光客で食料の減りはかなり深刻。
……本当にヤベーじゃねーか
「港街は漁業で持ってるけど魚は日持ちしないからな、内陸は本当にヤバい」
「……だが、鬼人族に近い村では牧場があったし、宿で食事を提供出来ていたが」
「そりゃ鬼人族と行商してるからさ、夏も本番になる頃だしそろそろ何人か来るかなといっても、持ってこれる量が少ないから解決には足りんがな」
「天野、この領地で貨物船、無いならせめて遠洋航行の出来る船はあるか?」
「確か貨物船が一隻なら、ただ、ここから食料の買い付けが出来る最短のヤミーまででもかなり距離ある、リスクとリターンが釣り合わねぇ」
「天野、交易をするのはヤミー相手じゃない、鬼人族だ」
「そりゃもっと無理な話だ、鬼人族の領域には港がねぇもん、船がつけられん」
「領地ばかりを見るのでなく周りにもっと目を向けるといいぞ、実はだな」
俺は天野に鬼人族は交易をしたがっている事、港はあるが船が無いと困っている事
船については俺の融資で買う事になっている事、建築資材になる木材や石材が欲しい事、彼らの領域には十分な食料があるという事などを説明する。
「成程……こっちからは資材を売りつけて、向こうで作物を買いつける訳だ」
「鬼人族の領域なら目と鼻の先だ渡りをつければ上手くいかないか?」
「多分……というかそこに賭けるしかないよな、うん、上手くいくよう頑張るよ」
「ああ、頑張れ、そろそろ俺達も寝るとするか」
俺達はお互いのワイングラスに残るワインを飲み干し食堂を後にした。
そして翌日。
「昨日はとても楽しい一日でした、エルさん、またいつでも遊びに来てくださいね」
「うん、ベルおねーさん、もっと面白いお話が出来るようエル色々見てくるから、まっててね!」
「清孝様、こちらお弁当になりますお昼にどうぞ、馬でしたら明日明後日あたりにはソルの街でしょうか、お気をつけて」
見送りに来てくれたベルベット様とサラに挨拶を交わしながら兵士が快晴号を連れて来るのを待っていた、お弁当をわざわざ作ってくれたので昼に大事に頂く事にしよう、天野はと言えば早速部下を使って鬼人族に渡りをつけたいようで別れの挨拶もそこそこに仕事へいってしまった、忙しない奴だ、まあ俺が発破かけたのだがな。
でもまぁ、これくらいが俺達には丁度いいか、今生の別れでも無いのだから。
「もう少ししたら天野の仕事も落ち着くそしたら存分に甘えてやると言い、次あった時は二人の倅の顔を拝めるのを期待している」
「き、清孝様っ! ま、まだそのカケル様と私の間には、その、早いかと」
「お嬢様はやはりお嬢様ですね、大旦那様も孫の顔が見たいと手紙で仰られてたでは無いですか、もう18なのですしお嬢様から誘惑してみては?」
「サラまで! それとお嬢様じゃなくて奥様とお呼びなさい!」
「失礼、気を抜いた拍子の事、お許しくださいませ」
「守護英雄様、快晴号をお連れしました!」
「おっと、そろそろお別れだ、行くぞエル」
二人が口喧嘩を始めると同時に快晴号が兵士によって連れてこられる。
毛つやよし、蹄よし、目の輝きよし、今日は存分に走って貰うからな。
エルを抱え乗せてやり自分も鐙に足をかけてその背へと乗る、街門が開かれる。
「じゃーねー、またあうひまでー!」
「はい、お待ちしております!」
「いってらっしゃいませ、良い旅を」
こうして旧友の領地を去る。夏の風が俺とエルそして快晴号の頬を撫でる。
もうそこに夏は来ていた、目指すは獣人平原、案内をしてくれる獣人がどんな奴かも楽しみだ、エルも次の出会い次の土地が楽しみだねと俺に笑いかけてくれる。
勿論俺もだ、さぁ、旅はまだまだ続く、続けよう。
今日からはお前も一緒だ。
「駆けろ! 快晴号!」
この俺達とこの国の未来を照らすかつての相棒に名付けた輝かしい晴天の下を。
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