ヤッチャー改めのサンの街

「お、見えて来たな、ヤッチャーの街」

「おー、よーやく?」

「乗合馬車が捕まらんくてそこそこに時間がかかってしまったな」


 あの村からエルと再び旅を続けようやく到着したのはヤッチャーの街。

いや、前に入った村の宿で聞くところ天野がヤッチャーからサンと改めたとか。まぁ廃嫡になった貴族の名前を村に冠するのも縁起が悪いしな。

俺達二人はここまで来るのにかなりの時間を有してしまった、夏の始まりを告げる夏草も街道に生い茂っている、小倉との約束もあるし、そろそろ天野に会うか手掛かりでも欲しい所だ。


「ようこそサンの街へ! ……やや、これは守護英雄様」

「やぁ、しばらく街に滞在したいと思うんだが」

「守護英雄様でしたら、歓迎で御座います、ささ! お通りください」

「ありがとう、行くぞエル」

「はーい」


 門へと近づけば衛兵が気持ちのいい笑顔で挨拶をしてくれる。

俺の名前はやはりここまで伝わっているようで問題なく門を通る事が出来た。

門の中は絶賛、大工があちこちを駆け回り復興に勤しんでいるといった様子。


「なんか、ムキムキのおじさん達がいっぱ~い」

「つい最近まで戦争があったからな。この辺りや辺境の復興は遅れていると聞いた事がある、特に元ヤッチャーやヤーロウの領地は顕著なはずだ」


 ヤッチャーやヤーロウの領地は他種族紛争で一番の被害を受けた領地だ。

そしてその復興をする余裕もなく公国戦争が始まった。

 更にこの辺りの領主は悪徳貴族と来たものだからこの辺りの領地は辺境の村々から領主が直接治めていた街から大分復興が進んでいないご様子で。


「ちょいと通るぜ……って、キヨタカじゃねーか!?」

「ああ、すまない……そういうアンタはジンか」

「なんだって、帝国の英雄がこんな辺境にいるんでい」

「このムキムキのおじさんもおとさんの知り合い?」

「ああ、他種族紛争の折に共闘した戦友だ」

「そうだぜ、嬢ちゃん、俺はジンってんだ、で、何しにここまで来たのさ」


 復興作業に忙しくする大工や石工を避けながら、ひとまずの宿でも無いかと探し歩いていれば、角材を肩に担ぐ大工と正面からかち合ってしまう。

幸いにもその大工はかつての戦友の一人で怒鳴られる事は無かった。

丁度いいと思い、天野がここの領主をやってると聞くがこの街にいるかを尋ねる。


「アマノ様がこの街にいるかって? そんなの俺が知る訳ねーべ」

「そうか、仕事の時間を取ってすまなかったな」

「待て待て、俺は知らねーけど、知ってる奴がいそうな所は知ってるぜ、ヤッチャーの領主館、あそこはアマノ様の部下が改築の監督を任されてる、そこなら何か判るかもしれんぜ」

「領主館だな早速行ってみるとするそれでは仕事頑張ってくれ」

「おじさん頑張ってねー」

「応! 二人も良い旅を」


 ジンから有益な情報を貰えた、早速領主館を目指して足を動かす。

その途中、駅の前に人だかりが出来ているのが目についた。


「おとさん、なんか沢山人がいるよ」

「何か列車でトラブルがあったのかもしれんな」

「列車が動かないってどういう事だよ!」

「ですから、現在、土砂災害で線路が塞がれてしまいまして」


 一人の客が駅員であろう男に文句を付けている、しかし駅員は今なんて言った?


「すまない、その話もう少し詳しく聞かせて頂いても」

「しゅ、守護英雄様、何故こちらに!?」

「俺がここにいるかどうかは論点ではない、土砂災害と言っていたが」

「は、はい、それでは」


 列車が動かないのは今後の旅程に大きく響く駅員にどういうことなのか説明を求めれば、どうやら、山の下を通る線路に土砂災害で落石があったとの事。

参ったな天野に会ってひとしきり会話をしたら列車で帰るつもりだったが、湿地帯に引き返して小倉と仲良く戻る事になりそうだ。


「一応聞くが、復興の目途は?」

「今現在、エスパドル領の領主様が除去部隊を編成して復興すると連絡があってから一月、まだかかるそうです」

「そうか、仕事の途中なのに話を聞かせて貰いありがとう、それでは」

「いえ、こちらこそ、列車が動かずに英雄様ともどもお客様にご迷惑おかけして申し訳ありません」


 土砂災害は仕方なかろうと俺が最後に行って離れれば。他の文句を言っていた客も何度も頭を下げる駅員にさすがに大人げなく思ったのか留飲を下げ、駅の周りから人がまばらに消えていく、それに紛れながら、さて目指すは領主館。


「おー、でっかい、でも工事中だねー」

「ふむ、領主館を改装なんてして何に使うのか」

「おぉぉぉ!!! マオーの兄貴じゃねーですかい」

「どうしたよスカルって、マオーの兄貴!」

「ポンズ、スカル、手を動かせよ姉御にどやされるぜ」

「「でも、タンゴ、兄貴が!」」

「くぉら! スカポンタン共、手と足を動かしな!」

「「「へ、へい!」」」


 二人して領主館の前に到着そこには木の足場に囲まれ改築工事が絶賛行われ続けている領主館があった、何に使うのかとひとまず責任者が何処にいるかを見て回れば俺を兄貴と呼び、騒がしくする男三人がいた、つるっぱげな髭面は俺の知る盗人トリオスカゴ、ポンズ、タンド、通称スカポンタントリオだった。

 そんなスカポンタンは真っ赤な髪に日焼けした肌の筋肉質な女性に怒鳴られる。

あれが天野の部下でこの改築を主導している人物かな?


「はっはっは、相変わらずあの三人は一緒につるんでるのか」

「おとさん、あの頭つるつるだけど顎がもじゃもじゃさんの人とお知り合い?」

「公国戦争の時に村に盗みを働いていた盗人だ、きちんと足を洗ってくれて何より」


 エルにあの三人について聞かれたので答えてやっていれば、俺達の前に先ほど三人を怒鳴っていた女性が今度は俺達にここにいるとケガをするぞと注意を促す。

ここの監督を務めているのかを尋ねればそうだと答えるのでこちらの素性を明かす。


「アマノ様の知り合い……って、アンタよくみたら守護英雄!?」


 案の定いつもの反応が来るので訂正をしてから天野がいるかを尋ねる。

答えはノー、どうやらこの街にはいない模様、ただ連絡は取ってくれるそうで昼休憩の時間まで事務所で待ってれば取り次ぐぞと。


「では、邪魔にならないところで見学でもしてよう、後折角ださっき怒鳴ってたあの三人に挨拶がしたい、休憩の時にでも呼んでくれ」


 そうして、しばらくエルと二人で工事現場の邪魔をしないように見学していれば昼になり、先ほどの女性とスカポンタン共が事務所に案内してくれる。


「いやぁ~、まさかこんな所で兄貴に会えるだなんてなぁ」

「人生わかんねぇもんだぜ」

「食い扶持探してここまで来てよかったぜ」

「お前らが懲りずに盗人になってなくて俺はほっとしてるよ」

「兄貴のあの魔獣も小便漏らして逃げ出すような怒りの形相を見たら盗人になんて戻れねえってなもんですぜ」

「「んだんだ」」


 過去を思い出してそれに身震いするトリオ、ああ、丁度こいつらをひっ捕らえたのは食料も水も割と限界レベルでやばかった時だ、空腹とストレスでやばい顔してたんだろうな、事務所に入る前に仕出しの弁当を6つ貰う、今日の休んでる奴の分を食べていくといいとの事、昼飯代が浮いたか。


「アマノ様に連絡だよな、ちょっと待ってろ、それまで飯を食べてるといい」

「ああ、いただきます」

「いっただきまーす」

「いただきます、労働の後の飯、これが美味いんだ!」

「盗まずに食う飯の味はどうだ」

「そりゃ最高に決まってますよ!」

「だよなぁ! この飯の為に生きてるって感じっすよ!」

「しなっとしてるのにこのからあげ、こう、味がじゅんじゅわーだよ」

「アンタらもっと静かに食えないのか! すみませんこちらの話です、はい……そうです……ええ……わかりました、清孝様、アマノ様が連絡を変われって」


 スカポンタンとエルと騒がしく飯を食べていれば通信魔法で天野の所に繋いでくれていたのであろう俺にその水晶を突き出してくる、そのまま持っているように頼み通信魔法の水晶に話しかける。


「もしもし、久しぶりだな、天野」

『なーお』

『タマ、向こう行っててくれよ、よう清孝なのか』

「さっきのは?」

『うちの飼い猫、っちょ今度は通話魔法水晶奪うな! ベルー、ベルー!』

「落ち着くまで待っていようか?」


 久々の親友との通話は随分と騒々しい形で始まったのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る