旧友との通話

『はぁ、はぁ、待たせたな、久しぶり清孝』

「ああ、久しぶりだな、天野」

『なんか随分渋い声になったな』

「そういうお前は変わらんな」

『まぁ、鷲雄にちょっと年齢いじって貰ったから』


 通話越しの天野の声は昔と変わらない声色、ただそこには昔の熱ばかりの意気だけではなく、少し冷静や優しさが含まれる感じを思わせた。


『今はサンにいるらしいな俺に会いに』

「ああ、帝都に帰るにしても天野に会ってからでも遅くは無いと思ってたんだが」

『帝都に用事があるのか? だとしたらちょっとタイミング悪いな』


 やはり天野にも線路への土砂崩れの報は来ているようで電話越しに同情の言葉を貰う。


『ん~……この時期ならがソルの街にいるよな、清孝、俺は今そこから南に行ったアースの街を拠点にしている会いに来るなら歓迎するよ、そんで会いに来てくれるならUターンよりも早く帝都に帰る方法を教えてやるよ』

「ほう、それは良い事を聞いた、アースだな、明日にでも出発するよ」

『ああ、待ってるよ』

「そうか、それじゃお前の部下に変わるから後はよろしく」


 そういって、受話器から離れ通信魔法の水晶を持ってくれていたのに礼をしてから椅子に座り直し残った昼飯を口に運びなおす、エルやスカポンタンは食い終わり何か話をしている。


「おとさん、スカポンタンのおにーちゃんたち、すっごい事してるんだって!」

「へへへ、そうっすよ、もう盗人何てケチな商売には戻れねぇってなもんで」


 どうやら聞いていたのはこの領主館の改築の内容だそうで、何でも領主館を天野は宿泊施設にしようと計画してるようで観光客を呼べるようなものがあるのだろうか。

いや、そうでなくてもここら辺は夏でもそこそこに涼しい貴族や旅行客が避暑に来るかもしれんな、出来た暁には俺も泊まってみるかね。


「天野のいる場所も分かった今日の所は宿を取って明日出発だ」 

「あれ、兄貴まだ泊る所決まってないんすか?」

「それなら、俺達の所どっすか? 三人でシェアルームしてるけど、二人くらいなら寝るところあるっすよ」


 そんな提案をされる、何か街につくと知り合いに会ったり知り合いが出来たり毎回こうして泊めて貰うな、まぁ悪い事ではない、申し出を断る理由もないので泊めて貰う事に。やがて昼休憩は終わり、スカポンタン達には仕事が終わる頃にまたここに戻ってくるのでその時にとひとまず領主館の前を後にする。


「やっぱり工事ばっかりだねー」

「復興途中だし仕方のない事とはいえ、見るところがないのもなぁ」


 右を向いても左を向いても、ガタの来ていた民家を直す大工、剥がれかけた石畳を直す大工と見てて面白いかと問われれば別にと答えるしかない風景が続く。


「そこのお嬢ちゃん、爺に付き合ってくれんか、お嬢ちゃん次第じゃけど面白いかもしれんよ」

「おじーさん何? 面白い!? おとさん、面白いかもだって!」

「ほほう、ご老人、その面白い事についてお聞かせいただいても?」

「もしやこれは……守護英雄様ですかい?」


 ベンチに座る目を瞑る老人が俺達があたかもそこにいると分かったように声をかけてくる、目が見えないのだろうか? エルが面白い物があると誘われ俺を引っ張ると、俺には今気づいたとやや驚いた顔をする。ふむ、この老人。


「まずはこれを受け取りなさい、嬢ちゃん」

「なーにこれ? なんかの種?」

「そうじゃよ、魔法の道具は使ったことあるかい?」

「うん、おとさんの手伝いの時にあるよ」

「ならよい、それじゃまずは目を瞑り、爺の手を取るのじゃ」

「う、うん」

「そしたらゆっくり深呼吸をして心を落ち着けるのじゃ……落ち着かいたかの、なら魔力を口に集中じゃ」

「これの何が楽しいのかなー、何が起きるのー?」

「起きるではない、起こすのじゃ、うむうむお嬢ちゃんは才能があるぞ、そのまま口に魔力を込めたまま唱えるのじゃ、種よ芽吹き花を開かせよ、とな」

「たねよめぶき、はなをひらかせよ?」


 エルが老人の言葉を繰り返せばその手に持っていた植物の種は急に成長を始める、それはどんどん伸びていき、一輪の向日葵が咲いたのだ


「さぁ、眼を開くとよい、そこにお嬢ちゃんが起こした奇跡があるじゃ」

「ひ、向日葵だー!? エルがやったのこれー!?」

「ほっほっほ、やはり爺の見立て通り、お嬢ちゃんに眠る魔力の量を少しだけ目覚めさせればと思った所よもや一度でとは、それは魔術、魔法の道具の発達により廃れた魔力を用いた技術の一つじゃ」

「魔力の潜在能力やその質を見る力、もしやご老人は三目人族なので?」

「よくわかったのう、いかにも」


 長い白髪を手でかき上げたそこには瞑られた二つの目とは別に金色の瞳が輝いていた、やはりか。

他者の持つ魔力の質や潜在力を見る事の出来る金色の瞳を持つ稀少種族。

その眼の美しさから奴隷にされたり眼を抉られ奪われる等で数を減らした種族。よもや兵士から又聞きしただけの種族を拝める日が来るとはな。


 しかし魔術をエルが使えるようになるとは、ご老人のいう通り才能と言う奴か。

 魔法とは違い水晶等の道具を必要とせず口に魔力を纏い詠唱と呼ばれる物で様々な事が出来るという術、それが魔術だ、こうして眼に出来るとは。

 再現性や安定性に欠け、また魔力の消費が大きいゆえ廃れてしまったが。

魔術はその独自性や潜在力は見張るものがある、使いこなせば魔法には出来ない事が容易に出来てしまうだろう。


 この老人自体も恐らくはかなり高位の魔術師のはずだ、魔力を目覚めさせたと簡単に言ってるが本来こんな所で見知らぬ子供相手に遊び半分で魔術を教えている人物であっていいはずがない貴族の子息の家庭教師や下手したら皇帝陛下のご子息の教育係とかの役職についていて可笑しくない筈だ。


「長生きはするもんじゃな、お嬢ちゃんの力はとても貴重な物じゃ使いこなせば女神の勇者や帝国の四大侯爵に匹敵するほどにの、じゃが、力に溺れないようにじゃよ、お嬢ちゃんにはその力を優しい事に使える大人に育ってほしいじゃ」

「うん、エルそんな人になるよ! お爺ちゃんも見ててね」

「ほっほっほ、こりゃ後十年は長生きせんとのう」

「ねぇ、おじいちゃん魔術の事もっと教えて!」

「子供にしては勉強熱心じゃ、時間を貰ってもよろしいかな守護英雄様」

「俺は構いません、それとご老人、俺の事は清孝と呼んでいただければ」

「では、爺の事も、モロクと呼んでくれれば」


 エルはすっかり魔術の魅力のとりこになったのか、ご老人改めモロクさんに魔術をしばらく教えて貰う時間となった。

ぶっちゃけ、俺は魔力無いから退屈なんだがな、娘が楽しそうなら何よりだ。

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