鬼人族と田植え、そして出立

「清孝さん、エルちゃんってすごいんだよー、絵が上手なんだー」

「ここまで色んな絵日記書いてたもんな、そんなにか?」

「うん絵日記さん見せてくれたんだー」

「くれたー、とっても凄いのー」

「すごいのー」

「それにオカリナでしたか、不思議な音色でとても綺麗でしたわ」

「ええ、私も楽器はやりますが、初めて聞く音でした」

「へへへー、エル沢山褒められたよ!」

「凄いじゃないか、俺なんて戦う事くらいだからな、っと」

「そ、その戦う事に関して神がかってるんだよ、清孝君は! あだぁ!」

「父上! まだやれるぞ俺は! 必殺そのさん! ぎゃふんっ!」

「サラワティさんに更に教わった強化魔法使ってるはずなんだけどなぁ、ぐぇ!?」

「ハギ!? サクラ姉さん連携だ俺が先に行く、その後任せた! どぼふっ!」

「ええ、今度こそせめて一本! でりゃぁぁぁあああ! きゃぁ!?」

「ふぅ……まだやれるかー」

「「「「「無理です」」」」」


 昼飯を食べ終わった後、縁側で俺はエルが色んな事をして褒められたという話を聞く、モミジやススキとキク最後にヤナギが絵の上手さをマツとウメはオカリナの演奏を褒める。


 それを聞いてやっていたら小倉が長棒で攻撃しようとするので体を横に逸らしてから頭頂部へチョップ。次にフジも木刀で切りかかってくるが大振り。余裕で避けてから投げ飛ばしてやり後ろで冷や汗をかいて逃げようとするハギに飛ばし潰してしまう。


 次にボタンが足から出した炎の魔法を推進力に手に持ったこん棒で殴ろうとするが、射程に入る前に蹴りを胴にかまして吹き飛ばす、その後に二段構えでサクラが来るが、手を掴み転ばしておしまいっと、まだやれるか聞いてみるが、全員綺麗にハモる、親子だな。

という訳で訓練は終了


「やっぱおとさんは強いね!」

「武装した皆を素手でだなんて凄いですね、お父様達は今治療しますね」

「ぼ、僕の本領は銃器を使った魔獣退治だから、対人戦は不利なんだ」

「父上、言い訳したい気持ちは分かりますが、相手は全力の俺達に素手で勝ちました、銃であってもどうだか」

「おまけに汗一つかいてないだなんて、もっと修行しなくっちゃ」

「化け物にリベンジとか思わなきゃよかったよハギ」

「激しく同意するよボタン兄さん、清孝さん化け物すぎるって」

「いや、さすがに俺も銃弾を避けるのは無理、後化け物呼びをやめろ」

「和夫様も4人もアヤメに怪我を治療してもらったらお風呂に入ってきなさい、他の子と清孝様はお夕飯ですよ」


 アヤメが全員の治療を甲斐甲斐しくしてやっていれば途中でイルマさんが夕飯が出来た事を知らせてくれる、身体動かしてお腹もすいたし丁度いいタイミングだな。

 そんな今日の夕飯は香辛料で味付けしたピラフ、こんなにうまいのを毎日食べてるとはな羨ましい、途中からは小倉達も混じって賑やかな食事となる。


「清孝君、ここにはどれだけ滞在するつもりだい?」

「んぐっ……そうだな、大分堪能したし明日明後日には出るかね」

「そうかい……次の目的地は?」

「夏の終わりまでに帝都に戻る予定として南下して列車かな」

「となると、次はアマノ領だね」

「ああ、既に話は聞いてるよ、今から会うのが楽しみだ」


 食事の際に次の目的地についてを聞かれる、来た道を戻るのもなのでこのまま南下する事を決める、目指すは旧友が伯爵として治める領地だ、緑谷から聞いたが最東部は天野、本名は天野翔あまのかけるが治めていると聞く。


 ちなみに本来なら俺が治める予定の領地であったらしいが、今は天野が侯爵家のご令嬢様を嫁に貰って支援を受けつつ領地経営に勤しんでいるらしい。見に行くのが今から楽しみだ、俺がそろそろ出立すると言えば、ススキやモミジがエルと離れるのが嫌だなーとか、最後まで稽古をつけて欲しいとフジやサクラに頼まれたりする。


「なぁ、清孝君、細川君への手紙は君の私用だよね?」

「まぁ、そうだな」

「じゃ、その分、働いてくれない? イルマのお父さん、僕の義理の父の畑の田植えを明日やろうと思っててね、家族総出で行こうと思ってたんだ」

「田植えか……ま、そのくらいは働こう」

「じゃあ、決まりだ、明日は少し早起きになるから頼むよ」

「了解だ」

「「…………」」


 という訳で、明日は急遽田植え仕事を手伝う事にするのだった。なんかボタンとハギが渋い顔してるが田植えは嫌いなのかな?

とりあえずまぁ出発はその次の日くらいにでもするとしようか。


 そして翌日、俺はボタンとハギがゲンコツをくらう姿を見るのであった。


「まーた、お前らは何でもかんでも魔法で解決する!」

「ちゃ、ちゃんと出来てるよおじいちゃん」

「そうだぜ! 前よりも速度も精度も段違い! これなら文句ねーだろ爺!」

「そうではない! 一つ一つ丁寧にやることに意味があるのだ!」

「俺もハギだって、丁寧に魔法で植えてやったぜ! 同じだろ!」

「どうせ楽がしたいだけなんだろうが!」

「そうだけど、その為の努力をした! わかんねぇ爺だな!」

「ええい、減らず口と屁理屈ばっか覚えよってからに!」

「いっでぇ!」

「ぼ、ボタン兄さん!? 暴力はよくないよお爺ちゃん!」

「ハギもうじうじしおって、やるならせめてもっとしゃきっとせんか!」

「いたぁ!」

「やりやがったなクソ爺!」

「おう、かかってこいや! バカ孫共!」


 内容としては魔法で苗を操り田植えをするボタンとハギがイルマのお父さん、小倉の息子娘の祖父にあたる人物が手で植えないとは何事かとそういう怒りである。

ハギは委縮して口を動かせずにいるが、ボタンはそれにくってかかって更にゲンコツを貰い、そこにハギも思う所あったのか反論すればゲンコツを貰う。

とうとう二人と一人の喧嘩が始まってしまった。


「また、ボタンにぃとハギにぃ怒られてるー」

「怒られてるー」

「なんでだろ? エル達よりも、びゅーんって、ばばばーって終わらせたのにね」

「知らん、しかしこの動作は腰つらい」

「そんな歳じゃないだろお互いにさ、後少しだ頑張れよ」


 ちなみにその怒られている横で俺はススキ、モミジ、エル、小倉と田植え中。

これかなり腰にくるな中腰ってのがきついし、足が田んぼに取られるから重たくって敵わない。

エル達、子供組は泥遊びと似た感覚で楽しそうだが大人二人には重労働だ。

そう考えると、ボタンとハギが羨ましいな。


「なあ小倉、田植え機とか作れないの?」

「僕が田植え機の事を少しでも知ってるとでも?」

「知ってたりは?」


 どこか一つでも知っていれば作れるのが小倉の創造の力だ。

大きさはまぁ、小型で構わないので作ってくれたりしないかね


「しないよ、一応開発はしてるけど作るにも試作する為の資材すら事欠いてる」

「まずは交易路か、あー腰つらい」

「これが終わったらご飯だから」


 という訳で、腰をいたわりながらちまちまと田植えをしていく。

やがて、ようやく全て植え終わるとイルマさんとマツとウメが食事を用意して田んぼの方に来てくれる、今日のお昼はサンドイッチ、魚がベースのようだ。

 ボタンとハギも戻ってくる、二人ともあおあざやたんこぶを作り服をぼろにして。あの後もお爺さんと喧嘩してたようだ、結果は大敗のようだが。

 次いで、別の場所で仕事をしていたフジ、アヤメ、サクラも戻ってくる。

アヤメはすぐに傷だらけのボタン達に近づき治療魔法をかけていく。

フジとサクラはまた今年も御爺様と喧嘩したのかと笑っていた。

次は勝ってやるとボタンは息巻く、毎年やってるのかこれ。


「お前は、自分の息子と義父の関係がこれでいいのか?」

「一応、僕からも説得してるけど、お義父さんがね」


 面と向かって俺に反論するボタン達が面白いから続けると言ってるそうで。

イルマのお父さんは赤鬼種の頭目の一人で反論出来る奴がいないのに、あの二人だけは真っ向から反論するのでそれが楽しくて仕方なく毎年春の田植えと秋の収穫はわざと焚き付けて喧嘩してるとか。

 もっと楽な作業法については小倉同様考えてはいるそうだ、ただ魔法は赤鬼には難しいらしい。


「いつかは、田植え機と収穫機作るからそれまでは仲良く喧嘩してもらうさ」

「さよけ」


 そんな田植えも終わって翌日。


「エルちゃん、旅先でも元気でね」

「元気でねー!」

「うん、ススキちゃんとキクちゃんも元気でね!」

「これ少ないけど旅先で食べてくれよ香辛料と米」

「ありがたく頂こう、ここから先の木道を超えたらアマノ領か」

「本当は皆で見送りたかったけど、子守りなんかもあるしね」


 赤鬼族、湿原前の集落に俺とエル、そしてススキとキク、小倉が立っていた。

3人は俺の見送り、他の家族は家事仕事やそれぞれ用事があるとか。

ススキとキクだけがエルをお見送りしたいと小倉についてきたそうだ。

小倉は二つの袋を手渡してくれる、中身は米と香辛料がいくらか。


「君のおかげでしばらく仕事には困らなそうだ、そう考えると君の楽隠居が羨ましい」

「好きでやってるんだろ」

「その通りだ、では君の旅路が沢山の幸福に見舞われる事を祈ってお別れとしよう」

「ああ、それじゃ行くぞエル」

「うん! またねー! また会おうねー!」

「絶対だよー、絶対に会おうねー」

「会おうねー!」


 エルの手を引いて木道に行く道へと入る。エルは後ろを向いたまま、ずっと手を振り続ける、危ないので抱き上げてやることに、存分にお別れをしなさい。

木道の手前に差し掛かると、併設された為替所で赤鬼にジルと銀銭を替えるかを問われる、なんだかんだ結構余ったな……替える必要も無いだろう。

記念にと変えない意思を示す一言を言って、進む事に。


 さぁ、次の目的地は帝都への夏の終わりまでの帰還を目途にまずはアマノ領!

俺とエルの旅はどこまで続くかそれを知る事の出来る奴なんているわけない。

俺だってどう着地するか予想がついていないのだから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る