鬼人族の過去

「おう、今帰ったぜローサ!」

「おかえりなさいユーディ、あら後ろの二人は?」

「こっちに用事があるって人間だってよ」

「初めまして奥方、夜になる時間に失礼、清孝魔央と申します。こちらは娘のエル」

「エルです、こんばんは!」

「ご丁寧にありがとうございます、私ユーディの妻でローサといいます」


 ユーディが元気よくドアを開き入って行けば、一人の女性がこちらを見る。

赤い肌をしており額から角が生えているという点を覗けば人間に近しいもので。

人間でもおいそれとお目にかかれない美貌を持っていた、気風のいい男には美人の嫁が出来るという事か。お互いに挨拶を交わしてからユーディの口から事情を話して貰えばどうぞゆっくりしていってくださいと言われ今日はユーディの家に泊まることに。


 おばあさんの所は椅子とテーブルがあったが、今回はシリクの所のように床に座る

案の定、ユーディは俺とエルに敷物を使えと渡してくれるので座る。

しかし綺麗なものだ、シリクの所もだが魔動製品も揃ってるし、それを作ってる工房とかは見つからないしどこかで買って来たのかね。


「今日は助かったよ、銀銭は明日でもいいか?」

「ああ、構わないしかし本当に貰っていいのか?」

「勿論さ、それだけの働きをしてくれたよ」

「なら、遠慮せず貰うよ」

「それでいい、しかしいい時代になったよ、俺がガキの頃じゃ考えられん」

「ユーディのあにきが子供の頃ってどんなだったのー?」

「ふむ、鬼人族の過去かちょっと興味があるな」

「ああん? 俺達の過去かぁ、貧困と飢えそんで挑戦と失敗かな」

「その話はお夕飯の後でもいいかしら? お客様もどうぞ」

「おおー! なんだこれー」

「何でしょうね、うふふ」

「ナンじゃねーのか?」

「ナン、だよな」

「それは知ってるよー、その隣のこっち緑色のふわふわとお肉?」

「それはカツレツ、それとキャベツの千切りっていうの」

「そっちか」

「なんだ、マオーは知ってたか」

「まぁな、それじゃ早速頂きます」


 今日の夕飯はここまで毎日の如く食べているナンとカツレツと千切りキャベツ。

ふむ、カツレツ食うなら米が欲しいがナンが不味いわけでもない、うん美味い。

ソースは野菜を煮込んで作ったのかね、これもいいな、二人も美味しそうに頬張っている。


「この千切りってやつ、シャキシャキだ、それにこのカツレツ、ザクザクのじゅわぁだよ、美味しいよ、ローサお姉さん!」

「なるほど、やっぱりわからん」

「お前さんの娘は不思議な言葉で美味さを表現するな」

「ありがとうエルちゃん、娘が生まれたらこんな感じかしらね?」

「娘でも息子でもいい、元気で生まれるならな」

「お子を授かってるのでしたね、それなのに泊めていただき感謝しかありません」

「いえいえ、こちらこそ大したおもてなしも出来ずに申し訳ありません」

「ここまでのご馳走を頂ければそれで充分ですよ、とてもおいしいです」

「おねえさんのごはん美味しかったよ! ご馳走様!」

「よし、皿は俺が洗っておくよ、適当にくつろいでな」


 エルはやはり擬音多めの食レポをするおそらく俺とエルで美味しさを伝えようとしたら一向に伝わらないだろう、ローサさんはそんなエルとこれから生まれる子を想像して微笑む、本来ならそんな忙しい時期に泊まるなんてきっと迷惑極まりないというのに逆に謝られるこの食事だけでも十分というのに。

皿洗いはユーディがするようなのので俺達はしばらくのんびり。

エルはローサさんにここまでの湿地帯で見た動物の話をしている。

そんな風にまったりしていると湯のみを4つ持ってユーディが戻ってくる。


「ほれ、香草で煮だした湯だ、何ていったか、チャだったかな」

「ふむ、頂こう……悪くないな」

「ちょっとにがにがーって感じだけど、癖になるお味です」

「マオー、お前の娘変わってるな」

「だろう、俺もたまに思う」

「応…………さてと、俺達鬼人族の過去話だっけ? さっきも言った通り、俺がガキの頃、まだ親父と暮らしてた頃は貧困と飢えの日々さ」


 ユーディも座り夕飯の前に聞こうとしていた昔話が始まる。

なんでもユーディの親世代くらいは、ここまで生活が豊かでは無かった。魔動製品も無いし、農業もしていなかった、狩猟と採取で自給自足の日々だった。


 それでも鬼人族は満足して暮らしていたのだが、今から18年前、俺達が呼ばれる前くらいから生活が苦しくなり始めた、魔獣の大量発生で狩りが上手くいかず満足に採取にもいけない、常に腹を空かせたその日暮らしで精一杯だった。

帝国に救援を求め物資を貰って凌いでいたが3年でぱったり止まった。

そして15年前、鬼人族にとって転機を持たらした存在が現れる。


「小倉和夫、あのにーちゃんが来てから色々と回り始めた、そして挑戦と失敗の始まりさ」

 

 そう小倉和夫である、最初は緑鬼種に武器である銃や防具を与え使う技術や知識を与えた。その後、赤鬼達の下にも渡り多くの武器防具を同じように与えた。

更に帝国からの救援のストップの原因を務めたりと様々な活躍をしたという話だ。

そして緑鬼、赤鬼両種族はみるみるうちに魔獣を退け領域を取り返していく。


 だが、小倉は魔獣を倒してお終いではなく、次に赤鬼や緑鬼と協力して農業を始め湿地帯を発展させようとする。小倉には農業の知識は無かったので赤鬼、緑鬼と共に苦労の連続だったらしく、魔獣を退けながら失敗と成功を繰り返し、3年の月日をかけて集落全体に行き渡るだけの食料を作れるレベルまで出来たらしい。その後も湖や沼の漁業にも手をつけたりとしていたが5年目、青鬼種が戦争を吹っかけてきて中断防衛戦争が始まる。


「2年で終わったのは帝国の小倉のにーちゃんのお仲間が来てくれたからってのが大きいねぇ、今でも大人連中は鮮明に思い出せるって話をするぜ」


 ここからは俺も噂で聞いた通りだがどうやら女神の勇者が一緒になって協力して戦い平定されたようだ俺も救援に行ければよかったが、その頃はほぼ反対の戦地にいたな、その後青鬼種で戦争に加担した者達は追放処分。ちなみにこれは結果的に俺から見たら悪手となるものだった、そうして残ったのは300名程度の若い青鬼種だけ。


 一人の若い女性青鬼が非戦を説き若いものや賛同者だけ連れて奥に引っ込んで戦争に参戦していなかったとか。この残った300名の青鬼の代表として女青鬼は死を覚悟して両種族へ共存と種の存続を願いこれを両種は許し三種族が共存繁栄する地盤が固まり始めた。


「まぁ、この後は6年くらい湿地帯の開拓だ、途中で追放した青鬼が盗賊化してそれの制圧、それで判明した公国の裏工作これで帝国は一命を取り留めたんだってな」


 公国との戦争には湿地帯の開拓もあるのでと兵も食料も出せずにいたが。

今から2年前、追放した青鬼が盗賊になったと聞き制圧に出兵、制圧後彼らから公国の裏工作などが判明したと、噂程度で聞いてたが改めて戦争の勝利にこんな裏があったとはな。


「おとさん、エル、眠くなっちゃった……」

「あらあら、エルちゃんはこっちね、ユーディ、今日は居間で寝てね」

「ああ、俺の布団使わせてやれ、おやすみな」

「うん、ユーディのあにき、おやすみ、おはなしおもしろかったよ」

「おう…………とっときだすから、こっそり静かに飲もうぜ」

「お前なぁ」


 エルが目をこすり眠そうにそういえばローサさんが布団のある部屋へと案内してくれる、どうやら今日は俺とユーディ二人で居間で寝ることになりそうだ。

というかユーディ、二人がいなくなったからと台所から何を出そうとする。


「へっへっへ、麦から作った麦焼t……ろ、ローサさん、ね、寝たんじゃぁ」

「あ・な・たぁ~、私が妊娠してる間は二人で禁酒って言った筈よ」

「で、でも客人に酒の一つもださねぇのわさ」

「いや、俺も娘がいる、他人の家で酔って醜態をさらすわけにはいかん」

「はい、それは下の棚に仕舞いなさい、子供が乳離れしたら一緒に飲む約束でしょ」

「うぃ~っす、っちぇ久々に飲めると思ったのにさ」


 台所から戻るとコップと一緒に一つの瓶が握られていたが、後ろから圧を感じる。

どうやらローサさんがいるようだった、ユーディは子供のように口を尖らせて酒を仕舞っていく、どうやら気風のいい伊達男も奥さんには勝てないようだ。

っさ、俺達も寝てしまう事に、幸い空間魔法水晶に毛布は入れてたのでそれを使って寝ることに相成るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る