二歩目 ふらり途中下車 美食の街

次の街へ 列車での出会い② 

「ショッセン見えなくなっちゃった」

「すぐに次の街だ」

「ヤミーだったよね、美食の街って所」

「ああ、そうだ」


 音楽の街ショッセンから再び俺とエルは魔動列車へ乗り込み、目的地である湿原へと向かう旅を再開させる、次なる目的地はアッカリー・ヤミー氏が治める領地ヤミー領の中心ヤミーだ、そういや朝飯まだだったな、何かあるかね。


「ふぃー、危なかった危なかった」

「まったくホーム間違えるとか、おめぇはそそっかしいなぁ」

「そりゃ、お互い様っしょ、朝飯は?」

「あ」

「お前だって、そそっかしいねぇ」

「なぁに車内販売の飯で済まそうぜ、あ、すんません前いいですか?」

「構わん」

「んじゃ、しつれーしまーす」


 車両を繋ぐドアをくぐって入ってきた二人組が会話をしながら俺達の前に座る。

金髪を逆立てた男とザンギリ頭の黒髪をした男の二人組だ。


「もしかして、守護英雄様っすか?」

「そうだが」

「うぉぉおお!! 俺初めて見たっす」

「俺もだよ、あ、俺はクーマって言います」

「あ、俺はハッチって言うっす」

「清孝魔央だ守護英雄と呼ぶのはやめてくれ」

「私、エル!」

「わかったよ清孝さん、エルの嬢ちゃんもよろしく」

「お、車内販売来たぜ、すんませーん」

 

 こいつらも俺の事を守護英雄とすぐに見抜いた

ザンギリ頭のほうはクーマ、ツンツン髪のほうがハッチ。

自己紹介が終わったところで車内販売の店員が来てくれる。


「エルは何がいい?」

「あ、食うのが決まってないなら、スラッピー・ジョー、いいっすよ」

「そうなのか? なら4つそれを」

「かしこまりましたー」

「お前らのも奢ろう、お勧めを聞かせて貰った礼だ」

「まじすか! ありがとうございます!」

「おお英雄様太っ腹っす!」

「おとさんはむきむきだよー」

「言葉の綾っすよ、エルちゃん」


 ハッチがお勧めの飯を教えてくれたのでそれを買う。

折角なので二人にも奢ってやる、包みを開いてやる。

ふむ玉ねぎと挽肉、あとはケチャップか? いただきます……


「あわわわ、こぼれるこぼれる」

「それがスラッピー・ジョーの大変なとこ、あちゃちゃちゃ」

「おめーもじゃねーか、っぎゃぁー、俺のも!?」


 三人して包み紙からぽろぽろと落ちそうになる具を急いで口に運ぶ。

俺も同じように焦って具がこぼれないように食べる。


「はぁー、食った食った、そいや、お二人はどこまで?」

「えっとね、湿地帯まで行くの!」

「ほへー、あそこっすか、列車だと途中までっすね」

「ああ、ヤミーで一休みしてからな」

「そうなんすね、俺達はショッセンの音楽祭帰りっす」

「今年は大盛り上がりだったな、LIGHTBIRD、また聞きたいぜ」

「さぎねぇ達、かっこよかったね!」

「俺はジャズバンドもよかったっすね、サックスのお姉さん美人だったなぁ」

「女かよ!?」



 どうやら、クーマとハッチはヤミーで暮らしているようで、毎年ショッセンの音楽祭を楽しみにしており必ず見に行くらしい。今年も楽しかったようで何よりだ

しばし三人が音楽祭の話で盛り上がっている間に窓の外を見てみる……遠くに牧草と牛の姿が見えた、ふむ、そろそろジャーミー領を抜けて、ヤミー領に入るかな。


「ほらこれー、いいでしょー」

「うっお、すげぇ、LIGHTBIRDの鷺さんのサイン入り記録魔法水晶じゃん!」

「いいなぁ、何処で買ったんすかこれ」

「えへへー貰ったんだよ、おとさんとさぎねぇはお友達なんだよ!」

「そういや、LIGHTBIRDのメンバーは女神の勇者だったか」

「なるほど、いいすねぇ、俺も欲しいっす」


 話と一緒にエルが一つの魔法水晶を取り出して見せびらかす、いつの間に貰ってたんだろうか、お、見えてきた見えてきた、ヤミー領の穀倉地帯、うーんのどかだ。


「ヤミーの街はいいっすよぉ、色んな飯が沢山っすよぉ」

「色んな飯屋が出来ては消える、飯の最先端だ」

「う~ん、どんなのが食べれるかな、おとさん」

「米が食いたい」

「コメ? なんすかそれ、聞いたことない食い物っすねー」

「じゃあ、味噌か醤油使った料理」

「ミソ? ショーユ? どっちも聞いたことないですね」


 食べたいものを聞かれたので素直に聞いてみてもこれである、この15年間ずっと探し求めているが帝国に米や大豆など、それから出来る物である味噌や醤油、日本酒等も作られていない……日本食が恋しいぜ。


「すんません、清孝さんの食いたいものを知らないで」

「ちきしょぉ、ヤミーの街の住民として面目ないっす」

「気にするな、そのうち探してみる予定だ」


 帝国に無いだけかもしれないし、もしかしたらどこかの他種族が独自に育てて流通してないだけかもしれん、この旅で見つかればいいが。


「見えてきたっすよ! ヤミーの街っす」

「おおー、おっきぃ街だー」

「あれが美食の街ヤミー、存分に食い倒れてください」

「そうさせてもらうかな、時に相談なんだが」

「なんですか? 清孝さん」


 窓からエルが身を乗り出そうとするのを止めながら、クーマに提案する。

それはヤミーの街の案内である、折角の美食の街、不味い飯が出る店なんかに入った日にはたまったもんじゃない、水先案内人が居ればその心配はないだろう。

俺のその提案にクーマは勿論、英雄様を案内できるなら喜んでとの事だ。

俺はその言葉に英雄ではなく友人として案内してくれるといいのだがと答える。

俺が清孝さんの友達ですか、もちよろこんで! と答えてくれるのだった。


「おとさーん、列車止まったよ、早くはやくー」

「ほれクーマ、早く降りろよ! さー、エルちゃん、何から食いに行くっすか」

「待てってハッチ、行きましょうか、清孝さん」

「ああ」


 リュックサックを背負って先にドアから降りた二人組を追いかける。

まったく、エルもそそっかしい娘だ、さてと美食の街か。

クーマの言う通りじゃないが、満足いくまで食べてから出発するか。

あ、その前に宿も取らないとな、日はまだ高いな、夕方になる前には探さんとな。



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