一歩目 ふらり途中下車 音楽の街
目的地は何処? 列車での出会い
魔動列車、もしくは汽車と呼ばれるものが俺とエルを乗せてゆっくりと走る。
最初の目的地まではそう遠くない、朝飯代わりにマルコのサンドウィッチを齧る。
卵サンドとトマトか。
「エル、どっちのサンドウィッチにする?」
「トマトのー、トマトとレタスのしゃきしゃきおいしーの」
「そうか」
必然的に余りの方、卵のサンドウィッチを食べる、美味い、ここ数日はマルコの飯に世話になりっぱなしだったな、旅先でも何か美味いものが食えるといいが。
「おとさん、最初はどこに行くの?」
「まずは音楽の街、ショッセンからだな」
「音楽の街?」
「そうだ」
最初の目的地はこの列車で数時間北東へと進んだ先のショッセンの街。
この辺りは子爵モルトン・ジャーミー氏が治める領地と聞いている。
その一つの町であるショッセンは音楽好きの町長が取り纏め役をしている為、音楽が盛んな街と聞いた。朝は街の放送塔からの音楽で目覚め、昼は至る所で音楽家が自慢の音楽を披露し。夜になっても酒場なんかから音楽が絶えない。
演奏の無い酒場は三流だなんて言葉をショッセンを知る工作兵に聞いた記憶がある。クラスメイトにも音楽好きはいた会えるやもしれん。
「その後はどこに行くの?」
「そうだな、美食の街、ヤミーだろうな」
「おいしいもの沢山!」
「だろうな」
次は東へ進むそうすると若くして子爵の爵位を継いだアッカリー・ヤミー氏の領地に入る、領主自らが治めるこの町は美食の街と名高い。ヤミー氏自身も各地の食事を研究したり自身でも開発、料理するほどの美食家と聞く。そんな街だからこそ、様々な料理の店が生まれるし、食事が豊富だ。ヤミーの街は食の底なし沼だと言われてるらしい。ここ等辺出身の兵士から聞いた事があるので密かに楽しみでもあった。
そういや料理人を目指してるクラスメイトもいたな、案外簡単に全員と再開できそうだな
「その後はおとさんのおともだちの所だね!」
「ああ帝国の北東に広がる湿地帯、鬼人族の集落地帯だな」
「きじんぞく?」
「ああそうだ」
帝国の北東一帯は湿地で覆われており、ここは鬼人族が集落を作る領域だ。
一部の部族は魔獣退治から始まり、他種族紛争、公国との戦争と共に戦い抜いてきた他種族の中でも帝国と密接な関係にある種族のひとつだ。
さて、先ほど一部のといった通り、鬼人族は細かく分類すると三種に分かれる。
赤い肌をしており女性でも優に180はある体躯を持つ怪力の赤鬼種
人間と同じくらいの体躯で青い肌をしており魔法を得意とする青鬼種。
緑の肌で男でも人間の子供程度の小さな体躯をしている緑鬼種。
この3種族だ、ちなみに他種族紛争で反乱を起こしたのは青鬼種。
赤鬼も緑鬼も苦戦したらしいが小倉の武器・防具でなんとかなったそうだ。
小倉がいるのは赤か緑どちらかの部族の集落だろうがまぁのんびり探せばいい。
問題は湿地帯は地盤の関係、生態系保存の為、そしてなにより他種族の領域ゆえに
列車は走ってないって事だな。エルには過酷な旅にはならないと言ったが、少々歩くのに我慢してもらう他ないか。
「おとさん、お友達に早く会えるといーねー」
「そうだな、エル、口の周りべとべとだぞ、今拭いてやる」
「ありがとー」
トマトのサンドウィッチは食べ終わったエルの口の周りを拭いてやる。
さて、目的地まではまだあるな、そう思いながら外を見やっていると。
「すみません、前の席よろしいですか?」
「構わないが」
「ありがとうございます、お間違え無ければ守護英雄様で?」
「そうだが」
「いやぁ、こんなところで会えるだなんて、あ、自己紹介をば、私は旅の数学者で岩人族のアルミと申します」
「そうか」
「お噂は聞いてましたがここまでとは」
「噂とは?」
「守護英雄様は多くを語らない寡黙なお方と」
「そうか」
「そうです、ですが悪いお人ではなさそうですな」
アルミ、そう名乗る男は列車の中だというのに帽子は外しておらず。
更に言えば春先というのにコートを着込みマフラーを巻き、手袋もしている。
岩人族なら納得だ、彼彼女らは人前に肌を晒す事を嫌うからな。
「おじさんそのかっこ暑くないの? それにお帽子外さないの」
「おっとお嬢さん、これは英雄様とその娘様に失礼な姿を…………」
「お、おとさん!? この人、岩だ! 岩が喋ってる!?」
「そうだな」
「我々、岩人族は動く鉱石あるいは宝石なのです、驚かれましたか?」
「すっごく驚いた!」
「左様ですか、英雄様は驚かないのですね」
「公国の奴隷兵士にいたからな」
「そうでしたか、その節は我が同胞がご迷惑を」
「終わった話だ、今は徐々に解放されてるらしいな」
「ええ、無事に我が国で保護されております」
岩人族、帝国とは公国を挟んで真西に独立し国を興した種族だ。
その特徴は先にアルミの言った通り体が鉱石や宝石で出来ている事の他にも人間では比較対象にならない程の尋常じゃない魔力量を擁している所だ。
その力を奴隷兵として公国に利用されていた歴史などもある。
実際、先の戦争では俺も岩人族の奴隷兵と戦った事がある。
しかしその奴隷達も現在、戦争で生き残った者達は解放され岩人の国に保護されていると聞き及んでいる。
岩人族はその身体の為に盗賊などを恐れ姿を隠しているが。
元来の性格がお人好しな所があるがゆえ信頼を得れば正体はすぐ教えてくれる。
そしてアルミと名乗る男の目的地は俺達と同じようでショッセンのようだった。
「今年の音楽祭は夏ではなく春と聞き慌てましたが間に合いそうでよかった」
「音楽祭?」
「おや? ご存じないので、音楽祭を娘様と見物に行くのでは?」
「ううん、おとさんのお友達探しなの」
「守護英雄様のお友達となると女神の勇者様で?」
「そうだ、音楽祭について詳しく、それと清孝でいい」
「それでは清孝様で、さて音楽祭についてですね」
なんでも、毎年夏になると各地は勿論、他国からも多くの音楽家が集まり、この地では音楽祭というものが開かれてきていたとか、紛争や戦争時代は他国の者達が来ることは無かったが、この度、終戦により国交も依然とまでいかないまでも復旧の目途が立って来たという事もあり。時期を前倒しにして音楽家を呼び祭りを開こうという話になったとか。アルミは数学者ではあるが、音楽を趣味にしているようで、参加こそしないが戦争が起きるまでは毎年聞きに来ていたんだとか。
「およそ10年ぶり、今からワクワクですよ、私は」
「おじさん、楽しそうだねー」
「そりゃ、勿論、噂では天才ピアニストや流浪の三人娘バンドも来るだとか」
「…………もしやピアニストと三人娘の名前は」
「清孝様が思う方々で間違いないですよ、おめでとうと言うべきですか?」
「ありがとうと返させてもらうよ」
「それならよかった」
どうやら思ったより、旧友との再会はすぐに果たせそうだ。
俺のクラスメイトの音楽好き3人組そして天才ピアニストと。
「おとさん、町が見えてきたよ!」
「あれがショッセンの街でございますよ、清孝様!」
「そうか、降りる準備をするか」
窓の外から街が見えてくる、どうやらショッセンの街についたようだ。
リュックサックを背負い、降りる準備を始める。
さてと、音楽の街ショッセン、いかなる場所か、楽しみだ。
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