騒々しい、音楽の街と旧友達
「ついたー!」
「つきましたなー!」
「ついたな」
三者三様の到着を意味する言葉を出しながら列車から降り立った俺達。
誰がどの言葉を言ったかはお察しだ。アルミはこのまま知人の家に行くのでと去っていく、俺達もまずは宿を探すべきだな、昼にはまだ時間がありそうだし。
「まずは宿を探そう、しかし混んでるな」
「はぐれないよう気を付けなきゃ」
「手を貸せ、繋いでおこう」
「うん! ありがとおとさん」
エルの手を握って駅の改札を出れば、早速音楽が飛び込んでくる。
昼の喧騒に似つかわしい賑やかなヒップホップ系だろうか、そんな曲だ。
音楽についてはよくわからんな、こういうのは俺の手合いではない。
のだが、エルはその音楽家達の音楽が気になるのか足を止めてしまう。
「おとさん音楽してる、本当に音楽の町なんだねー」
「そうだな」
「こう、げんきまんまんって感じになるー」
「なるほどわからん」
しばらくして曲が終わるとギターケースを開けて、どうかお楽しみいただけたらと一礼をする、所謂チップという奴か、俺は1万ジル札を財布から出し、ギターケースへと入れる、すると、音楽家達が俺を見て驚いた顔をし始める。
「もしかして、守護英雄様で!?」
「俺ですよ、俺! 戦場で助けてもらった!」
「まさか、守護英雄様が聴いてらしたとは」
「バンド初めてよかったなぁ!」
どうやら、バンドメンバーの一人がかつて戦場で助けた一人だったようだ。
一言、娘がいい曲だったと俺もそう思うよと言ってやれば。
守護英雄様にそういわれるとは感激の極みですと、泣き出してしまった。
守護英雄がいると誰かが聞きつけたのか、人が集まってきてしまう。
ここは駅前だし、人が集まると迷惑になるだろう、さっさと行くか。
「エル、さっさとここを去ろう、宿探し再開だ」
「はーい」
エルの手を引いて、その場を後にする、あと何回これを繰り返さにゃならんかね。
さて、宿屋探しなのだが難航している。音楽祭の前日の為かどこも旅の商人や音楽家で埋まってしまっており、部屋一つ取る事にすら苦労しているのだ。
「お部屋取れないね」
「最悪、夕方の列車でヤミーだな」
「音楽祭見たかったな」
「また来年がある」
「……うん」
現在はお昼ご飯の最中、出てきたのはピザ、エルは少ししょんぼりしながらも美味しいと食べていた、うぅむ、エルの為にもどこか宿屋の部屋を見つけれればいいが。
「なぁ、もしかして清孝か?」
「うん、その通りだが、貴方は?」
「友人の顔を忘れるか? 俺だ白石だ」
「……白石だって!?」
ピザを食べている最中に声をかけられる、声をかけてきたのはまだ20代くらいの男だろう、髪の毛の一房に白色のメッシュを入れた優男風の男だ。
傍らには金髪碧眼の背は170はあろう色白な美女を連れていた。
そして事もあろうにその男は白石と名乗った俺のしる白石と言えば
かつてクラスメイトとして同じようにこの異世界に来た彼だけだ。
しかしそれであれば、現在俺と同じ32……いや、白石に限っては33のはずだ。
だのに、何故そんなに若々しいのだ!?
「もしかしておとさんのお友達?」
「そうだよ、
「エルだよ、おとさんとお友達探しの旅をしてるの!」
「そうなんですね、あ、私は森人族のカロネーヴァ、カロで構いません」
「まぁ座れ」
「じゃ、遠慮なく、カロ奥に入ってくれ」
「はい、鷲尾さん」
白石とカロネーヴァと名乗った、森人族の女性が向かい側の席に座る。
森人族について簡単というか一言で言えばエルフである。
耳が長くて男女どちらも長身痩躯の美人顔と来たもんだ。
さて、順繰りに俺は聞いていく、何故そんなに若い、隣の森人族は。
そもがよく俺だと気づいたなと、白石はそれらに律義に答えてくれる。
「一つ目、俺の若さだけど、俺の能力は覚えてるか?」
「……時間操作だったな、なるほど」
そういえば白石の能力は魔力を媒介にどんな時間でも操作してしまう能力だったな
魔獣は魔力の塊、一瞬で老化させて倒していったと報告があったな。
その力で老化を抑え若返ったと、更に老化防止と若返りはクラスメイトの多くに施してやったようでふり幅はあるが大体10代~20前半の年齢で保ってるらしい。
魔力がない俺には使えないので残念だと心で嘆く。
「そんで、カロは俺の恋人だよ」
「はい、守護英雄様については森人の国にもその名声は届いております」
「そうか」
今白石は森人の国で暮らしているらしい、そしてその国で惚れたカロネーヴァに交際を申し込んで今に至ると。
そして、俺の名声は森人にも届いており、女王は特に興味を持っているとか。
たかが戦働きだけの男を目にかけて貰えて光栄な物だ。
「で、お前に気づけたのは、カロのおかげ」
「はい、魔力がない人間は初めて見ました」
「ああ、そういう」
森人族は魔力感知能力が魔獣の次に高い、魔力の量が目に見えるらしい。
で、俺は魔力なんて欠片も無いがために、カロネーヴァの目に止まったと。
もしやと声を掛けたら案の定俺だったと
「白石がこの国にいる理由は勿論」
「ああ音楽祭さ、久々にLIGHTBIRDで集まるんだ」
「そうなのか、残りの三人は?」
「町に着いたら、この店に来てくれってな、まだ来てないみたいだが」
白石はつい先ほど列車で街についたようで、他の三人の案内を待つがためここにいるらしいが、かれこれ数時間まだ来てないようだ大方道草でもしてるんだろうな。
あの中で道草するなら彼女だろうか。
「ほら、
「わしくんとわしくんの彼女さんが待ってるよ~」
「うぅ~、もうちょっとあの演奏聞きたかったー!」
「白石君を待たせてるのに、あんなに夢中になっちゃって、怒ってるよきっと」
「まぁまぁ、ほら、見えてきたよ~」
店の窓から慌てて走る三人娘が来た、変わらないな彼女らは。
一人は重そうなギターケースを背負って慌てた様子で走っており。
もう一人は少し焦りながらその少女を怒る、いやあれは叱ってると言い換えよう。
最後の一人はどこかぼんやりした感じで同じように走っている。
上から
彼女らと白石はかつて高校1年の頃伝説のバンドLIGHTBIRDとして一躍有名になった俺が知るクラスでもっとも音楽を知る奴らだ。
少女たちが店に入り白石を見つけると同時に俺を見る、なんだこのおじさんって顔だ。そんな彼女らに俺は久しいなと言ってから清孝魔央だと自己紹介をする。
まさか自己紹介を同じ人間に二度することになるとはな。
「清孝君だったの、すっごい老けてるじゃん」
「こら鶴見ちゃん、ごめんなさい色々聞いているわお疲れ様、清孝君」
「帝国のしゅごえ~ゆ~」
「青山の口調だといまいち凄く聞こえんな、しかし本当よくやったよ清孝は」
「なんだか賑やかな人たちだね!」
「ああ、そうだな」
「あれ? その褐色女の子はどちら様? もしや清孝君の隠し子!?」
「なぜ、隠し子でなきゃならん、エル、自己紹介」
「はーい!」
エルの事を尋ねられるので自己紹介をさせる。それと宿を探してるが見つからないと言う事を、その話をすれば、行きつけの宿を一部屋貸してくれるという。
「一緒に転移したクラスメイトだしね! いいってことよ!」
「助かるよ」
「そんじゃ、宿に行くとするか、ついたらすぐに合わせ練習すっぞ」
「「「はーい」」」
久々に再開する旧友は音楽の街の音楽に負けず劣らずの騒々しさであった。
しかし、この騒々しさは決して悪く感じない、一時だけ昔に戻れる。そんな騒々しさであった。
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