旧友からの贈り物、旅への決意
少しばかりの休憩を終了、さてと必要な物を買いに行かなきゃならんな。
家の中を一通り調べてみたが、家具類はほぼ揃っていた。リビングにはソファーに
テーブル、冷暖房、キッチンには食器棚に便利な魔道製品各種。
ベッドは夫婦のベッド1つに子供用ベッド1つ、衣装ダンスにクローゼットに本棚と豊富だ。なんでも前までは他種族の夫婦が暮らしていたが故郷に帰ったそうで
その際に家具類は置いていくので次の人によろしければと。正直助かるな。
「エル、買い物に行くぞ」
「何買いにいくのー?」
「最優先は最低限の衣服類だな、次に石鹸や掃除用具だ、時間があれば食器もだ」
「色々、買わないとだねー、エル頑張る」
「ああ、頼むぞ」
そうして、エルと俺は生活必需品を買うのに奔走するのだった。
全ての生活必需品を買う頃には日は完全に落ちてしまっていた。
エルもくたくたなのか、ソファーに寄りかかって船を漕いでいた。
夕飯をこの後作らないといけんのか、つらいな……
「すんませーん、隣のマルコっていうんですけど、守護英雄様いらっしゃいます?」
どうやら、隣から人が来たようだ玄関を開ければそこには下の喫茶店の厨房にいた青年が立っていた、名前はマルコ、住み込みでこの喫茶店で働いているそうだ。
「これ、色々揃えるのに今日忙しそうだったんで、御迷惑じゃなければ娘さんとどうぞ、俺が作ったパンとシチューです」
マルコ青年は俺にシチューが入った鍋とパンが入った袋を手渡してくれる。
なんでも試作などで沢山作り過ぎることがあるので助けると思って食べて欲しいとの事、これまた正直助かる、ありがたく娘と頂こうと礼をする。
「そんじゃお隣さん同士これからもよろしくお願いします英雄様」
「清孝でいい」
「じゃぁ清孝さんで、それでは!」
元気のいい若者だな……こんな事言い始めてたら、すぐにおじさんと呼ばれてしまいそうだ。玄関を閉めて、エルに今日の夕飯はお隣さんが用意してくれたぞとテーブルにパンを乗せる、シチューの方はキッチンで温めることに……
「エル、すまんがコンロをつけてくれ」
「もごもごもご……はーい」
パンを齧り始めていたエルにこっちに来てくれるように頼む、その目的は魔動コンロに火をつけてもらう為、自分一人でコンロも起こせないとはな、既にエルには俺が魔力が無いことを説明している、生活必需品を買うとき催した時にも手伝って貰ったりした。こればかりは自分ではどうしようもない、悲しいかな。
シチューが温まったら、シチューをコンロから上げて、テーブルに鍋敷きを敷いて置いてやる。適当な深皿とスプーンを用意してエルによそってやる。
さてと、食べるとするか…………うん、美味いな。
「このシチューうんまーい、とろとろで、こううまいのがふわっーってくる」
「なるほどわからん」
エルの表現は独特で俺には一切理解できなかった、まあ自分の語彙力で何とかして伝えようとする努力は感じた、その後は特に会話もなく食事を終える。
ふぅ、片づけは明日でもいいだろう、後は風呂に入って寝るか……あ、手紙。
俺は帝都に行ったときに軍服の上着などを入れていた袋から手紙を取り出す。
手紙の差出人は小倉和夫、思えばこの世界で俺が最も頼ってきた男だ。
俺の武器や防具はあいつによって作られたもののそれだからだ、さてどんな手紙なのだろうか、封筒を開き手紙を読み始めていく。
『清孝魔央へ』
久しぶり、これを読んでるという事は無事帝都に戻れたんだね
本来なら直接会ってお互いの無事と再会を喜びたいけど、多忙な身の上でね
手紙という形になってしまったことを申し訳なく思う、それともう一つ
手紙を残した理由があってね、実は君に一つ贈り物を用意していたんだ
この世界で魔力が無くて生きにくいであろう君にと魔動製品を用意した
宰相殿からこの手紙と一緒に小箱を受け取っていたと思う、開けてみてくれ
えっと、小箱、小箱、あ、こいつか何が入ってるんだ?
開けてみればそれはもう15年も昔に見たきりであったテレビのリモコンに似た物が入っていた、テレビのリモコンよりもボタンの数は極端に少ない、赤いボタンと青いボタンしかないな、まだ続きがあるな、えっと
その魔動製品を【送魔機】と僕は呼んでいる、具体的な能力の解説に入るよ
効果はいたって単純で、この機械を魔動製品、魔法水晶に向けると魔力を送れる
そしてその魔力を利用して魔動製品、魔法水晶を起動させれるという物だ
使用方法だが、まずはボタンのついてない裏に蓋がついている、あけてくれ
早速開けてみる、そこには緑色に光る四角い箱が入っていた
入っているのは魔力充電池、僕が創造で作ったオリジナルのアイテムだ
作るのは大変だったよ、ちなみに緑なら満タン、赤なら充電が必要だ
少し手間かも知れないが赤だったら誰かに魔力を注いで貰ってほしい
確認が出来たら閉めてくれ、そして使用したい製品、水晶へこれを当てる
後は赤いボタンを押し続ける、魔力充電池の魔力の限り魔力を注ぐよ
青いボタンはなんと遠隔操作ボタン、遠く離れてても魔動製品が動かせる
これさえあれば、魔力充電池に魔力があれば君でも製品、水晶が使えるだろう
この世界で少しでも君には生きやすくそして楽しい人生を歩んでほしいんだ
それでは、そのうち君とは直接顔を合わせて話がしたいね
その日が一日でも早く来ることを願って、それじゃあ、健康に気を付けてね
『小倉和夫より』
小倉……俺の為に作ったのか、こいつを、俺意外が持ってても二束三文にすらならない道具をわざわざ、コストの重いオリジナルのアイテムまで創造して。
俺はこの15年、小倉に助けられてばっかだな……
「おとさん、泣いてるの?」
「ああ、ちょっと友達を思い出してな」
「大切なお友達なの?」
「ああ……そうだ…………さてと風呂入って寝ようか」
「うん!」
涙をすぐに拭って、明日も忙しくなるだろうから今日は早くに寝るのを決める。
早速俺は送魔機を試してみる、風呂場に行きお湯が張れるかを確認。
お湯を張る魔動製品にリモコンを向けて魔力を注ぐ。赤いレーザー光が出てくる。
これが魔力が出ているのを示しているのだろうか、とりあえず湯船についた魔動製品へ向け続けると、途中で止まってしまう、充電切れか? 蓋を外して確認しても緑色だ魔動製品に魔力が溜まったのか確か風呂の魔動製品は押し込むと……
おおっ! お湯が音を立てて湯舟へと流れていく少し手を入れてみればしっかり暖かい、うん、この送魔機はしっかり使える、これがあれば俺も限定的だが魔法水晶や魔動製品が使える、凄い代物じゃないか、小倉には礼を言わないとならんな。
「はぁー、あたたかーい」
「ああ~、いい湯だ」
「おとさん、おじいちゃんみたいー」
エルを伴って、身体を洗ってから湯舟へ浸かる、何年ぶりだこうして湯舟に浸かるのは、いや帝城で浸かったか。
ちなみにシャワーも送魔機を使えば簡単に使えた、本当に便利だ。
…………
「なぁエル、聞いてくれるか」
「どうしたの、おとさん?」
「借りたばかりだが少しばかり家を空けようと思う」
「え? おとさんどっかいっちゃうの!?」
「ああ、おとさん、友達に会いたいんだ」
「お友達に?」
「ああ、そうだ」
今、俺意外のクラスメイトそれに先生が何をやっているのか無性に知りたくなったのだ。小倉の手紙では元気でやっているように思えるし、他の奴らもそんな感じだと思いたい、それを俺は自分の目で見てみたいのだ。
「それでな、エルも一緒についてきてくれるか?」
「エルも一緒なの?」
「ひとりぼっちにしないと約束したからな」
「うん、エルも一緒に行く!」
折角だ皆に逢いに行くのと一緒にいろんなところをエルと見て回ろう。
今まで15年俺は十分頑張って来た、少しくらいゆっくり世界を見て回っても罰は当たるまい、そうと決まれば明日から旅道具をそろえんとな。
この後、俺とエルは風呂を出て早々に眠りにつく、エルは一人で寝れなかったのか俺の部屋にきて一緒に寝るのであった、まだまだ子供か。
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