色々苦労はあるが、何とかなってます
重大な問題、魔力が無いと用を足すのもままならない問題が発生して数日。
俺はなんとか問題なく異世界での生活を送れている。
あの後、更に風呂の湯を沸かすのもシャワーを出すことも出来なかった。
更に更に部屋の掃除をしようものなら掃除機は使えない始末。
もっと言えば部屋にそなえつけの冷蔵庫やラジオ、照明すら使えないと来た。
そんな俺が今、どうしてこの異世界でも生活できているのは。
「今日も……ありがとうございます」
便座に尻丸出しで座りながら、俺は執事のおじさんに礼を言う、俺が用を足すときに毎回こうして浄化魔法と水流魔法を起動する水晶に魔力を注いでくれるのだ。このように俺の生活は国が用意してくれた執事さんやメイドさんに支えられていた。
風呂を沸かし、湯を桶に貯めてくれたり、部屋に掃除機をかけてくれたり。
朝は照明の点灯から始まり冷蔵庫とラジオに魔力を注ぎ夜は消灯に来てくれている。
正直言おう……みじめだ、他の皆は全て自分で出来ている事を、他人に任さなければならないこの境遇がとてもみじめだ、特に用を足すのも他人が居ないとできないというのは惨めどころか屈辱と恥ずかしさがないまぜになって何とも言えないものだ。
そんな俺のこの数日は基本的に訓練の毎日、俺だけじゃないクラスメイトの皆もだ。
武器を振ったこともない高校生ばかりの初心者を教えるのはとても大変だろう。
ちなみに俺は最初に筋がいいといわれてから、特にお咎めなし、たまにこちらを見て休めるうちに休むように言ってから他のクラスメイトの下に行く。
「おーい、魔央、俺と実践訓練してくれるかい、本気でやれるの魔央だけだしね」
俺に声をかけてきたのは天野だった、天野は男子、女子問わず人気がありリーダーシップに優れていた、クラスの委員長も務めている秀才だ。そんな天野の女神の力は聖剣、何もない空間に手を出して魔力を集中すると魔力の剣を出すという力。
凄まじい攻撃力で、更に剣の素人の自分でも軽々振れると言っていた。
俺は天野の提案に頷き木刀を構える、両刃ではなく片刃の物で少し細い、あれから作ってもらった木刀の一つだ、使いやすい形の方が戦いやすいと。
実践でも同じような武器が欲しいと言っておいたので早い内に出来た物が来るだろう
「聖剣が魔央に当たって消えたら俺の勝ち、魔央の木刀が俺に触れたら俺の負け、いいか? そんじゃぁ行くぞ、勝負!」
天野が剣を振りかぶり走って来る、天野は転移前は陸上部でエース級だったと話していた。そのためスピードはかなりのもの、しかし真正面から来る剣くらい軽く避けれる。少し半身に体をずらし、その剣を避けるその後のパターンも知っている。
すぐに剣を胴を狙いすまして横に払ってくる。これを後ろに飛びのき回避。
ここからのパターンも知っている、そのまま振りぬき一回転したのち投げてくる。
木刀で払いのけ……来ない、別の何かを仕掛けてくるか!?
「いつもと同じパターンじゃやられるからね、秘技、回転突撃切りだ!」
そのまま一回転だけじゃなく何回も回転しながらこちらに猛突進。
これは木刀で防いだら木刀が不味い、読み切れなかった俺の負けか。
腕を前にして聖剣を受け止める、聖剣は光の粒子になって霧散する。
これが俺の女神の力、魔力ゼロ、魔力の塊の聖剣じゃ一切傷はつかないのである。
「ど、どうかな? 新しい秘技は、自分では行けると思うんだけど」
目を回してしまったのか頭を押さえてくらくらしている。
とりあえず、その状態になるようなら使わない方がいいと思う。
ただ、遠心力で威力を上げるのは悪くない、やり方さえ変えればだが。
「おっけい、助言サンキュー、お互い頑張ろう、それじゃ」
天野はそれだけ言うと、他の集団に交じって訓練を始める。
必殺技や奥義はまぁRPGとかだと憧れの一つだよな。だがここはそういう世界じゃないんだ、俺だけで言えば必要なのはそういった大技じゃなくて敵に攻撃を当てるという事、魔獣に対して絶対に優位が取れるのだ、一回で決めれるレベルまで基礎基本を極める。それさえできれば必ずや楽勝が保証されるはず。
その日は夢中になり過ぎて日が暮れても振り続けていた。
おかげでお湯はすっかり冷めきってしまっていた、メイドさんに申し訳ない。
「今日は休養日とする、お金を渡すので、存分に町で心と体を癒すように」
ここにきて一週間、俺達に休養日として一日自由を言い渡されお金をもらった。
この世界の数の数え方は十進法、まぁ俺達の世界で使われたものと同じだ。
これが十六進法だとか、よもや二進法だなんていわれたら発狂ものだ。
貨幣は紙幣が採用されていた。渡されたのは2000ジル、ジルがこの国での通貨の通称のようだ。ちなみにこの額は子供の小遣いとしてはお高い。ちょっとお高い喫茶店でお茶したら無くなるくらい。さて、俺はというと…………
「魔央様、今日は休養日でございますが、街に出ないので?」
中庭で剣を振るっていた、みかねて世話係を務めるメイドが訪ねてくる。
街に行って、トイレに行きたくなったときいちいち手伝いさんに世話をされる姿を見せてみろ、女神の勇者は一人でトイレも出来ないと噂されかねん、沽券に関わる。
メイドにそれを言うのは何とも情けない話なので、別にと素っ気なく返しておく。
今の俺に出来る事はこの王城の中、ひたすらに基礎基本を学び訓練を積むことだ。
「おや、魔央殿は休養日にも訓練でございますか! よろしければお相手でもしましょうか、普段は見てやれませんからな!」
素振りをしていた俺の下にいつも俺達の訓練を見守ってくれる騎士の一人が顔を出す、いつもは相手できないから今日だけでもという申し出に俺は是非ともと剣を構える、他者との試合に勝る訓練は無い、いざ!
「年季が違いますからな、しかし良い腕でしたよ、いい剣士になれる」
まったくといって歯が立たないさすがは現役の騎士といったところだろう。
センスはあるようで褒めてくれるので息も絶え絶えに礼を言う。
これ以上の訓練はしても無駄だ、体力がもたない、メイドさんに風呂を沸かしてもらい入り、部屋で大人しくしていることに、何もしないのはヒマなのでラジオでもかける、この世界、テレビは無いがラジオはある。伝達魔法という魔法を利用し
各地に立っている魔力塔というものでその魔法を吸収、増幅してラジオにその魔法で言葉を届けている。ほぼ電波とやってることは変わらない、テレビが出来る日もそう遠くは無いかもな。
ラジオからは元気な声が響いてくる。その元気な声が明日の天気や最近の流行りも伝えてくれる。といっても、今の俺は流行りを気にする事もないわけだが。
「えっと、最後にいつもの異世界からの女神の勇者情報をお伝えするよ!」
「今日ご紹介するのは清孝魔央さん! なんと魔力が無いという能力を持ってるよ」
「え!? それって生活大変じゃない? 魔力が無いと魔動製品動かせないもん」
「うーん、そこんところどうなんだろうね! でも、魔力が無いなら魔獣の魔法や感知にひっかからないからきっと活躍間違いなしだよ!」
ここ最近の人気コーナーである異世界人の紹介コーナーで紹介される。
おい、そこんところはオンエアするなよ、いや、これ生放送なんだ。
収録技術なんかは発展してないので、基本生放送がこの国のラジオ。
やめてくれ、俺の紹介はやめてくれよ、国としては国民に周知してもらい。
その活躍や強さで士気や気運を高めたいのだろうが。
紹介される側はたまったもんじゃないな、これ。
聞いていられないのでラジオをその場で切ってしまい、眠りにつく。
この世界に来てから訓練、食事、寝る以外していないな。
そしてそんな生活が1か月も経った頃、俺達はとうとう魔獣を戦う事になる。
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