おもちゃと少年
ぬゑ
おもちゃと少年
子供の頃は、おもちゃ同士を戦わせて遊んでいた。
もちろんおもちゃは動かない。だから両手に一つずつ持って、戦いを妄想する。
バキューン! バキューン! やったなこのやろう!
傍から見れば、その場に座って、フィギュアとかを両手に持って、一人ぶつぶつと小声で呟いているだけに見えただろう。実際両親は言っている。当時は、甚く心配していたそうだ。夜になれば一人部屋の片隅で、テレビで放送されていたアニメなんかも全く興味を示さず、人形遊びに耽っていたからである。
でも覚えている。
確かにただの畳の上ではあった。
手にするおもちゃも、お世辞にも精巧とは言えないようなガチャガチャやお菓子の景品である。
それでも、そこには無限の世界があった。
固まった腕から繰り出されるパンチ。直立不動の足から放たれるキック。そして、開きっぱなしの口から迸る波動。正義と悪の戦い。裏切りと協力、勝利と敗北……。
僕にとっては、テレビよりも、マンガよりも、ゲームよりも、その世界の方が魅力があった。魅力しかなかった。
しかしながら、年と共にそんな遊びもしなくなり、興味は有形なものに変わる。
マンガやゲーム、映画、テレビ。娯楽は溢れ、光を放ち、滑らかに動く。もちろんそこにも世界はある。それぞれの世界を見学し、或いは入り込むような、体験型アトラクションとも言える世界。
それが当たり前になって、それだけに興味を注ぎ、年を重ねていった。
そんなある日、ふと実家の片隅で埃を被るおもちゃを見つけた。
それは、当時流行っていたガチャガチャのおもちゃ。僕の中のヒーローだった。
懐かしさが漂う中で、自分で言うのも何だか、子供の時の自分に感心した。
完成された造形。
そこから産み出される無限の想像の世界。空想の物語。未来。戦い。友情。
今それをしろと言われても、恥ずかしくてとても出来ない。それは成長と呼ばれるものなのかもしれないが、或いは劣化の一つなのかもしれない。
でも、あの頃の自分は他人じゃない。今の自分の過去であり、自分の一部。
誰かが作った妄想の中で満足している自分を、子供の自分が鼻で笑っている気がした。
だから僕は小説を書いています。
子供の頃の無限の想像には及ばずとも、彼に負けないように。
妄想と想像を、絞り出しながら。
僕の中の無限の世界は、今も続いています。
おもちゃと少年 ぬゑ @inohirakai
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