第7章 -19『王位進撃①~眼~』
「ノォーフューチャァァアアア!!!!」
先ほどまではランダムに周囲に散らばるばかりだったそれが、今度は明確に攻撃の意思を持って迫る。
「散開ッ!!!」
レオンの号令に合わせて全員がバラバラの方向に動き、電撃を回避する。
そのまま各々に動き出すメンバーへ、レオンは指示を飛ばす。
「それぞれオルカを目指そう!!!
先着した一名が自由に殴り飛ばして良し!!!」
ただし、あくまで連携は忘れずに!!!」
「了解しました、副隊長」
「レックスもそれでいい!?」
『あァ、文句も余裕もねェ!!・・・取り舵40、左舷に防御砲火ァ!!』
見れば、レックスは防戦に徹している。あるいは攻撃に転じる隙がないのか。
いずれにせよ、あまり長く持ち堪えられる戦いではない。それほどまでに
並みの巨魚ならば浴びて粉々の肉片になっていておかしくない砲火を、かすらせもせずに搔い潜り、レックスが防いでいるとはいえ飛び掛かって攻撃を仕掛けている。
リネットは、隙さえあればその場からでも織火を撃つことができる。
優先順位を、織火より味方のサポートに設定した。
平時であれば恐らく狙えないだろうが、今は砲火を避けているおかげで、狙撃する隙は時おり見えている。リネットは慎重にトリガーを絞り、
『———教えたはずですよ、リネット。
同じ手を持つ敵は、必ず同じ考えに至るものだと』
「―――ッ!」
咄嗟、リネットは瞬間的に高度を上げ、『ポルターガイスト』を自身を囲うようにぐるりと展開した―――が、ほんの一瞬だけ遅かった。
配置の隙間を縫うように、リネットの脇腹を何かが霞め、空中に血を散らした。
「ぃ、あッ!」
それは、水だ。まるで糸のように細い、水のレーザー。
うっすらとオレンジ色のパルスが乗ったそれは、静かで、そして何よりも鋭い。
「くぅ・・・ッ!!」
脇腹を削って照射され続けるレーザーから離れるべく、リネットは、急速に飛行の出力を高めてその場を逃れる。
直線的な軌道のレーザーは、その場を離れてしまえば単なる一本の線に過ぎない。
『無駄です』
———そのレーザーが水でなく、相手が只者であれば、の話だ。
人間の頭ほどのサイズの、オレンジ色の真珠が飛来し、レーザーの軌道に近寄る。
真珠が光を強めると同時、ぐにゃりとレーザーは湾曲し、リネットに向けて急激にその進路を変更した。目指すのは狙撃の要、ライフルを支える右手。
狙いに気付いたリネットはぐるりと体を反転、かわりに左の肩を差し出した。
レーザーが肩を貫通し、糸のような細い穴を穿つ。太い血管を避けたのか、出血はあまり多くはないが・・・このままレーザーを首の方へずらすだけで、リネットは首を失ってたやすく死ぬ。
自分のパルスを流し込んでレーザーの動きを堰き止め、首とは逆方向、肩の外側に向けて無理矢理レーザーを引き抜く。肩がばっくりと裂け、血が大量にこぼれた。
「ぎぃぐぁああああ・・・ッ!!」
耐え難い激痛とショック、生理的な混乱と恐怖がリネットを襲う。
それでも視界を切り替え、敵の狙撃手の―――自らの師のパルスを探す。
だが、どこにもありはしない。
いや―――確かにある。それは存在している。
存在しないのは・・・その距離にある物体を視認できる眼の方だ。
狙撃手・・・
リネットの、いや、人間の視力では決して届かない場所、遥かな
そして・・・その場所から
『フフフ・・・さて、私は遊び相手を見つけたけれど。
あの欲張りなひとは、満足のいく相手に出会えるかしら?』
「―――ウチもだいぶ背が伸びたつもりだったけどさ」
チャナは、構えを取ったまま動けない。今や頭には織火のことすらない。
ただ、目前にそびえる質量の挙動を決して読み違わないよう、全神経を集中する。
それができなければ―――死ぬ。
「アンタ・・・でっかいねぇ」
「フン。図体など技や力の前には何の頼りにもならん。
俺の見立てでは、貴様が一番そういうことを分かっていそうだがな」
「そりゃどうも・・・」
相対するは、真紅の巨漢。血潮に狂う闘争の王。
「死合え、女。我が王道は闘争あるのみ」
稲光の逆光が、シルエットを闇に染め。
再び彩が戻ったとき、その全身は世界最硬の殻に覆われていた。
≪続≫
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます