第7章 -7『カウントダウンは続くから』
———そして。
「・・・これにて結審だ、
「グファファ・・・ここ以外の手勢も引いて帰るがいい・・・」
戦いは、決着した。
『ぬぅ、ううう・・・ッ!』
魚の頭が憎らしげに声を上げる。
それは集合体ではない、単体の頭蓋骨。
もう巨大な構造を組み上げるだけの骨は残っていなかった。
あたり一面に転がるのは、もはや骨としての原型を留めぬ破片ばかり。
幾重にも幾重にも切り裂かれ、乳白色の断面を晒す。
『・・・ク、クカカッ・・・まっこと素直に不覚の極みよ。
付け入る隙がないとはこのことか』
「これは相性の問題だ、無色の王よ。
このカードでは何度繰り返してもこうなる。
俺たちは・・・俺は、スピード以外の要素に負けるつもりはない」
『スピード・・・』
スピード、という言葉が何者を指すのか。
速さだけを武器に、何匹もの強力な巨魚を屠ってきた少年。
『———御神、織火か』
「どうかな。はっきりと返答するつもりはないぞ」
『カカカッ、御神織火。クッ、カカッ、カカカ!
そうかそうか!カーカッカッカ!』
明らかに、過剰な反応だ。ただ敵ひとりの名前でこうはなるまい。
間違いなく何かを知っている。
「・・・何がおかしい?」
『はっきり答えるつもりはないわい。カッカッカ!』
「チッ・・・」
『とはいえ気持ちは分からなくもない。
なにせ―――肝心な部分が見れないんだからのぅ!』
「何ッ・・・!?」
肝心な部分。
何を言っているか、ジャッジはすぐに理解した。
その事実を見つけ出したのは外ならぬジャッジ本人なのだから。
「暴走事件のことを言っているのか・・・!」
『さてどうかのう。
しかし負けてだんまりもかえって腹が収まらぬの。
ひとつだけ言い残してやろう!』
頭蓋から、パルスが引いていく気配がする。
それと反比例するように、いっそう声は大きくなった。
『六日じゃ。きっかり六日の後。
ワシらは、またこの場所を攻める。今度はより確実にじゃ』
「信じる根拠がどこにある」
『なければ備えを怠り死ぬだけじゃ。
もちろんその方がありがたいがの!カカカ、忘れよこの話は!』
「チ・・・」
『ではのう!またのう!カーーーカカカカカ!!』
最後に不愉快な音をがたがたと立て・・・見えざるパルスが剥がれた頭蓋は、重力を思い出したかのように、地面に落ちて壊れた。
遠くの戦いの音も、次第に小さくなっていくのが分かった。
今回は引いたと考えてよいだろう―――今回は。
「六日。六日か」
〈さて・・・いまのおれたちに、これが多いか少ないか〉
「・・・少ないさ。時間なんてのは、常に足りないもんだ。
足りさせる努力をするしかないだろうな」
〈そうさな・・・あァ、そうだろう。
時間は、確かにいくらあっても―――〉
遮るように、ジャッジが低くうめき、咳き込む。
数度、苦し気に息を吐いて―――途端、冷え込むような静寂が訪れる。
ジャッジが―――真川春太郎が、マスクを脱ぐ。
影の中に潜みながら・・・
〈お前が、おれに喰われて死ぬまでには〉
その口からは。
灰色の血が、だらだらと流れて、顎を汚している。
〈・・・足りはしないのだろうさ〉
襲撃が終わっても、次の襲撃が迫っている。
危機を脱しても、次の危機に繋がっている。
カウントダウンは―――とっくの前に、始まっていた。
≪続≫
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