第6章 -24『N-REX』


「そぉらァアアッ!!」


 顔面に迫る鋼鉄の爪を、オリヴァーは上体を反らして回避した。

 まだ反撃には出られない。次の一撃が来る。


「ハハハ、避けてばっかか!?

 いつまで続くんだその大道芸はよォ!!」


 高い位置から叩きつけるように二撃、三撃と振り下ろされる爪。

 わずかに体幹が揺らぐ瞬間を見逃さず、オリヴァーは回し蹴りを放って迎撃。

 腕を弾いてバランスを崩すと同時、わずかに爪の届かない距離にバックステップ。

 

「そこだッ!!」


 ジャイアントアンカーを水平に構えて刺突。

 手加減なし、正確に首を目掛けて空を割く超重量の鋼鉄。

 間もなくそれは眼前の敵を粉砕できる距離まで突き出され、


「———『妖精の矢』」

「ぐぅ!?」


 ・・・そこで止まった。

 上下からジャイアントアンカーを挟み込むように飛来する無数の矢は、その勢いを完全に殺し、停止させてしまう。

 矢はすぐに金の砂になって散り、離れた位置にまた矢の形状で配置される。

 無尽蔵、自由自在の援護射撃。そして始まる鉄の進撃。 


(クソ・・・!付け入る隙がねえ・・・!)

「おいおい・・・もうちょっと頑張ってくれよ、デカブツ・・・!

 練習にならねェだろうが、ああ・・・!?」


 オリヴァーは、その姿を改めて見て、鼻で笑いを吐いた。


「・・・なんともずいぶんな姿だな、脚の王レッグス・・・!

 ばっか改造してガチャガチャ身に着けやがって・・・!」


 ———オリヴァーの表現は正しい。

 ヘッドギア、スーツ、両腕のクロー、肩や腰にマウントされている武装、ブーツに至るまで・・・身に着けているのは戦隊メンバーが以前使用していた装備、またはその試作品だ。

 だが、シルエットはやや異なる。追加装甲を施された各部位は全体的に大型化し、末端に行くにつれ膨らみを持っている。特にブーツが顕著で、膝をガードする装甲がふともも全体を覆い隠すばかりの大きさだ。


「アニメのロボット怪獣でも出たかと思ったぜ・・・!」

「・・・怪獣?」


 ———オリヴァーの表現は、正しい。

 巨大な爪と頑強な脚を備えたシルエットは、人や魚というより爬虫類を思わせる。

 ・・・違っているのは、言葉選びだ。


「———怪獣じゃないし、脚の王レッグスじゃない」

「あ?」

「色々としがらみが下らなくなってきたんでね。

 そういう名前はぜんぶ捨てることにしたんだ」


 語る手から黒い泥が湧き上がる。 




「俺はもう、六人のうちのひとりじゃない。

 この世にカテゴライズされない存在になる」 


 不揃いな色をしていた装備のすべてが、漆黒の泥にコーティングされていく。

 そのコーティングの表面から、逆立つような刃が浮かぶ。

 

 それが顔を覆い、腰から尾を生やすに至り、そのシルエットは―――


「もはや人でも魚でもない。

 この世で唯一のレックス。ただ一匹の恐竜レックス


 ———漆黒の竜と呼ぶに相応しいものになっていた。






「『海王ネプチューンレックス』。

 ———これからはそう呼ばせるし、呼ぼうとしない奴はブッ殺す」


 




 オリヴァーは確かな威圧感を覚え、無意識に防御の姿勢を取る。

 そこに牙剥く漆黒の竜が体をぶつけるのは、全くの同時だった。


                              ≪続≫

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