第6章 -05『北極上陸戦③~ラーニング・スキル~』
「向こうは始めたみたいだな・・・第一段階はひとまずOKか」
輸送機の中、眼下で群れとぶつかるマーズ部隊を見下ろしながら、オリヴァーたちグランフリート戦隊は降下に向け準備を始めた。
北極中心部、『グレイヴヤード』と呼ばれる唯一の有人施設。
北極で生きる全ての者・・・望んで残る者と、出られなくなった者が集まるこの砦にデア・ヴェントゥスが到達することが、今回の作戦の目的だ。
巨魚討伐がメイン目標ではないため、マーズ隊が効果地点から離れた場所に群れをおびき寄せ、安全に海面に降りる手筈になっている。
・・・しかし、この作戦にはリスクもある。
ひとつ、万が一マーズ隊が崩れた場合、より巨大な群れに背後から襲われる。
もうひとつは、北極の生存競争の激しさだ。
群れの匂いが強くなれば、それを喰らおうとさらに強大な群れが来る。
これが繰り返されればどんな大物を相手にさせられるか分からない。
倒すことはできても、目標地点への到達は難しくなるだろう。
この事態を避けるため、降下時の動きは三段階に分けられた。
第一段階———まず降下地点の安全確保のためにマーズ隊が巨魚の目を集める。
第二段階———降下後、少人数の囮で、マーズが集めた群れを複数に分断する。
第三段階―――分断された群れのうち、進路上の敵だけメイン部隊が対応する。
第一段階は順調に推移している。
そして、第二段階を担当するのが―――
「出走だ、オルカ」
「うす」
この少人数の囮・・・御神織火、総員一名だ。
「だいじょぶ?オルカ」
「危なくなったらちゃんと逃げる・・・だろ。
ちゃんと分かってるよ、また軍人サンに怒られたくないし」
「うむ!!!
作戦上の無茶をさせておいてアレだが、その通り!!!
あくまで囮をしてくれればいいぞ!!!」
「声がでかい」
織火のスピードはこの役割を務めるのに最適であり・・・同時に織火のスピード感で同じ役割を担当できる者はグランフリートにはいない。
正しくはフィンが可能だが、デアの防衛を考えれば護衛部隊に残るべきだと本人が判断したため、こういった分担になった。
「オルカ、バトルアームⅡの調子はどうだ」
離れた場所に待機しているデアから、ドクターが通信に入ってくる。
言われて織火は、右腕を胸の前に掲げて見つめた。
これまで付けていた義手とは細部が異なっている。
肘から手首にかけてを包む、先細りの花瓶のような形のアタッチメント。
掌の中心には、ウェアの胸にあるものと同じ水晶状の装置が埋め込まれている。
「違和感は全くないし、これまでより軽い。
その分アタッチメントはちょっと重く感じるかも」
「そうか・・・そのあたりは今後改良する。
こちらでもモニターはするが、異常があればすぐ言え。
お前にしか判別不能の変化があるかもしれんからな」
「了解」
アラームが鳴り、運転手が手でゴーサインをかける。時間だ。
「じゃ、ちょっと走ってきます・・・!」
「おう、頼むぜ」
輸送機下部のハッチが開かれ、滑走路が展開。
斜め下を向く滑走路に、水が流される。
織火はジェットを吹かし加速。同時、水に向けて足裏からパルスを流し込む。
「用意・・・」
滑走路の端に到達するかしないか、そのギリギリの地点。
水を蹴って飛ぶと同時に、パルスの作用を完成させる。
「・・・スタートッ!!」
落ちる水が千々に弾け、次々に水滴に変化する。
海面まで続く『ゾディアック・ゾーン』だ。
真っすぐに急降下しながらも、時折、水滴を蹴って軌道を変える。
そこを地上からの攻撃がかすめる。
パルスを使ったものではない。圧縮した水のレーザーだ。
「〈マズルローダー〉か、ソーラー施設以来だな!」
見知った巨魚だが、以前見たときとは射程距離も威力も桁が違う。
分かりやすい形で北極の脅威を実感したところで、水面が近付く。
織火は腰にマウントしていた、シリンダーのような装備を手に取った。
同時に、掌にパルスを集める。掌を通じて、シリンダー内部に溜まっていく。
集中砲火をかけるべく〈マズルローダー〉が集まってくるのが見えた。
「志乃アラタ直伝、『スプリット・スピン』!」
射撃の雨。
左右にずらした噴射で体に回転をかけつつ、水滴を蹴ってそれらをやりすごす。
「そしてこっちも、直伝のっ!」
そのまま回転を整え、力の方向を目標に向ける。
「『ラビットレイル・ライオット』ッ!!」
全力で投擲。ファウンテンドッジ式のスマッシュ・スロー。
掌のパルスで加速したシリンダーは、群がる〈マズルローダー〉の数匹を撃ち抜きながら、その中心に落ちる。
一瞬の間を置いて、光が溢れる。
「爆発するぜ、それ」
パルスの炸裂弾がはじけ、群れを消し飛ばす。
軽く空中回転を交えながら、ちょうどその地点に着水。
ほんの少しだけ息を整え、即座に足にパルスをチャージ。
炸裂したパルスの残り香は、リカルド達が押している群れから一定数を織火の方へおびきよせた。水音が迫る。
「こっからはフルマラソンか・・・上等だ!
練習の成果、お前ら相手に見せてやるぞ・・・!」
スピードスター点火。
右腕に眠る獰猛な機能が、ぎりりと鉄の歯をきしませていた。
≪続≫
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