第5章 -6『VS〈ベルリン・ノースコロニー〉①』
「ノエミ、敵の数は」
『水上で40前後、大部分は〈ドラッヒェ〉の群れッス。
水中には・・・小物15匹程度、そして大物が2匹。種類はちょいとお待ちを』
「けん制しつつ着水する。
リネット、倒し漏れたものは任せるよ」
「了解」
レオンは落下しつつ、腰のホルスターから武器を取り出す。
ひとつは小型の爆弾。もうひとつはブラスターだが、形状が微妙に異なる。
まず爆弾をバラまくと、ブラスターを両手で胸前に構える。
「ブラスターⅡのデビュー戦だ・・・しっかりデータを取らせてもらうぞ!」
レオンはトリガーに指をかけると、そこにパルスを集中させた。
トリガーからライトラインを通じて、砲身にパルスが充填されていく。
「
青いマズル・フラッシュ。
ビー玉サイズ程度に圧縮されたパルスが、弾丸を媒介にせず発射される。
織火のアームキャノンのノウハウにより実現した、パルスの直接発射機構だ。
立て続けに3発。ちょうど水面に落ちた爆弾に引火、爆発。
数匹を消し飛ばし、退避した群れの中心に穴が開く。
「エントリー!」
空中でゆるく回転しながら、飛び込みの姿勢を取る。
最小限の衝撃で水中に滑り込むと、直後、しなるムチのようなものが背中と右側面を同時にかすめる。
スクリューブーツを回して緊急回避。バイザーの暗視モードをオンにする。
「・・・砂の中か・・・?ノエミ、拾えるか」
『ちょうど見つけたッスよ~。
〈クラップ・ナップ〉がいるッスね。アンボイナガイの巨魚ッス。
しなる触手が武器の下位種族ッスが・・・移動能力はすげぇ低いッス。
こんな近海にいるはずないんスけどねぇ?』
「これを運んできたものがいる可能性が高いな。
大物の反応は?」
『海底付近をゆっくり移動中・・・警戒するッスよ』
「了解・・・だッ!」
言い終わるや否や、左右から飛んできたムチを身を逸らして回避。
続けてさらに4本、四方八方から迫るムチを巧みな泳ぎでやり過ごす。
動きながらレオンの視線は、砂の中に身を隠していた〈クラップ・ナップ〉が数匹這い出てくるのを認めた。
ブラスターⅡは実弾ではないため水中でも使えるが、拡散によって威力が落ちる。
硬い殻を持つ貝タイプの巨魚には有効とは言えない。
・・・かといって、この立体攻撃を掻い潜って海底に近付くのも得策ではない。
さらなる伏兵が砂に潜んでいない保証はないからだ。
こういうときはどうすればいいか。
「―――システム・スタンバイ」
レオンは、ベルトの両脇、新装備のスイッチ・レバーに手をかけた。
レオンが戦隊に入って見出した戦闘スタイルは、いわゆるレスリングだ。
近付き、組み、打ち、そして逃がさず、一撃のパワーで仕留める。
織火やリネットと自身を比較し、出した結論がそれだった。
しかし、このスタイルには大きな問題がある。
全くシンプルな問題だが、『どう近付くか』ということだ。
今回の状況はいいサンプルケースだろう。
近付くのは危険だが、離れていては有効な武器がない。
こういった状況でいかに自分のスタイルに持ち込むか、これが課題だった。
―――さて。
ここで、レオナルド・ダウソンという男について少し説明しよう。
表に出ている言葉や態度は、実直な軍人といったイメージを周囲に与える。
実際、それは完全に間違いではない。
軍人はかくあるべしという規範のようなものは確かにレオンの中にあり、それにのっとって振る舞っている部分はある。
だが、この男の本質、根本の部分は異なる。
簡潔に言い表すならば―――レオンは、『ずるい』人物と言える。
目的に対する手段や道筋を、なるべく簡単に、楽にしようとする。
そして、それを大っぴらにすることはない。
頑張っているような雰囲気で、なるべくなら頑張らない。
それが、レオナルド・ダウソンの基本的な考え方だ。
課題が持ち上がったとき、レオンは最初、移動手段を強化しようと考えた。
より強いスクリューであるとか、別の推進システムであるとか、そういったものが手に入れば現状は解決される。
しかし、そういった装備は習熟に時間がかかる。
レオンは、パルスと付き合いの長い男だ。パルスで泳ぐのがうまいのであって、泳ぎ自体が得意とは言えず、スクリューも習得には相応の時間を要した。
そこで。レオナルド・ダウソンは、ふと気付いた。
全ての問題をねじ伏せて、なおかつ、楽ができる方法があることに。
・・・・・・・・・・・・『どうして僕が行く必要があるんだ』、と。
「―――引き寄せろッ!!『サターン・リング』!!」
レバーを後ろに引き倒す。
バックル部の中央のカバーが開くと、スクリューが回転。
みるみるうちにそれは水流を生み、その規模を拡大し―――やがて巨大な渦潮が、潜んでいる砂ごと〈クラップ・ナップ〉を巻き上げる―――!
・・・近付けないなら、向こうを呼ぶ。
輪を作る
それが、今回レオンがドクターにリクエストした『ズルい方法』だった。
だが当然、引き寄せて終わりではない。
至近に迫った〈クラップ・ナップ〉は慌てて全力の抵抗を試みる。
近いものから順に、半狂乱でムチを振り回す。その数発が周囲を泳ぐ群れの個体を誤って打つが、意に介さない。レオンにとっても好都合だった。
「新装備はこれだけじゃないぞ・・・!」
最も近い〈クラップ・ナップ〉のムチを右手で掴み取ると、思い切り自分の方へと引き寄せる。
同時に、左手首のスクリューが轟音を立てて動き始める。
「『タイタニック―――」
弓を引き絞るように、回転の生む推進力を、腕力で押し留める。
射程圏内まで引き寄せられた〈クラップ・ナップ〉は、反射的に殻を閉じる。
そしてレオンは、そのパワーを解き放った。
「―――ハンマー』ッ!!!!」
―――まさしく粉砕。
レオンの拳は殻を割るどころか、殻ごと本体を突き破り、向こう側へ貫通。
そして全てはその勢いのまま、バラバラになって水底へと吹き飛んでいった。
どっしりと腰を落とし、レスラー・スタイル。
両腕・両脚・そして丹田のスクリューが威圧的に回転する。
「さあッ!!どんどん来いッ!!
この水中のどこに潜んでも、ぼくから逃げる術はないと思えッ!!」
≪続≫
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